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第4話

レオニスが運命の番――セシルと、正式に「友人」として向き合うようになったのは、 すべてが落ち着いた後だった。 互いに番の痕は残っている。 だが、それはもう恋や執着を呼び起こすものではない。 「……今、どうしている?」 静かな茶室で、セシルはそう切り出した。 遠慮も、探りもない、友人としての問いだった。 レオニスは隠さなかった。 「番の相手と、その間にできた子と暮らしている」 「……囲っている、と言ってもいい」 少しだけ、苦く笑う。 「逃げられないようにした。  優しさや、自由は与えている。  だが――選択肢は、もうない」 セシルは目を伏せたあと、静かに息を吐いた。 「……それで、彼は不幸?」 その問いに、レオニスは答えられなかった。 否定したい。 だが、“幸せだ”と言い切るには、 フィンの笑顔は、あまりに静かすぎた。 「……会いたい」 セシルの言葉は、はっきりしていた。 「彼に。  あなたの番に。  話をしたい」 「それは――」 拒む理由は、山ほどあった。 だが、レオニスは気づいていた。 この世界で唯一、 フィンを“運命”でも“所有物”でもなく見ることができる存在が、 目の前にいることに。 「……分かった」 そう答えた自分に、 レオニス自身が一番驚いていた。 ⸻ その日、フィンは穏やかな庭にいた。 子供を乳母に預け、 一人で日向に座っている。 そこへ現れた青年を見て、 フィンは一瞬で理解した。 (……この人が) 運命の番。 だが、胸は痛まなかった。 嫉妬も、恐怖もない。 ただ―― 不思議な安心感だけがあった。 「初めまして」 セシルは、深く頭を下げた。 「あなたに、謝りたくて来ました」 「……え?」 「あなたが身を引いた理由を、聞きました。  そして、それが“誤解”から生まれたことも」 セシルは、まっすぐに言った。 「私は、あなたの居場所を奪う存在ではありませんでした。  最初から、別の人を愛していて、  最初から、あなたの番を選ぶ気はなかった」 フィンの目から、静かに涙が落ちた。 「……じゃあ、私が消えたのは……」 「誰のせいでもない。  ただ、“運命”という言葉が、  あなたを一人にしただけです」 その言葉に、フィンの中で 長く固まっていた何かが、ほどけた。 ⸻ 少し離れた場所で、レオニスは二人を見ていた。 フィンは泣いている。 だが、その表情は―― 初めて見るほど、穏やかだった。 セシルが言う。 「あなたは、選ばれなかったんじゃない。  あなたは、最初から選ばれていた」 フィンは、震える声で答える。 「……それなら、私は……  ここにいて、いいんですね」 その瞬間。 レオニスの中で、 囲い込みの“檻”が、家へと変わった。 ⸻ セシルは、愛する人と子供のもとへ帰った。 「運命の番」という絆は、 人生を縛るものではなく、出会いを導くだけのものだったと、 皆が理解した。 フィンは、初めて自分から言った。 「……一緒にいてください」 それは命令でも、諦めでもない。 選び直した言葉だった。 レオニスは微笑む。 「もちろんだ。  何度でも、選ばせてやる」 子供は二人の間で笑う。 不安も、後悔も、もうこの子には渡らない。 運命は、壊されたのではない。 正しい形に、ほどかれただけだった。 ⸻ 後年、人々はこう語る。 運命の番とは、 「唯一の愛」ではない。 「正しい場所へ辿り着くための、最初の縁」なのだと。 そして三人は、 それぞれの場所で、 ちゃんと幸せになった。

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