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第5話『冷たい声と、真っ赤な笑顔。〜知りたくないのに、残る声〜』

「えっ……俺?」 戸惑う宇佐見を華井はチラッと見ると、スマホをさっさと仕舞った。 赤坂が笑って言う。 「涼くん、宇佐見とも交換してやってよ~」 華井が静かに答える。 「……悟くん、本人に聞いてみなよ? 必要ないって、顔に書いてある」 華井はそう断言すると、勉強道具を片付け出した。 「……ちょっと待てよ」 宇佐見が低く言った。 「俺がいつ、必要ないって言った?」 華井は片付ける手を休めず、言い放つ。 「だから言わなくたって、顔に書いてあんだよ。 単純なヤツだな」 その刹那―― 宇佐見は華井の手首を掴んで、怒鳴った。 「うるせぇ!勝手に人の気持ち決めんな!」 華井の手から、バラバラと勉強道具が落ちる。 華井は冷めた瞳で、掴まれた手首と宇佐見を交互に見ると、瞳と同様に冷めた口調で言った。 「で、純くんの気持ちって何なわけ? 言えよ」 「……」 「こんだけ騒いで……俺にたかがID交換して下さいって言うの? 言えないよな? ……言えないなら……手を離せ!」 華井の鋭い一言が響く。 しんと静まり返るリビング。 その静寂を破ったのは、宇佐見の一言だった。 「言えるよ」 宇佐見はそう言うと、華井のか細い手首をぐいっと引き寄せた。 途端に華井が声を上げる。 「……イテェよ!」 宇佐見は華井の薄茶の瞳を見て告げた。 「俺とID交換してよ。 してくれるまで、離さない」 すると―― 華井はふっと笑った。 「……とことん馬鹿だろ?お前……」 そう言って、空いた片手でスマホを取り出した。 華井が宇佐見とラインのID交換をし終わると、華井のスマホに電話が掛かってきた。 華井は一言二言話すと、「用事が出来た。帰る」と言って宇佐見の家を出て行った。 「純くん、一体どうしちゃったの~?」 「……何が?」 宇佐見がじろっと賀川を見る。 賀川は呆れたように答えた。 「あんなに熱くなっちゃって……IDの交換なんてフツーにやればいいじゃん!」 宇佐見が即座に言い返す。 「あいつの言い草聞いただろ!? ムカつくんだよ!イチイチ……」 すると、朔宮がニヤニヤ笑って話し出す。 「そんなムカついたなら、交換しなきゃいいでしょ~? 『してくれるまで、離さない』って、一体どんな口説き文句なんですか?」 宇佐見がギロッと朔宮を睨むと言った。 「仕方無いだろ!? あいつ……やっぱり変わってる!」 「はぁ?」 朔宮と賀川が顔を見合わせる。 宇佐見はそんな二人を無視して続ける。 「スゲー素っ気なくて、冷たいかと思ったら、親切で……。 無邪気で子供みたいだなって思ったら……また冷たくて……俺、あいつが分かんねぇ!」 宇佐見の言葉に、赤坂が困った顔をして笑う。 「宇佐見……聞いてるこっちが恥ずかしいぞ」 そして、一拍置くと続けた。 「それじゃあ……涼くんに振り回されてます、涼くんのことが分かりたい、知りたいって言ってるようなもんだろ」 「……え……?」 ポカンとして赤坂を見る宇佐見に、朔宮と賀川が大きく頷いた。 俺があいつに振り回されてる? あいつを知りたい? 分かりたい? そんなことあり得ない! 宇佐見は一番前の席で、いつものようにひとりで講義を受ける華井の背中を見ながら思った。 今日の華井はバイト先の華井のように、髪を綺麗にセットし、洋服も自分に合うサイズの服を着て、持っているバッグすら違っていた。 もちろん眼鏡も、朔宮が昨日宇佐見の家に隠してしまったので、掛けていなかった。 教室では華井の姿に最初、「誰?誰?」とざわめいていたが、教授が出欠を取った時に華井が返事をすると、どよめきが起こった。 講義が終わると、華井はさっそく女子に囲まれていた。 華井が迷惑そうに対応するのが、遠目でも分かる。 「純くん……涼ちゃんヤバイんじゃ無い?」 賀川が心配そうに華井を見て言う。 「んじゃ、そろそろ助けに行きますか」 朔宮がそう言うと、賀川の肩をポンと叩いて歩き出す。 華井は教卓を背に、どんどん女子に迫られていた。 その周りを男子学生が面白そうに見物している。 宇佐見は、賀川と朔宮を走って追い抜く。 そうして、女子の群れにスッと入って行って、華井を正面から抱き寄せた。 女子達から黄色い歓声が上がる。 華井が目を丸くして、宇佐見を見上げる。 宇佐見は振り返ると、言った。 「涼くん、俺達と先約あるから」 「当てになんねぇな、お前ら! 結局目立ってんじゃねーか!」 華井はプリプリ怒りながら、ハンバーガーにかじりついていた。 「あんなの二、三日もすれば収まりますよ~」 「そうそう。初日だったから大騒ぎっぽくなっただけ!」 華井はチラッと朔宮と賀川を見ると、ため息を吐いた。 「……三日もあんななのかよ……」 そう言うと、キッと宇佐見を睨んだ。 「純くん!お前もさぁ……助けてくれたのは有り難いけど、もっと別の方法無かったのかよ!? 余計な注目集めただろ!?」 宇佐見はニヤッと笑って言った。 「でも涼くん、あれで俺達と親しいって思われたんだから良かったんじゃ無い?」 「なんで?」 「これから何日か、何で急に涼くんが変わったかって訊かれると思う。 その時、俺達に勧められたって言えば、一言で済む。 いちいち目立ちたく無いだの何だの説明するより、簡単だろ?」 「……まぁ……そりゃあそうだけど……」 華井が不承不承に頷く。 「じゃあ涼くん、騒ぎが収まるまで俺達と一緒に居なよ」 今度は赤坂がノンビリと言った。 「なんで!?」 華井はそう声を上げると、疑問に満ちた顔で赤坂を見た。 赤坂がふにゃっと笑って続ける。 「だって俺達と居たら、さっきみたく女子に囲まれたりしないよ? もし、囲まれそうになっても、俺達が庇う。 それに質問されて答えるのが面倒だったら、俺達が代わりに答えてもいいし。 どう?涼くんのメリットいっぱいあるでしょ?」 「……確かに」 華井はぐるっと四人を見渡すと、静かに言った。 「じゃあ、お前らのメリットって何? 俺と居て、何か良いことあんの?」 「あるよ!」 賀川が華井の手を、両手で握る。 「もしかしたら知り合い以上になれるかも知れない!」 華井は暫くキョトンとした顔で賀川を見ていた。 そのうち急に真っ赤になると、叫ぶように言った。 「も、もういい! 分かったよ! 一緒にいる! だから……手、離せ!」 賀川がパッと手を離す。 「涼ちゃーん!俺、嬉しいっ! あ、今度勉強いつ教えて貰える?」 華井は真っ赤な顔のまま、横を向いて答える。 「……雅也の都合に合わせる。 今週中に提出しなきゃヤバイだろ? 俺のバイトは次は土曜日だし、雅也んち行ってもいいよ。 パソコンで仕上げちゃおう」 「……え……でも俺んち千葉だよ? 帰り大変じゃ無い?」 華井は特に気にするふうもなく言った。 「別に。大学に余裕で通える距離なんだろ? いいよ」 「……涼ちゃん……!」 「いいからっ!」 賀川の声に被さるように言うと、突然宇佐見がテーブルに手をついて立ち上がった。 華井が驚いて、宇佐見を見上げる。 「俺の家を使えばいい! それで徹夜してでも仕上げよう!」 華井がクスッと笑う。 「気合い入ってんなー。 どんだけ友達思いなんだよ? やっぱり純くんって変わってる……」 華井はそう言うと、クスクスと笑い続けた。 変わってるヤツに変わってるって言われてしまった…… それにしても……真っ赤な顔でクスクス笑うあいつ……かわいかった…… 教室で抱き寄せた時も甘い香りがしたっけ…… 「純一!聞いてるの!?」 「……何だよ」 宇佐見は眉間に皺を寄せて、目の前の女を見た。 「私といる時に考えごとって……何よ? そんなに大切なこと!?」 宇佐見はチラリと女の手元に目をやった。 ほんの一口くらいしか、手が付けられていない料理が目に入った。 これがあいつだったら…… うまい~!とか言って、ニコニコ笑いながら夢中で食べるんだろうな…… 「純一!」 「……分かったよ。そんなに俺が気に入らないなら帰ろう」 「……え……違うの!私は、ただ……」 遠くに女の声がする。 なぜだろう…… 俺の耳には、あいつのあの冷たい声と、笑い声が交錯する――

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