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第10話 どうにかなるもんなんだなって思った

 |豊穣《ほうじょう》龍の番と仲が良いからと陰で何か言われたりしないだろうか。あるいは邪な考えを持った人間に利用されなだろうかと、可能性のあるものから順に挙げていく。 「流石に危害は加えてこないとは思うけど、二人を悪用されないかそこが心配なんだ」 「なるほど。では、国王よ」 「は、はい、なんでしょうか」 「シャルルの言う通り、二人が悪用されないとは限らない。王ならばその点を抑制できるだろう?」  この二人に邪な考えを持って近づけばどうなるか、エドゥアールヴァレットは皆まで言わない。  国王ザハールは首が取れるのではないかといったふうに首を縦に振って「もちろんです!」と返事を返す。これは効いているぞとシャルルはにこりと笑みを国王ザハールに向けた。 「俺はもうクオンタール家の人間じゃないけれど、ちゃあんと〝約束〟は守るつもりだよ、多分ね。だから、大人しくしてくれるよね?」  国専属の暗殺一族であることを誰にも話すことはしないということ、ユリウス暗殺の任を知っているから引き下がってくれるよねという言葉がたった一言に籠められていた。  これに気づかないわけもなく、国王ザハールはぐぅっと小さく咽喉を鳴らしてから「もちろんですよ」と約束を交わす。  うん、我ながらよくできたなとシャルルは自分を褒める。ユリウスやハルロットたちはよく分かっていないふうであったが、リリアーヌはその意味を理解したようで目を開きながらシャルルを見上げていた。  彼女は自分の一族が暗殺者であるのを知っている。その暗殺者になれなかった落ちこぼれではあるけれど、国王との約束も知っていた。  国専属の暗殺一族であることは他言してならない、これは国王との契約だ。それを引き合いに出したということはとリリアーヌは全てを察したのだろう、ちらりとユリウスを見る。 「シャルル」 「っと。今日は二人を安心させるために来ただけだし、ゆっくりお喋りするのは次の機会にしようか?」  エドゥアールヴァレットに突っ込まれる前にシャルルは「いつでも会えるからね」とリリアーヌに微笑めば、彼女は「そうね!」と兄に話を合わせるように少し大げさに頷く。  この話はすぐに流さなければと彼女も思ったようで、「ユリウスさんも大丈夫よね?」と声をかける。ユリウスはえっと首を傾げながらも「大丈夫だよ」と返した。  この場でシャルルの意味を理解しているのは国王とリリアーヌだけだ。リヴァス王子は王位を継承していないのでこの事実を知ることはまだない。  そもそも彼は第二王子で王位を継承しないはずだ。ハルロットも知るわけもないのでなんとも不思議そうにしていたが、突っ込まれる前に退散しよう。 「じゃあ、次はユリウスの屋敷かな。あの中庭は落ち着くからね」 「えぇ! でも、その……」 「別にここじゃなくてもいいだろ、エドゥ?」 「シャルルが好きなところで会うといい」 「ということで、次はユリウスの屋敷な」  エドゥアールヴァレットのことは気にしなくていいよと言ってみるけれど、ユリウスは無理だろそれはと無言で首を左右に振っている。それに笑って返すしかない。  じゃあ、今日はこの辺にしておくよとユリウスとリリアーヌを軽く抱きしめて、シャルルは部屋を出た。  エドゥアールヴァレットは「まだ居てもよかったのだが」と言うけれど、あの空気で長居はしたくない。と、いうか突っ込まれる前に逃げるほうがいいのだ、ああいうのは。 「シャルル」 「何?」 「私には言えないことか」  何をとシャルルは聞かなかった。きっとさっきの王との駆け引きの事を言っているのだ、エドゥアールヴァレットは。言ってどうなるのか、気にならないわけではない。  彼なら別に興味も持たずにさらりと受け流しそうではあるけれど、番である自分が父親から命を狙われていると知ってどう行動するかは読めなかった。  流石に父親も豊穣龍の番となった息子に手を出すことはしないと思いたいが、どうなるかは分からないので安心はできない。  それにここで暗殺者やってましたと知って嫌われても困るので、シャルルは言うか悩ましいといった顔をしてみせた。 「言えなくはないけれど、後の事を考えて口に出しにくい、といったところだろうか」 「そういうこと。俺が言ってもいいかなって思ったら教えてあげるよ」  別に言ってもよかったかもしれないなとシャルルは思ったけれど、もう少し父の動向を窺いたかった。それに暗殺者をやっていたと知った時のエドゥアールヴァレットがどういう反応をするのか、少し怖かった。  あのくそみたいな結末は迎えたくないので、番を解消されたくはない。他人によっては暗殺者など血塗られたと蔑む奴もいるのだ。  神龍が穢れていると判断しないとも限らなかった。だから、もう少しだけ彼にこのことを伝えるのは先に延ばす。  そんなシャルルの気持ちを汲み取ってか、エドゥアールヴァレットは「なら、待つとしよう」と納得したように返事を返してくる。  こういうところが神ならではの余裕なのかもしれない。シャルルはなんとも負けた気分を味わった。

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