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第3話『目立ちたくない君は、目立ちすぎている。〜落差とケーキと爆弾発言〜』
宇佐見は帰宅すると、何だか落ち着かなかった。
掃除しようかな、とも思ったが、普段から綺麗好きだし、華井が来るからと言って、わざわざ掃除するなんて馬鹿らしくて止めた。
――明日の華井……俺を見たら驚く?
それともバイト先みたいな態度を突き通す?
なんだか楽しみにしている自分が不思議だった。
翌日。
大学に行くと、賀川が赤坂を質問責めにしていた。
「ただの勉強じゃ無くて、俺のレポートを完成させる為だって華井に言っといてくれたよね!?」
捲し立てる賀川に対して、赤坂はノンビリ答える。
「言った言った。心配すんな」
「華井の好きな食べ物って何?
今日のおやつ買っとく!」
「んー……涼くん食べること大好きだから、何でも喜ぶんじゃねえ?」
「ふ~ん。じゃあレポート完成したお礼は食事でいいかなぁ!?」
その時、朔宮が賀川の頭を叩いた。
「そーゆー心配は、レポートが完成してからしなさいよ!
第一、今日で仕上がる自信あるんですか?」
「……無い……」
「だったら華井くんに次も来てくれるように、真面目に取り組んでるとこ見せること!」
「……はい……」
ションボリする賀川を尻目に、宇佐見は赤坂に訊いた。
「華井には俺達も居るって言ってあるの?」
赤坂は、再びノンビリと言った。
「賀川ちゃんのことは、当然言ってある。
初対面でお互い気まずいだろうから、俺も居るって言っといた。
あと部屋貸してくれる友達と、もう一人、勉強に参加したいヤツがいるとは言っといた」
「勉強ー!質問考えなきゃな~」
朔宮が笑って言うと、赤坂が付け加えた。
「取りあえず、お前達は先に宇佐見の部屋に集合してて。
俺が後から涼くん連れてくから」
三人が頷いた。
午後の授業が終わると、賀川はさっそくケーキ屋へ走った。
フランス菓子の店で、ケーキが小ぶりで上品だった。
好き嫌いのなさそうなイチゴのタルトと、チョコレートケーキを二種類買う。
それから飲み物を調達して、宇佐見のマンションへと急いだ。
三人でソワソワ落ち着かずに待っていると、時間通りにインターフォンが鳴った。
思わず三人で迎えに出ると、華井はいつものボサボサ頭に眼鏡姿で、赤坂の後ろに隠れるように立っていた。
「上がんなよ」
そう言って、赤坂が先に靴を脱ぐと華井も続いた。
「取りあえず、部屋行こ。
それからゆっくり自己紹介させる」
赤坂が微笑んで言うと、華井は頷いた。
リビングのテーブルに着くと――
一番奥に華井、隣に賀川、賀川の隣りに朔宮が座る。
華井の正面に赤坂、その隣りに宇佐見が座った。
赤坂が口を開く。
「涼くんの隣りが、今回レポートを協力して貰いたいって言う賀川雅也 」
賀川が太陽みたいな笑顔で言う。
「よろしく華井くん!
俺、賀川でも雅也でも好きに呼んで!」
「よろしく。賀川くん」
華井は何の抑揚も無い声で言った。
次に朔宮がにこやかに告げる。
「俺は朔宮正志 。よろしくね」
「よろしく。朔宮くん」
「で、こいつがこの家の家主の、宇佐見純一」
赤坂がそう紹介すると、華井は宇佐見を見ても何の反応も示さず、やはり抑揚の無い声で言った。
「よろしく。宇佐見くん」
思わず、賀川と朔宮と宇佐見は黙った。
そんな三人を気にとめる風でも無く、華井は賀川に向き直ると話し出した。
「先週提出のレポートだったよね?
一応、俺が提出したレポートのコピーも持ってきた。
参考になりそうなものも用意して来たから始めようか?」
「あ……うん!ありがとう。
お願いします!」
賀川と華井がテーブルに勉強道具を並べる。
その様子を見て、宇佐見は飲み物を用意しにキッチンへ向かった。
だが素っ気なさすぎる挨拶と違って、華井の教え方は実に丁寧だった。
賀川のトンチンカンな質問にも、馬鹿にすること無く、辛抱強く教える。
そして賀川が理解すると、嬉しそうに微笑む。
そうして二時間もすると、華井から「疲れたでしょ?休憩しようか?」と言い出した。
これには全員が驚いた。
特に賀川は感激して、「涼ちゃんありがとー!」と言って華井に抱きついた。
華井は少し困った顔をしたが、されるがままになっていた。
そしてちょっと笑うと、「涼ちゃんって俺?」と言った。
賀川が嬉しそうに答える。
「うん!俺もう華井くんなんて呼びたくない!
涼ちゃんって呼びたい!」
「ふーん……」
華井はそんな賀川を面白そうに見ると、「じゃあ俺は雅也って呼ぶわ」と言った。
すかさず、朔宮が口を挟む。
「じゃあ俺も涼ちゃんで!
涼ちゃんは、サクって呼んで下さい!」
華井は可笑しそうに言う。
「指定すんの?変わったヤツ……。
まあいいや。サクね」
呆然と成り行きを見ていた宇佐見に、赤坂が突っ込む。
「宇佐見はどーすんだよ?」
「……俺は……その……」
一昨日の華井の冷たさを知っている宇佐見は、中々言葉が出ない。
すると、赤坂が焦れったそうに言った。
「涼くん、コイツ宇佐見純一っていうから、宇佐見とか純くんとかって呼ばれてる。
涼くんの好きに呼んで。
そんで俺と同じ、涼くんって呼ばせていい?」
華井はアッサリ答える。
「悟くんがそう言うならいいよ」
「よっしゃー!
そんじゃケーキで休憩しよっ!」
賀川はテンション高く冷蔵庫からケーキを取り出した。
華井は二つ並んだケーキを見ると、嬉しそうにニコニコ笑って食べ出した。
宇佐見は胸がドキッと鳴る。
――そんな顔も出来るんじゃん……
すると、賀川がケーキを食べながら、ズバッと言った。
「涼ちゃんの眼鏡って、伊達眼鏡で度が入って無いよね?
隣にいたら解っちゃった!
何で眼鏡なんて掛けてるの~?」
朔宮は必死に笑いを堪える。
さすがミラクルボーイ賀川さん……
訊きづらいことを簡単に……
だが、華井は気にする風もなくアッサリと答えた。
「俺って女顔なんだよね。
だから顔のこと、色々言ってくるヤツいるから、面倒臭いだけ」
「じゃあ髪は?
洋服は?
なんで自分に合った格好しないの?」
「目立ちたく無いから」
その華井の一言に、朔宮が吹き出した。
「涼ちゃん……ハッキリ言わせてもらいますけど、逆に悪目立ちしてます!
注目の的ですよ?」
「……えっ……」
華井は心底意外といった顔をした。
宇佐見も可笑しくなってきた。
コイツ……も……天然?
そして――
賀川が更なる爆弾を落としたのだった。
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