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第1話 ワガママ王子の結婚相手を探さなければなりません
リオステア王国。
華やかな宮殿の奥、誰も立ち入れぬ王族の私室。
第二王子・ルシアンのベッドの上で、執事ハロルド・ウィンスレットはあられもない姿で押し倒されていた。
「やあっ、あっ、まって、殿下っ………!」
「ハルが悪いんだよ。俺はずっとハルが好きなのに」
「だめっ、だめです、こんなっ、」
「俺はずっとハルと結婚するって言ってきたのに。ハルが無視するからこんなことになってるんだよ」
きっちりとまとめられていた長い黒髪は、白いシーツの上で乱れている。燕尾服はぐしゃぐしゃで、高級な生地がしわになっていた。
シャツは中途半端にはだけている。
その下で、薄いピンク色の乳首がツンと主張していた。
ルシアンが美しい乳首をカリカリとひっかくと、ハロルドは肩をびくりと揺らした。
「まって、殿下、とまって、……ああっ」
「やだ」
がつん、と突き上げられる。
自分のアナルにはルシアン殿下のーーー最も尊敬すべきで、最も大切にしなければならないお方の、ペニスが突き刺さっている。
ーーーこんなこと、してはいけない
自分は誇り高い執事である。
王子を支え、正しく導かなければならない。
それでも込み上げてくる快感は止まってくれなくて、熱くて、切なくて、涙目になる。
ぐらぐらと揺さぶられ、頭は真っ白だった。
ふわふわした思考の中、ハロルドは、どうしてこんなことになったんだろう、と、考えていた。
一時間ほど前。夜九時。
「ルシアン殿下! 今日こそはご結婚相手を選んでもらいますからね!」
ハロルド・ウィンスレットは仕事で忙しかった。
彼はリオステア王国の第二王子、ルシアン・アドリエル・リオステアの専属執事である。
身の回りの世話、スケジュール管理など、ルシアン王子に関する全ての調整を行っている。有能執事として名を馳せていた。
ふたりの出会いは、ハロルドが十三歳、ルシアンが十歳の時。
年が近いと気軽に頼れるだろうという国王の計らいで、ハロルドはルシアンの専属執事となった。
金髪に青い瞳、お人形のように可愛らしいルシアン王子に、ハロルドは「このお方に一生を尽くそう」と決意する。
彼らは一緒に食事をとり、学びあい、ハロルドの支えもあってルシアンはすくすくと育った。
そして十年あまりが経つ。
ハロルドは二十四歳、ルシアンは二十一歳。
ルシアンはワガママ無気力王子になってしまった。
(私の教育が間違っていたというのか……!?)
ハロルドはぎりっと歯を食いしばる。
目の前で座るルシアン王子はだらーっとした姿で机に伸び、書類をばさばさと落とす。ハロルドが一生懸命に用意したお見合い写真である。
「殿下! 聞いていらっしゃいますか」
「んー? 聞いてる聞いてる」
「じゃあ選んでくださいっ! もう殿下は立派なお年なのですよ。そろそろ結婚相手を真剣に選ばなければ………!」
ハロルドは落とされた写真を拾い上げ、わざとルシアン王子の前にドンッ、と置く。
物理的にプレッシャーをかける作戦だ。
ルシアンはこの国の第二王子である。
国王や女王から「ルシアンも早く結婚相手を見つけないと心配だ。ねえ、ハロルド?」と、会う度に『お前が結婚相手を見つけろ』という圧力を受けてきた。
当事者であるルシアン王子は、ハロルドの圧力なんて全く意に介さない。
最初は遠回しに「殿下もそろそろご結婚とか……」と探りを入れていたが、「じゃあハルと結婚する」しか言わなかった。
このままじゃ埒が明かない。
由緒あるご令嬢や海外の王族とコンタクトをとった。
ダンスパーティーのセッティングだって何度もした。
あらゆる手を尽くしても、ルシアン王子は全然その気にならなかった。
「……殿下。ちょっと真面目に話しましょう」
「俺はいつだって真面目だけど」
ルシアンは机に頬杖をつき、めんどくさそうにお見合い写真を見つめる。手に取る様子は見受けられない。
子どもの頃はこんなだらしない姿勢をとることなんてなかった。
ぴしっと背筋を伸ばして、ハロルドの言葉をキラキラした表情で聞いていた。
……あのころの可愛いルシアン王子はもういないのだろうか。
ハロルドはため息を堪える。
お見合い写真をぱらりとめくり、ルシアンの目の前で見せた。
「エリザベート・フォン・ヴァルデン様です。隣国ヴァルデンの王族で……」
「んー、パス。俺、ハルみたいな黒髪じゃないとイヤ」
「ではこちらの方はいかがでしょう。クラリッサ・ベルフォード様というのですが……」
「えー。俺、もっときりっとした人が好き。ハルみたいな」
(こンのクソガキ…………)
ハロルドは笑顔を崩さないように、必死に口角を上げる。
この写真を手に入れるのに、どれだけハロルドが苦労したか知らないだろう。ルシアンの目には敵わなかったが、ふたりともかなりの美貌と知性の持ち主である。
ハロルドははぁ、とため息を吐いた。
またやり直しか。
いつになったらルシアンは首を縦に振ってくれるんだろう……。いや、想像できん。
「……ハルが結婚してくれれば全部解決なんだけど」
「え? すみません、殿下。もう一度お願いできますか」
「なんでもなーい」
ルシアンはわざとらしくふてくされて、椅子にのびーっとした。ぼそぼそと呟かれた言葉は、ハロルドの耳に届くことはなかった。
「もーこの話飽きたんだけどー」と、唇を尖らせて文句を言われ、ハロルドはきりっと痛む胃を撫でた。
このところ、ルシアンのワガママは輪をかけてひどくなっている。
前まではひとりで起きれたのに、急に寝坊するようになったり。ご飯だってわざと残すようになって、「ハルがあーんして」って言うようになったり。
(……やっぱり、私がたくさん甘やかしてきたせいかな…………)
心当たりがないと言えば嘘になる。いや、心当たりしかない。
ルシアン王子のキラキラした顔で甘えられると、つい叶えたくなるのだ。
「ていうかさ。こんな時間なのにそんなめんどくさい話聞きたくないんだけど」
ルシアン王子がじろりと睨みながら文句を言う。
ハロルドはチラリと時計を確認した。
……時刻は夜九時すぎ。
確かに、王子は休まなければならない時間だった。
「……失礼いたしました。本日はこの辺にしましょうか」
「んー」
「明日、また伺いますね。ルシアン殿下」
ルシアンはへらりと笑うだけだった。
ハロルドはお見合い写真を回収しながら、ひとりしょんぼりしていた。
また今日も徹夜かなぁ、なんて、呑気に考えていた。
「……ねえ、ハル」
「どうしました?」
「疲れて動きたくなーい。ベッド連れてって」
椅子に座りながら、ルシアンは手を伸ばしてきた。
ベッドは歩いてすぐの距離だ。
こんなの、ただのワガママだってわかってるけれど。
「…………わかりました」
ハロルドは疲れを見せないようにして、ルシアンの手を取った。
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