2 / 5

第2話 添い寝のつもりだったのですが

ハロルドは丁寧に主人をベッドに案内した。 ルシアンはたまにこうして無性に甘えてくるときがある。イヤなことがあったときとか、モヤモヤしてるときとか。 そうしたときは、ハロルドは気づかないふりして存分に甘えさせてあげていた。 王族というのは見えないプレッシャーが多い。 一介の執事にできることはほとんどないけれど、少しでもルシアンが楽になればいい。 こうして自分を頼ってくれるのは嬉しかった。 (ルシアン殿下はまだお若いのに。結婚とか、言い過ぎたかな) きゅっと唇を噛んで、ハロルドは内省する。 とはいえ、この斡旋を辞めることはできないのだけれど。 ハロルドはもやもやする気持ちに蓋をした。 ルシアン王子の部屋は広い。 毛の長い絨毯と細部まで装飾が施された家具。 ベッドは奥まったところにあり、キングサイズよりも大きい。 天蓋からは深紅のカーテンが垂れ下がる。生地はベルベットだ。 ハロルドはルシアンをベッドに寝かせる。 ふわふわの白い掛け布団に手をかけた瞬間、ルシアンがその手を握った。 「どうしました、殿下」 「ハルも一緒に寝よ」 「……殿下」 「だめ? お願い。もーちょっとハルと一緒にいたい」 ルシアンはきらきらした青い瞳で首を傾げる。 きゅるんとした顔で頼まれると、ハロルドは断れない。 「……わかりました」 ハロルドはゆっくりと、ベッドに上がった。 添い寝なんて、何年ぶりだろう。 小さい頃……ルシアン王子が十四歳くらいまでは、よく一緒に寝たのだけれど。 ルシアン王子が思春期になったあたりで「ひとりで寝る!!」と真っ赤な顔で断られるようになったのだ。 そのときはハロルドもさすがにショックだった。可愛い王子が反抗期になってしまったと。 成長したなあという感慨深さと、一抹の寂しさが胸をくすぐった。 (……また一緒に寝るなんて、思いもしなかった) ハロルドは隣で横になるルシアン王子を見つめる。 ルシアン王子はもう立派なひとりの男性になっていた。 小さかった背はぐんぐんと伸びて、ハロルドを抜かした。 長い睫毛にお人形のように整ったお顔。アクアマリンのような瞳は変わらないけれど、丸みを帯びていた頬はシュッとして、子どもらしさは抜けていた。 「ねえ、ハル」 「どうしました」 「俺さ、もう結婚できる年なんだよ」 「はい。存じ上げてますよ」 何が言いたいのだろう、ハロルドは首を傾げる。 その結婚相手を探すのに躍起になっているのだ。知らないはずがないのに。 ルシアン王子は口角を上げて、美しく微笑んだ。 ふいにハロルドの心臓がどきりとする。 十年あまり一緒にいるのに、初めて見た表情だった。 敢えて言語化するなら、ーーー妖艶、という表現が合っている。 「わかってないよ、ハルは」 ぎしり、と、ベッドが軋んで。 え、と言葉を発するより先に、 ルシアンはハロルドを組み敷いていた。 「…………ルシアン殿下?」 「ハルってさ、鈍感だよね」 「え、あ…………あの」 「男がさ、わざわざベッドに連れ込むなんて。こういう理由しかないじゃん」 ルシアンはしなやかな指でハロルドに手を伸ばした。 しゅるり、と黒いタイがほどかれる。白い首筋が覗いた。 燕尾服はそのまま、シャツのボタンが、ぷち、ぷち、と外される。 次第に露わになる肌に、ハロルドは困惑していた。 「あの、殿下。お戯れは………」 「戯れ? いつまで俺は子ども扱いされなきゃいけないのかな」 「え、あ………あの、」 「俺はもう大人の男なんだけど」 見上げたルシアンの瞳は、初めて見る光をしていた。 いつもの優雅な王子の姿からは想像もできないくらい、 獣のような、獰猛さが潜んでいた。 「ずっとこうしたかったんだ」 ルシアンはにっこりと笑う。 指先がシャツの端をつかむ。ハロルドは息を呑んだ。 そして、勢いよく、ルシアンはシャツをびりっと破いた。 「んっ、あっ、ああっ、やめ」 「可愛い、ハル、かわいい」 「やめ、だめです、殿下っ」 上から押さえつけられて、ハロルドは喘いでいた。 スラックスの下に手を伸ばされ、ペニスの先端をぐりぐりと刺激される。 高貴なお方の右手が先走りで濡れる。ぐちゃ、ぐちゃ、と、粘性の水音が響く度にハロルドは恥ずかしくて泣きそうになった。 中途半端に脱がされた燕尾服のせいで身動きが取りづらい。びくびくと身体を揺らすだけで、弱々しい抵抗しかできなかった。 顔を真っ赤にして、涙目で口の端から唾液を垂らすハロルドの姿を見て、ルシアン王子は、うっとりとした表情をした。 「やらしいね、ハル。気持ちいい? ハルもこういうこと、好きなんだ」 右手の力が込められて、ハロルドは「んっ」と甘い声を上げた。 こんな快感は初めてだった。いつも仕事ばかりで、性的なことには疎かった。 「ハルは自覚ないかも知れないけど。その燕尾服、すっごくえっちなんだよ。腰のラインが出てるし。みんなやらしい目で見てる」 「そん、な、わけっ」 「細い腰を掴んでガンガン突きたい。シャツを破いてその下も全部見たい。ぐちゃぐちゃにして、とろとろにして、俺で汚したい」 ーーーずっと考えてたんだよ と、耳元で囁かれて、ハロルドは唇を噛んだ。 そんなの気づかなかった。 ずっと一緒にいた、あの小さくて可愛かったルシアン王子が、そんな欲望を抱いていたなんて。 否定したくとも、いま直面している現実はまさに、その欲望を如実に表していた。 白いシャツからはピンクの乳首が覗いている。黒い燕尾服は皺だらけになっている。 まとめていたロングの黒髪も、シーツの上で乱れている。 リオステア王国随一の執事の姿は跡形もなかった。 「……いい眺め」 ルシアン王子はふふっと笑って、右手の動きを強めた。

ともだちにシェアしよう!