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第8話 友を妹を安心させることには成功する

 シャルルはげんなりとしていた。それもこれも国王ザハールのせいである。王都で出迎えられたシャルルたちだったが、これでもかと盛大にされてしまったのだ。  それもうパレードのようで道行く人々から「ようこそお越しいただきました!」、「|豊穣《ほうじょう》龍様に感謝を!」と声援が飛ぶ。  ご結婚おめでとうございますなどといった声もかけられて、シャルルは恥ずかしかった。  エドゥアールヴァレットやウーリン、ヤーヘンは特に気にしている様子はなかったが、シャルルは羞恥を堪えるのに必死だったのだ。  王城へと入ればどこから聞きつけたのか、お偉い様方が挨拶にやってきては、へこへこと頭を下げていく。この挨拶だけでかなり時間を費やした。  その中に父はいなかったが、公の場にクオンタール家は出ないのが決まりだ。  暗殺一族であるクオンタール家は影のような存在。表では通常の業務を任されているが、裏の顔を見せないように余程、重要な式典でない限りで出てくることはない。なので、違和感というのは抱かなかった。  お偉い方の挨拶を暇そうに眺めて暫く、やっとそれも終わって国王とエドゥアールヴァレットが挨拶を交わしているところだ。  早く妹とユリウスに会いたい、この堅苦しい場に居たくないとシャルルはげんなりとしている。 「あのさ。俺だけ先に妹と友人に会ってきていいかな」  護衛ならウーリンとヤーヘンがいるし、王城内なのだから兵士たちもいる。国王はまだ豊穣龍と話がしたいようだしとシャルルが提案する。  もっともらしいことを言っているが、この場に長居をしたくないだけである。けれど、エドゥアールヴァレットは「早く会いたいか」と納得したように頷いた。 「私はもう少し国王と話をしよう。ウーリン、ヤーヘン、シャルルを守るように」 「承知いたしました」  びしりと背筋を伸ばして返事をするウーリンとヤーヘンに、主従関係がしっかりしているなとシャルルは感心しつつ、二人と共に妹たちが待っている応接室へと向かった。  案内する兵士はガッチガチに固まっていて、ぎこちなくかなり緊張しているのが見て取れた。  まぁ、神の番だもんなとシャルルは彼らの反応に納得する。下手なことをすれば神罰が下るかもしれないとなると、緊張もするだろうと。  通された部屋はこれでもかと豪奢に飾られたなんとも言えない内装をしていた。豊穣龍が訪れることも考えて、この金銀煌びやかな調度品と家具で整えられた部屋を選んだのだろう。  けれど、シャルルは見栄を張っているようにしか見えないし、目が痛い。そんな室内のソファに妹のリリアーヌとユリウスは座っていた、他の男たちも一緒に。  固そうな短い黒髪を上げて、正装に身を包む男前な青年は公爵令息のハルロットだ。それから隣にいる金糸の長い髪を一つに結っている、これまた美形な青年はリヴァス王子である。死に戻ったシャルルからすれば、会いたくない人物だった。  リヴァス王子がユリウスを助けたことで自分は死ぬことになったのだから、会いたくないと思うのは仕方ないことだ。  どうして彼らも一緒なのだろうかとは思ったけれど、ユリウスに着いてきたのだろう。彼らはユリウスに好意を寄せているのだから。  リヴァスは自分が王子であるので何を言われても、もっともらしいことを言って乗り切るつもりだ。二人の視線はどこか警戒している様子で、もしかしたらシャルルがユリウスを狙っていると思われているのかもしれない。 (まぁ、二人をからかったことはあるけどさ。根に持つのもどうなんだろうね……。それに今の俺は神龍の番なんだけどなぁ)  二人をからかうためにその気があるようにユリウスに近づいたことはある。けれど、今はやることもやってるんだよ、こっちはとシャルルは言ってやりたかった。  が、それはそれで恥ずかしいのでやめておく。にこりと笑みを張り付けてシャルルは声をかけた。 「リリアーヌ、ユリウス久しぶり」 「お兄様!」 「シャルル!」  リリアーヌはシャルルを見て今にも泣きそうに顔を歪めて抱き着いてきた。お兄様、よかったと縋る彼女にシャルルはよしよしと頭を撫でてやる。  ユリウスはソファから立ち上がって「大丈夫だったの?」と心配そうな顔を向けてきた。 「まぁ。大丈夫だよ。旦那様は俺には優しいからね」 「旦那様だとよ、本当に彼の神龍様の番になったのか」  じとりと見遣りながらハルロットが立ち上がる。まだ警戒されているなとシャルルは面倒くさげにしながらも「そうだけど」と返した。 「嘘をつくわけがないだろ。そもそも豊穣龍様は嘘が嫌いだ、知ってるだろう?」 「そうだけれど、信じられない気持ちも分かるはずだが?」  今度はリヴァスが言う、あの神龍様が人間を選んだのだからと。信じられない気持ちは分かる、自分でも未だに実感はないのだから。  だからといって、そう警戒心を出されはシャルルも困るのだ。自分を守る二人の|僕《しもべ》が目を光らせているのが横目に見えて。 「そう警戒されても困るんだよね。俺は豊穣龍様の番なわけ。あんまりそういった態度をされると彼の|僕《しもべ》が動いちゃうんだよ」  ちらりと後ろに目を遣ってみせれば、そこには一歩、下がっているけれど手にした槍と剣をいつでも扱えるように構えているウーリンとヤーヘンが立っていた。  二人は豊穣龍の忠実なる僕である、慕う神の番を無碍に扱えば、許すことはない。  喧嘩がしたくて此処に来たわけではない。友人が酷い目に合うのを見たいわけでもないのだからと、シャルルは「落ち着てくれるよね?」と二人に圧をかけた。  ウーリンとヤーヘンの隙の無い構えにハルロットは小さく舌打ちをし、リヴァスは納得したように頷いた。二人から警戒心が解けたところで、シャルルはユリウスに「ちゃんと叱っといてよ」と指をさす。 「こっちは心配をかけてしまったリリアーヌとユリウスに謝りに来ただけなんだから」 「ご、ごめん。僕からも二人にきつく言っておくよ」  二人の態度が失礼だったことにユリウスは申し訳ないと謝った。分かればいいよと返して抱きつくリリアーヌの頭を撫でる。 「リリアーヌ、大丈夫だったか?」 「大丈夫よ! お父様には私、嫌われてるからお話なんてしてないもの。あぁ、他のお兄様たちも大丈夫、心配はしていたけれどね。今日は私だけ招待されたことになってるの」  暗殺者の素質がないリリアーヌに父は興味がないのは変わらないようだ。ユリウスと親しくしていても、暗殺の失敗を恐れて彼女を利用するのは控えているのだろう。  暗殺技術を持っていないリリアーヌでは無理だと判断するのは正しい。シャルルは妹の無事に安堵しつつ、ユリウスに「心配かけたね」と謝る。 「ほんとだよ。どれだけ心配したことか!」 「でも、ほら。無事だっただろ?」 「それは番になれたからでしょ!」  そうじゃなかったら、今頃はどうなっていたか分からないとユリウスに指摘されて、それはそうだとシャルルは頷く。  よく選ばれたものだよね、なんてなんでもないように口にすれば、どうしてそうなったんだとハルロットに問われた。 「ただ、質問に答えただけなんだ。それが見てきた人間と違っていたから気に入ったらしいよ? 俺にはよく分からないけどね」  躾けられた犬のような贄と、へこへこ頭を下げる人間たちしかいなかったから、俺みたいに飄々と答えたやつは新鮮だったのかもね。とシャルルはよく分からないね、と笑う。 「神様の考えは分からないよ」 「それはそうだ。人間の好みとはまた違うだろうからね」 「納得はできねぇけどな」 「リヴァス王子の言う通り、人間の好みとは違うんだろうさ。俺だってよく分かってないからね」  あれのどこに興味が惹かれたのか、面白いと感じられたのか。シャルルにはよく分からなかったけれど、気に入ったと彼が言うならば、そうなのだろう。  なので、番になった理由は本人に直接、聞いてくれとシャルルは言って話を終わらせる。 「ユリウスは変わりない感じかい?」 「そうだね。特に変わってないよ」 「俺の兄弟が迷惑をかけてない?」 「え? 話はしたけど何もされてないよ」  どうしたのと首を傾げるユリウスにシャルルはなんでもないよと返す。兄と弟は暗殺を任されたわけではないのかもしれない。弟は懐に入って暗殺するタイプなので、ユリウスと関わっていないということは違うのだろう。  兄の方はその時々によって暗殺方法を変えるので確証はない。それでもすぐに動く兄がそうしていないので、受けていない可能性がある。 (じゃあ誰が受けたんだろ。もしかして、なんか変わったりしたか?)  シャルルがエドゥアールヴァレットの番となったことで、運命というのが変わってしまったかもしれない。そうなると状況が把握できないなとシャルルは考える。  よくよく考えてみれば、自分は死に戻る前とは違う行動をしているのだから運命も変わるのではないだろうか。  シャルルの死亡は回避してしまっているのだから、暗殺の任務も変わっているかもしれない。いや、変えられるはずだ。 (俺とユリウスが友人で親しくしていれば、王も暗殺の任務を取り下げるのでは……)  豊穣龍様の番を悲しませて、彼の神龍が怒らないとも限らない。実際はどうかは分からないけれど、そう国王に思わせることができれば暗殺任務を取り下げることに成功するかもしれないのだ。 (流石に俺の代わりに兄か弟が死ぬかもしれないってなると、罪悪感あるし……。あとユリウスに何の罪もないから死ぬのは夢見が悪い)  まだ決まったわけではないにしろ、可能性があるのなら潰しておいたほうがいい。シャルルはこうなったらやってやるかと、一人決めてからユリウスへと目を向ける。  友人が無事だったことに安堵した様子のユリウスに、本当にこの子は良い子だなとシャルルは好感をさらに持った。本当に優しい子だなと思っていれば、ユリウスに「どうしたの?」と声をかけられた。  黙ってしまったシャルルを心配しているようで、リリアーヌも不安げに見上げている。 「いや、なんでもないよ。二人には心配かけちゃったね、悪かったよ」 「それはもういいんだけど、その大丈夫なの?」 「何が?」 「いや、その……豊穣龍様と」  豊穣龍様は恐ろしいと聞いていたからとユリウスに言われて、そういえばそんなふうに言われていたなと思い出す。血を啜るとかと遠慮げに問われてあぁと首を擦った。

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