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第7話 意外となんとかなったようだ

 シャルルが|豊穣《ほうじょう》龍エドゥアールヴァレットの番となったことはヴィリニュスア国内全土に瞬く間に広まった。  あの神龍が贄を番にしたと騒ぎになり、国王が慌てて祝儀の品を持ってくるほどには。まさか、贄を娶るなど思っていなかったのだろう、それはもう困惑した顔を見せていた。  そりゃあ、そうなるよなとシャルルでも思う。今回の贄も血を吸いつくされて殺されると受け入れていたというのに、番にしたなどと報告がきたのだから信じられなくて飛んでくる気持ちも分からなくもない。  今は国王が直々にやってきて豊穣龍に事情を聞いているところだ。  エドゥアールヴァレットは番として受け入れたこと、契りを交わしていることを説明しているが、信じられないと目を開いて国王は固まっている。  信じられないのも仕方ないかと様子を眺めていれば、何度か話をしてやっと受け入れた国王は深々と頭を下げて感謝を述べる。どうやら、やっと話が終わったようだ。 「豊穣龍様、何かございましたら何なりとお申し付けください。わたしどもはとても嬉しいのです。我が国の民を伴侶にしてくださったのですから」 「私のほうでは特に何かしたいということはない。シャルル、君は何かあるだろうか?」 「え、俺?」  突然、話を振られてシャルルは自分を指さす。エドゥアールヴァレットに「君は何かしたいことがあるか?」と問われて、シャルルはユリウスの動向と妹のことが気になった。  父に悪用されていないだろうかと妹のことが心配になる。ユリウスだってまだ暗殺の任があるのだから。  なので、シャルルは「妹や友人と定期的に会いたいかな」と答えた。妹には不安な思いをさせてしまったし、友達にも心配をかけてしまった。  だから、安心させてあげたいなと嘘ではないもっともらしいことを理由にすれば、エドゥアールヴァレットはそうかと頷いた。 「ならば、定期的に会う機会を設けさせてほしい。こちらに招きたいが、謁見の間以外で客人と会うことは許されない。私たちからそちらに伺おう」 「え」 「はぁ」  エドゥアールヴァレットの発言にシャルルと国王ザハールは呆けた声を上げてしまった。彼は今、なんと言っただろうかと。  豊穣龍は滅多なことではヴィシャリアの森から出ることはない。王都になど片手で数える程度しか訪れていないとされている。  というのに、番の願いを聞くために定期的に王都へ足を運ぶというのだから、驚かずにはいられなかった。 「え、王都に行っていいの?」 「私と共にならば。神殿は神聖な場所であり、認められた存在しか出入りが許されない。せっかく友人たちと会うというのに謁見の間で立ち話など楽しめないだろうと考えての提案だ」  神殿というのはいろいろと制約があるようだ。|僕《しもべ》であるウーリンとヤーヘン、番であるシャルルは神殿内を自由に出入りできるが、そうでない者は謁見の間以外に足を踏み入れることはできない。  それは人間と神の間に一線を引くためでもあった。神は神であり、人間は人間である、それ以上もそれ以下もない。同等の価値として扱ってはいけないという意味を持っている。  シャルルはもう人間という扱いではない。神の番という位置になるため、位で言うならば人間よりも上になるのだが、実感はなかった。 「私の目の届く場所であるのならば問題はないと判断している。君もシャルルを神の番として扱うだろう?」 「も、もちろんです。わたしどもは歓迎いたしますとも」 「エドゥが許してくれるなら俺はそれでいいよ」 「え、今、なんと!」 「え? エドゥって呼んだだけだけど?」  国王ザハールは目を開いて口をパクパクとさせている。あ、そういえば豊穣龍の名前って選ばれた者か同等の存在しか口にしたらいけないんだっけと今更ながら思い出した。そりゃあ、驚くよねとシャルルは彼の反応に納得する。  エドゥアールヴァレットも察したらしく、「番なのだから夫の名を呼ぶのは当然ではないだろうか」と説明していた。それに国王ザハールも確かにと頷いたので、理解はしたようだ。 「でも、あんまり森の外から出ないんでしょ。大丈夫なの?」 「別に人間が嫌いというわけではない。彼等の行動には理解できない部分もあるが、それもまた人間の習性として見ている。森を出ないのは用がないだけだ」  外に出る用が無いのだからと言われて、それもそうだよなとシャルルは思った。神が人間に用など早々ないだろうし、人間に対して興味がないのならば王都を訪れたいとは思えないだろう。  そもそも、神が何の前触れもなく王都を訪問したら大騒ぎになる。怒らせてしまったのではないか、災いが起こるのではないかと。  番が友人や妹たちに会いに行くからという理由ならばそういった大騒ぎにはならないはずだ。神龍が訪問しているぞという騒ぎにはなるかもしれないが。 「シャルルの願いは叶えたいと私は思っている。だから、提案したのだが問題はないだろうか?」 「こ、こちらは問題などございませんとも! 是非とも我が王都へとお越しください」 「まぁ、問題ないならいいけど」 「では、明日にでも」 「はっや!」  思わず突っ込んでしまった、早くないかと。けれど、エドゥアールヴァレットは「早いほうが良いのではないか」と問う。贄として出されて不安だっただろう妹や友人を早く安心させてあげたほうがいいのではないかと。  それはその通りだったので、シャルルは「ありがとう」と礼を伝えた。  その気遣いは有難かった。妹は自分のせいで兄が贄になったと悲しんでいたし、ユリウスを泣かせてしまっている。彼らを安心させたいとシャルルは思ったのだ。  国王ザハールがお迎えにと提案するが、「その必要はない」とエドゥアールヴァレットは申し出を断った。馬車ならばこちらにもあり、ウーリンとヤーヘンが手綱を握ってくれる。  人間の手助けは必要ないと言われて、「では、王都の門前で出迎えさせてください」と国王ザハールは提案する。流石に出迎えだけはさせてほしいと。  国王としての面子もあるということを伝えたいようで、そういった意図を察してかエドゥアールヴァレットもそれを許可した。 「では、明日の正午にそちらに向かおう」 「承知いたしました。豊穣龍様のご到着を心よりお待ちしております」  深々と頭を下げて国王ザハールはウーリンに連れられて謁見の間を出て行った。やっと話が終わったと息をつけば、エドゥアールヴァレットに「どうかしただろうか?」と声をかけられる。 「いや、一応は国王だから態度に気を付けていただけだよ」 「シャルルは私の番だ。君の方が位は高いのだから気を遣う必要はない」 「まぁ、そうかもしれないけども……。俺はいきなり偉そうになれなんて言われてもできないって」  そんなタイプの人間じゃないしと笑えば、エドゥアールヴァレットは不思議そうにしている。そんなにおかしなことだっただろうかとシャルルが「なに」と問えば、彼は「いや」と答える。 「人間というのは欲というのを持っている、少なからず。地位を得た人間というのはその欲に傲慢になったりするものだが……君は違うようだ」 「俺、地位に興味ないからね。てか、もう人間とは言えないだろ」  神の番となったシャルルは不老と長寿の加護を渡されていた。故に、神の呪いともいえるその力のせいで人よりも長く生き続けなければならない。  神が死ねば共に死ぬ定めである今の自分はもう人間とは呼べないのではないだろうか。そんなシャルルの疑問にエドゥアールヴァレットは「そうとも言える」と頷いた。 「君はもう人間とは言えないだろうな。嫌だっただろうか?」 「いや、特に。まぁ、いいかって感じ」 「君は受け入れるのが早いのだな」  死に戻ったからかなとは言えなかった。現実を受け入れなければ先には進めないのだから、さっさと諦めた方がいいのだ。それにあんな惨めな死よりも遥かに良い。だから、すんなりと受け入れられた。  実感はないのだが契りを交わしてしまった以上は自分は神の番である。神龍の番として傍に居なくてはならないのだから、彼に従うのは当然だ。と言えば、エドゥアールヴァレットは眉を下げた。 「シャルル。君のやりたいことや意見はちゃんと進言してほしい」 「って、言われても妹たちに会えるって願いは叶うし、今は特にないけど」 「そうか。それならばいいんだ。何かあれば隠さず言ってくれて構わない」 「わかった。なら言うんだけどさ」  シャルルはそう言って自身の腰を指さした。 「抱きしめるのそろそろ止めてくれない?」 「それは聞き入れられない」 「どんだけ、俺が好きなの?」  国王ザハールがいなくなって、さらりと何でもないように腰に腕を回して抱き寄せてくるエドゥアールヴァレットにシャルルは呆れたように言う。  たかが一回、性行為をしただけなんだがなとシャルルは不思議に思っていた。 「おかしいだろうか?」 「うーん。俺にはよく分からないかなぁ」 「そうか。私はシャルルを面白く愛らしい存在と認識しているのだが……」 「愛らしいの部分はもっと分からないけどね」  愛らしいとは妹のリリアーヌやユリウスのような存在を言うのではないだろうか。自分は男の顔をしているし、体格も悪くはないのだから。  とは言うけれど、エドゥアールヴァレットは何を言っているのだといったふうに首を傾げている。どうやら神の感覚と自分の感覚は違うようだ。  自分が面白くて可愛いかは置いておこう。ひとまずは妹を安心させてあげられることを感謝しようと、「ありがとう」ともう一度伝えれば、エドゥアールヴァレットは気にすることはないと返す。 「番の願いを聞き届けられないほど、私は自分勝手な神ではない。君が喜んでくれるならばそれでいい」  ふっと笑まれてシャルルは不覚にも胸を掴まれた感覚を抱く。普段、表情がでないくせに不意打ちでやってくるの止めてほしい。  とは、言えないのでシャルルは黙ってエドゥアールヴァレットを見つめるしかなかった。

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