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第3話
★レオニス視点─隠された命と、誤魔化せない番の感覚
見つけた瞬間、確信した。
街の外れ、粗末な外套に身を包み、俯いて歩くその姿。
顔は痩せ、髪も短くなっているのに――
番の感覚だけは、嘘をつかなかった。
(……フィン)
名を呼ぶより先に、胸の奥が軋んだ。
懐かしさでも、安堵でもない。
怒りと恐怖が混ざった、歪んだ感情。
「……久しぶりだね」
声をかけた瞬間、フィンの肩が跳ねる。
振り返ったその瞳に浮かんだのは、喜びではなく――諦めだった。
「……どうして、ここが」
「探した」
それだけで、すべてを察したように目を伏せる。
フィンは、何も言わない。
腹部を庇う仕草もない。
視線も逸らさない。
――だが。
(……おかしい)
近づくほど、番の感覚が騒ぐ。
懐かしい匂いに混じって、微かに別の存在を感じる。
「……痩せたな」
「生きていくには、十分だよ」
そう言いながら、フィンは一歩、距離を取った。
その瞬間――
腹の奥が、確かに、動いた。
ほんの一瞬。
フィン自身も気づいていないほどの微細な動き。
だが、番であるレオニスには、はっきりと伝わった。
(……子、だ)
喉が鳴る。
「……フィン」
名を呼ぶ声が、低くなる。
「君、何を隠している」
「……何も」
否定が、あまりに早い。
あまりに慣れている。
確信した瞬間、怒りは消えた。
代わりに湧き上がったのは――
奪われかけたという、原始的な恐怖だった。
⸻
☆フィン視点─「逃げなければよかった」と思ってしまう地獄
子は、無事に生まれた。
レオニスに囲われた屋敷。
医師も、乳母も、警備も完璧で、
何一つ“不足”はない。
腕の中で眠る我が子は、驚くほど穏やかだった。
(……この子は、幸せだ)
それが、何よりも苦しかった。
逃げていた頃。
狭い部屋で、一人で腹を抱えていた日々。
不安と恐怖に押し潰されそうだった夜。
――あの時、もし。
(逃げなければ、こんなにも……)
子は愛されている。
レオニスは、完璧な父親だった。
自分にも、優しい。
だからこそ、思ってしまう。
逃げなければよかった。
最初から、信じていればよかった。
その後悔は、
もう取り返しのつかない場所で、胸を締めつけ続ける。
そしてフィンは気づく。
これは罰なのだと。
自分が選んだ逃亡の、その“対価”。
⸻
★レオニス視点─囲い込み宣言と、静かな日常
フィンが眠っている。
子を腕に抱いたまま、
疲れ切った顔で、静かに呼吸をしている。
――逃げようとは、もうしない。
それが分かるから、レオニスは満足していた。
「……俺の番だ」
誰に聞かせるでもなく、そう呟く。
運命の番?
そんなものは関係ない。
逃げた。
隠した。
一人で産もうとした。
それでも――
戻ってきた。
いや、違う。
連れ戻した。
「もう、選ばせない」
優しく、しかし逃げ道のない声で、レオニスは宣言する。
仕事は屋敷で出来るように整えた。
外出には必ず同行をつける。
フィンが不安を感じない距離で、常に視界に入る場所に置く。
愛しているからだ。
失いたくないからだ。
それ以上の理由など、必要ない。
夜、子供の寝息を聞きながら、
フィンを抱き寄せる。
「……ここにいろ」
それは命令ではなく、
決定事項だった。
フィンは何も言わず、ただ頷く。
静かで、穏やかで、
完璧に閉じた世界。
レオニスは思う。
(これでいい)
愛は、守るものだ。
逃げさせないこともまた、愛の形なのだから。
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