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第11話 勘違いを呼ぶ
ハルモエール邸の中庭のテラスでシャルルはユリウスとリリアーヌと共にお茶を楽しんでいた。テラスから少し離れてエドゥアールヴァレットもいるのだが、彼は三人の話には入らない。
シャルルの邪魔をしないようにという配慮なのだが、ユリウスやリリアーヌは大丈夫なのかと時折、確認している。もう一緒にお茶したほうが楽だとシャルルは思った。
「シャルルはなんか変わったこととかある?」
やっぱり神の番になったわけだしとユリウスに問われて、シャルルは特に変わったことはないかなと答えた。
契りを交わしてから数日経つけれど、エドゥアールヴァレットが少々甘いぐらいで大きな変化もない。神殿での生活はウーリンとヤーヘンが世話をしてくれるので困ってはいなかった。
夜の営みに関していうならば、契りを交わしてからはやっていない。まだ数日しか経っていないので、相手の気分でもないのだろう。とは言えないので、「困ったこととかないかな」とシャルルは話した。
「でもさ、いきなり番に選ばれたらやっぱり驚いたんじゃない?」
「もちろん、驚いたさ。今でも俺でいいのかって思うよ」
半ばやけくそで行動したわけなのだが、結果的にあのくそみたいな結末を回避はできている。ただ、何がきっかけで変化するか分からないので油断はできない。
何か他の所で変化があるかもしれないと、シャルルは「なんか面白いことなかった?」と聞き返してみる。
「面白いことって?」
「ほら、新しい友達ができたとかさ」
「あぁ、この前さ。ハルロットたちと散策しに森へ行ったんだ。そこで怪我をした龍? を保護したよ」
人型だったけど龍の角があったからと話すユリウスに、そういえばそんな奴と仲良くなっていたなぁとシャルルは思い出す。
自分がどう暗殺しようかと計画を立てている時にその龍は現れたはずだ。シャルルは一応のためと、「どんな人なの?」と質問すれば、「悪い龍ではないと思うんだけど」と困ったふうな答えが返ってきた。
「人間が嫌いみたいでさ。医者が治療しようとするとすごく警戒するんだよね。まぁ、叱りつけて黙らせたけど」
「ほんと、そういうところは強いよな、ユリウスは」
「だって、怪我は放っておけないじゃん。怖がってたら余計に警戒されそうだし」
こういうのは強気で行くべきだよというユリウスに、図太いよなぁとシャルルが思っていれば、リリアーヌは「龍ってどんな方なのかな?」と興味があるように目を輝かせた。
「うーん、緑龍っていうのかな。襟足の長い薄緑の髪に龍の角と瞳をもっているんだけど、ちょっと圧があるかな」
「怖いお方なのかしら?」
「いや、そこまでは怖くないよ」
「格好いいの、顔」
「聞くところ、そこなのシャルル」
「いや、カッコイイ男だったらユリウスを狙っているハルロットとリヴァス王子が大変だなーって」
新たなライバルだと認定されるかもしれないとシャルルに指摘されて、ユリウスはうぅと眉を下げる。あの二人ならしでかさないといったふうに。そんな彼に「いい加減に決めたらいいんだよ」とシャルルは言ってみた。
今のところ、ユリウスはハルロットもリヴァスも友人として接している。確か、人嫌いの龍も彼に好意を寄せるのではなかったか。シャルルはいったい誰を選ぶのだろうかとユリウスを眺める。
「そんなこと言われても、僕はその、まだそういった感情を抱いてないっていうか……」
「まぁ、急いで答えを出すものでもないか。ゆっくり考えなよ、ユリウスにはそれができるんだから」
俺とか考えるどころか拒否権なかったからねと自虐してみせれば、ユリウスに「それは笑えないんだけど」と突っ込まれてしまった。
笑えるネタだと思ったが、二人にはそうではなかったらしく、なんとも複雑そうな顔をされてしまう。
「なんで、貴様が此処にいるんだ!」
なんてことを話していれば中庭と屋敷を繋ぐ扉付近から怒声が聞こえる。なんだと見遣れば、そこには一人の男が立っていた。
襟足の長い薄緑の髪を緩く結った龍の角と瞳を持つ男は深緑の衣に身を包んでいる。龍であろう彼は力強い眼でエドゥアールヴァレットを睨む。
あれはシャルルの死ぬ前の記憶が正しければ、今まさに話していた人嫌いの龍であるサジェンタのはずだ。
欲深い人間に何度も利用されたことで、人嫌いになったサジェンタだが、豊穣龍エドゥアールヴァレットのことも苦手としていると聞いた記憶があった。
「君は確か……サジェンタだっただろうか。人間嫌いな君が何故、此処に?」
「それはこっちの台詞だ。お前みたいな奴がどうして此処に居る」
「その言い方は〝助けた人間を贄にされた〟ことを気にしているのだろうか」
どうやら、サジェンタが人嫌いになった理由は助けた娘が豊穣龍の贄に選ばれて帰らぬ人となったからのようだ。サジェンタは未だに許すことができず、人間も豊穣龍も嫌っているのだろう。
彼は自分の力では豊穣龍エドゥアールヴァレットに敵わないのを理解している。助けることもできなかった自分の不甲斐なさを今でも責めているようにシャルルは見えた。
そんなサジェンタの心情を察してか、エドゥアールヴァレットは「あれは仕方なかったことだろう」と話す。
「あの時のこの国は不作中の不作の年だった。飢えで人々は死に、反乱も起きようとしていた時だったのだから」
「黙れ。人間を美酒としか思ってない奴が!」
「全ての人間を美酒と思っているわけではない」
私にだって人間に興味を持つことだってあるとエドゥアールヴァレットが返せば、嘘をつくなとサジェンタは怒鳴った。お前にそんな心などはないと言うように。
「貴様のようなやつがどうしてユリウスの屋敷にいる! まさか、お前!」
「勘違いしないでもらいたい。私の番が友人と妹とお茶をしたいという願いのためにここに来ている」
番という単語にサジェンタが目を丸くさせる、こいつは何を言っているのだと。大声で話すものだから少し離れた場所にいるシャルルたちにも聞こえているのだが、どうしたものかと顔を見合わせた。
ユリウスはサジェンタが人間嫌いになった理由を簡潔には聞いていたのが、まさかエドゥアールヴァレットのことだったとは思っていなかったらしい。
どうしようかと相談してくるユリウスにシャルルは「まず、俺が番だってことは話したほうがいいと思うな」と答える。
なにせ、エドゥアールヴァレットの一言少ない発言のせいでサジェンタは何やら勘違いしているようだったからだ。
勢いのまま、「お前、あの子に手を出したのか!」とエドゥアールヴァレットの胸倉を掴んでいくのが見えた。
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