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第4話『知り合い以上、友達未満の勉強会。〜君の素顔は、いくつある?〜』
賀川が笑顔で華井に訊く。
「じゃあさじゃあさ、何で誰とも喋んないの?」
「ひとりの方がラクだから。
俺、友達いらないし」
華井があまりに当然に言うので、皆、思わず黙った。
「……でも……俺達もう友達だよね?」
小さい声で呟く賀川に、華井がアッサリ答える。
「友達じゃない。知り合い」
そうして、そっと賀川の肩に手を置いた。
「誤解させたとしたら悪い。
でも俺、友達はいらないって本気で思ってる。
それが理解できないっていうなら……帰るよ」
すると、朔宮が明るく言った。
「知り合いで十分ですよ~!」
一拍置いて、朔宮が続ける。
「賀川さん、今日初めて喋った人に、友達なんて無茶な注文です!
わざわざ勉強を教えに来てくれただけでも感謝しなきゃ!」
「でも、サク~!」
眉をハの字にしている賀川に、朔宮がキッパリと告げる。
「でも、じゃ無い!
さっさとケーキ食べて、勉強再開です!」
ケーキを食べ終わると、また華井は丁寧に賀川に勉強を教えだした。
要点を絞り、レポートを書くコツも教えてゆく。
そうして夕方の六時になると、賀川がうーんと伸びをして言った。
「やったー!あと1/3!あ~腹減った!」
「あと一回勉強すれば終わるね」
華井はそう言うと、テーブルの上の私物を片付け出した。
賀川がキョトンとして、華井を見る。
「えっ……涼ちゃん帰っちゃうの?」
「雅也、腹減ったんだろ?
帰って夕食にすれば?
俺も帰る」
朔宮が即座に口を開く。
「涼ちゃん、この後の予定あるんですか?」
「ない」と短く答える華井に、朔宮が続ける。
「じゃあ、一緒に夕飯食いません?
俺もちょっと質問したいことがあって……」
華井は朔宮をじっと見た。
分厚い眼鏡のせいで、表情は良く分からない。
「……兄貴が良いって言ったらいいよ。
ちょっと電話するわ」
そう言うと、華井はリビングを出て行った。
「サク~!やるじゃん!」
賀川が嬉しそうに朔宮を小突くと、朔宮がニッと笑った。
「涼ちゃんって一見素っ気ないけど、勉強の教え方、見たでしょ?
根は親切なタイプなんじゃないかな~って思って!」
赤坂も頷く。
「そうそう。
俺が腹出して寝てるからって、わざわざ起こしてくれたくらいだからな」
「……でも……何で友達がいらないんだろう?」
宇佐見が不思議そうに呟く。
「人それぞれ事情があるだろ?
それに俺達は、拒否されなかっただけラッキーじゃん。
ただの知り合いが、どう転ぶかは分かんねーぞ?」
そう言って、赤坂は楽しそうに笑った。
リビングに戻って来た華井は、「今夜は兄貴、残業だから良いって」と言うと、元いた場所に座った。
「涼ちゃん、何か食べたいものある?」
賀川が華井ににじりよると、華井は唇に人差し指を当てて、「うーん……俺は好き嫌い特に無いからなぁ」と答える。
「……簡単なパスタで良かったら作るけど」
そう宇佐見が静かに言うと、華井は驚いたように宇佐見を見た。
「お前、料理できんの?」
「……お前って……」
苦笑いする宇佐見に、華井は感心したように笑顔で言った。
「あ!悪い!
純くん……だっけ?
料理するんだ?スゲーなぁ!」
ふっくらとした唇から、綺麗な歯並びが見える。
宇佐見は朔宮に視線を移す。
「……大したことじゃない。
朔宮、手伝えよ」
「はいはい」
そうして、宇佐見と朔宮はキッチンへ向かった。
宇佐見がベーコンをたっぷり入れたペペロンチーノをテーブルに運ぶと――
華井は「うまそ~!」と声を上げて喜んだ。
皆で一斉に食べ出す。
すると、華井は「うまい~!マジ純くん天才!」と子供のようにはしゃぎ出した。
宇佐見は照れ臭くなって、華井をチラッと見た。
華井は頬袋をパンパンにして、夢中で食べている。
宇佐見は一昨日の華井と、今日の華井の落差に驚きを隠せなかった。
――どっちが本物の華井?
いや……どっちも本物なんだ……
冷たくて他人を拒絶する
でも親切で……天然入ってて……
無邪気に俺の作った飯をうまいって言って、夢中で食ってる
……変なヤツ
華井は食べ終わると、「あーうまかった!
ごちそうさま!片付け手伝う」と言って、サッと立ち上がり、皿を重ね出した。
「いいよ~!涼ちゃんは座ってなよ!」
そう言って賀川も立ち上がると、片付け出す。
「何で?これくらいやるよ」
華井は両手に皿を持ったまま、にこりと笑った。
「……涼ちゃん……涼ちゃんってもしかして……」
賀川がじりじりと華井に近付く。
「何だよ?」
華井は不思議そうに賀川を見ている。
その時、賀川がパッと華井の眼鏡を取ると、長い前髪を掴んで叫んだ。
「あー!やっぱり超かわいい!!」
次の瞬間、朔宮もやって来て大声を上げた。
「え!?どこどこ!?
あっ!ホントだっ!
かわいいっ……ていうか綺麗じゃないですか~!」
そうして朔宮も、華井の顔をまじまじと見ている。
「涼くん、そんな眼鏡とっちゃえよ」
赤坂もじーっと華井の顔を見て言う。
華井は両手に皿を持っているせいで、身動き出来ないのか、じっと立っていた。
だが、段々と顔が赤くなってきた。
そして真っ赤になると叫んだ。
「雅也!眼鏡返せよ!」
「ヤダ!!」
賀川は後ろにいた朔宮に、眼鏡を素早く渡す。
朔宮はそうっとリビングを出て行く。
「ふざけんな!早く返せ!」
そう再び叫ぶ華井に、賀川が懇々と告げる。
「涼ちゃ~ん、サクも言ってたでしょ?
涼ちゃんの今のスタイルは、悪目立ちしてるんだよ~?
涼ちゃんは目立ちたいの?」
華井がぷいっと横を向く。
「目立ちたいわけ無いだろ!」
「じゃあさ~もうちょっと普通にしなよ。
あんな眼鏡かけてる人、今時居ないし、髪だってせめて梳かしなよ。
服だって季節に合った、自分のサイズに合ってる物を着た方が目立たないよ?」
「………」
華井は真っ赤な顔で、賀川を見上げた。
途端に賀川が感動に満ちた声を上げる。
「かっかわいい!
そのウルウルした瞳!
睫毛、長~い!
そうだっ!」
賀川は華井の手にあった皿を掴むと、テーブルに置き、言った。
「純くん!ブラシ貸して!」
宇佐見は洗面所に走ると、ブラシを持って戻り、賀川に手渡す。
「じゃっ!涼ちゃんは座ってね〜!」
賀川はそう言って、ぐいぐいと華井の肩を押すと、華井を座らせた。
「何なんだよ!?おい!」
華井が叫んでも、「いーから、いーから」と賀川はお構いなしだ。
賀川は華井の抵抗を片手で抑えながら、華井の髪をサッサと梳かしてゆく。
「ほら~やっぱりかわいい!」
そこには洗い立ての髪のように、サラサラの髪をした華井がいた。
一昨日のセットされた髪形と違って、幼い印象の華井に宇佐見は思わず目を見張った。
華井は「何なんだよ……もう……」とまだ赤い顔をして、ブツブツ言っていた。
賀川は満足そうにニカッと笑うと、使った皿を下げにキッチンへ向かった。
「なあ」
華井が、赤坂と宇佐見に訊いた。
「サクと雅也が言ったこと本当?
俺、悪目立ちしてんの?」
「してる、してる。
涼くん自覚無いの?」
赤坂が笑って言う。
「……そっか。
じゃあ、お前……じゃ無くて純くんはどう思う?」
宇佐見は、華井にじっと見つめられて戸惑った。
大きな丸い瞳は一昨日のように冷たくなくて、まるで子供のように素直に疑問を浮かべている。
宇佐見が掠れた声で答える。
「……俺も……みんなの意見に賛成。
大学も、バイト先だと思って行けば?」
「ふーん……」
華井はまた、唇に人差し指を当てて考え出したが、直ぐにポツリと言った。
「……目立ってるって言うならしょうが無いな……。
分かった。サンキュ」
それだけ言うと、華井はテーブルに再び勉強道具を並べ出した。
朔宮の質問にも、華井は賀川と同じように丁寧に答えていた。
一時間もして朔宮の質問が終わると、賀川が待ってましたとばかりにスマホを取り出した。
「涼ちゃん、次回の勉強のこともあるしさ、俺とラインのID交換してよ!」
賀川は内心、華井なら拒否されることもあり得る……とドキドキしていたが、華井はアッサリ「いいよ」と言ってスマホを取り出した。
朔宮も賀川の後ろから、ずいっとスマホを差し出すと、言った。
「あ!賀川さんズルイ!
涼ちゃん、俺もまた質問したい時とかのために、交換して!」
華井がちょっと呆れたように笑う。
「……何なのお前ら……面白い……」
それでも華井は、朔宮ともすんなり交換していた。
すると――
「宇佐見はいいの?」
赤坂がノンビリと口を開いた。
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