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第12話 また一つ運命を変えてしまう

 これはいけないとユリウスが「サジェンタさん!」と声をかけて、彼の元へと向かうのをシャルルはリリアーヌと共に追いかける。  サジェンタの手を掴んでユリウスは「落ち着いて」と彼に冷静になるように言ってから、誤解を解いた。 「豊穣龍様の番は僕の友達だよ!」 「……は?」 「えっと、俺なんだけど、エドゥの番」  シャルルがそう言って作り笑いをしてみせれば、サジェンタはユリウスへと目を向ける。「僕の友達のシャルルだよ」とユリウスは紹介をしてくれた。  そこで自分がエドゥアールヴァレットの番であることをシャルルは再度、伝える。一応、説明してみるとやっと理解したのか、サジェンタは胸倉を掴んでいた手を離した。  理解はしたようだったのでシャルルはエドゥアールヴァレットをちらりと見遣る。彼は特に気にするでもなく、少しばかり乱れた着物を整えていた。機嫌を損ねたというわけではにのでほっと息をつく。 「お前、人間だろ」 「元ね。もう契りも交わしちゃってるから人間ではないかな」 「……貴様が人間を? 信じられん」 「シャルルの態度と言動を私は気に入っただけだ」  私にだって人間に興味を持つことはあるとエドゥアールヴァレットがもう一度、言えばサジェンタは渋々といったふうに納得する。  とりあえずは場が治まったとシャルルが「何か用事があったんじゃないの?」とサジェンタに問えば、そうだったと彼はユリウスに目を向ける。 「ユリウス、助けてくれたことに感謝はする」 「それは別にいいんだけど、まだ安静にしてなくていいの?」 「身体は大丈夫だ。ただ、オレは人間に借りを作るのは嫌なんだ」  俺は人間が嫌いだがお前のような奴はそうではないので借りを返すまでの間、お前に仕えよう。サジェンタの言葉にユリウスは目を瞬かせる。  こんな感じで好かれるようになるのか。シャルルは死に戻る前では見れなかった光景に思う。ユリウスを見遣れば困惑しているようだったので、シャルルは「いいんじゃないか」と声をかけた。 「悪い事じゃないと思うけど」 「え、いや、でもそんなつもりで助けたわけじゃ……」 「でも龍ってプライド高いって聞くからさ、借りはやっぱり返したいんじゃないかな?」  ユリウスだって助けてもらったらお礼はしたいだろと言ってみれば、サジェンタの気持ちを無碍にするのは失礼だと思ったようだ。「無茶はしないでね」とユリウスはサジェンタの申し出を受ける。  話はこれで終わったかなとシャルルが思っていれば、サジェンタに「お前は」と声をかけられる。 「この神龍が人間を美酒のようにしていたのを知っているのか」 「え? 血を啜ってたってやつなら知ってるよ。贄は血を吸いつくされて死ぬってわりと有名だったし」  本当かどうかは定かではなかった噂だけれど知っていたし、本人からも聞いている。けれどそれは人間が契約の証として見届けなければ信じないからだ。  贄が死ぬことで契約が成立したのだと納得してもらうしかなかったからであって、神龍だけが悪いわけではない。と、いうのがシャルルの考えだったのでそのままを言ってみる。  すると、サジェンタは眉を寄せた。自分が知っていることと違っていたからなのか、こいつの意思ではなかったのかといったふうに聞き返す。  シャルルは「俺はそう聞いたけど」とエドゥアールヴァレットを見れば、彼は「人間というのは弱い生き物だ」と答える。 「弱い故に彼らは自分の目で確かめなければ信じない。私が贄を殺すまで血を啜らねば、気にいってくださらなかったなどと言って、さらに贄を連れてくる。何度と説明しても彼らの不安が拭えないのであれば、そうするまでしかない」  神の言葉ですら、人間というのは自分たちの目で見なければ信じられない。弱さ故のことではあるけれど、生き辛い生き物だとエドゥアールヴァレットは話す。  君ならば人間の欲深さと弱さをよく理解しているだろうと言われて、サジェンタは無言で頷いた。エドゥアールヴァレットが何を言いたいのかを理解したのだ。 「貴様だけを恨むのは違う、ということか」 「そうなる。あの時代の王と神官たちも同罪だろう」  私は殺さなくともよいと言ったというのに、贄の最後を見届けなければ信用しなかったのだからとエドゥアールヴァレットは目を細めた。  それは少しばかり残念そうな、寂しげで。神であっても信用されないというのは辛いことなのかもしれないなとシャルルは感じた。 「死体はどうしていた」 「きちんとこちらで埋葬している」  神殿の裏に贄たちの墓があると弔っていたことをエドゥアールヴァレットが話せば、サジェンタは驚いていた。お前がそんなことをするのかと言いたげに。  そんな態度にエドゥアールヴァレットは機嫌を損ねることもせずに、「私が弔わねば、誰もしないだろう」と答えた。  神官たちに任せればきっと雑に扱って、弔うこともしない。それではせっかく神の血の一部となった彼らが彼女らが哀れではないか。だから、エドゥアールヴァレットは死に絶えた贄を自ら弔っていた。 「信じられないのであれば神殿を訪ねてくるといい。墓は神殿外にあるので制約はなく、君が立ち入ることもできる」  君の助けた彼女もそこに眠っているとエドゥアールヴァレットが教えれば、サジェンタはゆっくりと瞬きをした。それは思い出すかのようで。 「私にできる彼らへの謝罪でもある」 「……それぐらいだろうな、できることは」  でも、それができるというだけでも知れてよかったとサジェンタは呟いた。今まで蓄積されていた豊穣龍への怒りや恨みというのが完全に消えたわけではないが、それでも幾分かは楽になったと。 「今度、墓参りをさせてくれ」 「いつでも歓迎しよう」  二人の会話に仲直りとまではいかなくとも関係改善ができたのではとシャルルは気づく。これは自分がエドゥアールヴァレットの番になったことで発生したイベントだ。  そうでなければここでは会っていなかっただろうし、エドゥアールヴァレットが贄たちを弔っていたことをサジェンタは知ることはなかった。  誤解も解けただけでなく、エドゥアールヴァレットがどうして贄を殺していたのかという理由と、彼らを弔っていたことをサジェンタは知ったのだ。 (これは死に戻る前とは違う展開なはずだから……。また運命が変わったかもしれないか、これ?)  自分が動くとこうも変わるものなのだなとシャルルは驚く。また一つ運命を変えてしまったと。

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