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第2話

☆フィン視点─「選ばれなかった者の居場所」 夜明け前の港町は、ひどく静かだった。 潮の匂いに混じって、知らない土地の空気が肺に入るたび、フィンは自分が“もう戻れない場所”へ来てしまったのだと実感する。 腹に手を当てる。 まだ小さく、誰にも気づかれない命。 それでも確かに、彼の中にいる。 (……ごめんね) 謝罪は、誰に向けたものなのか分からなかった。 この子かもしれないし、レオニスかもしれない。 あるいは、自分自身か。 レオニスは優しい。 運命の番が現れたと告げれば、きっと苦しそうな顔で、 「それでも一緒にいよう」と言っただろう。 だからこそ、言えなかった。 運命の番同士から生まれる子が、 どれほど「価値がある」とされているかを、フィンは嫌というほど知っていた。 自分の子は、ただの“妥協の産物”として扱われるかもしれない。 それなら―― 最初から存在しなかった方が、彼の未来は綺麗なままだ。 (愛しているから、いなくなる) それは、フィンなりの選択だった。 逃亡先での生活は、静かで、厳しい。 オメガであることを隠し、発情抑制薬を使い、 小さな宿の手伝いをしながら日々を生きる。 夜になると、決まって思い出す。 あの声。 あの腕。 番として刻まれた、消えない感覚。 「……忘れられるわけ、ないよね」 腹の子が少し動いた気がして、フィンは泣いた。 この子だけは、手放さない。 それだけが、自分に許された“わがまま”だった。 ★レオニス視点─「運命を壊してでも、取り戻すもの」 フィンが消えたと聞かされた瞬間、 レオニスの中で、何かが音を立てて崩れた。 「……俺は、何も選んでいない」 運命の番とは、友人として距離を保つと決めた。 互いに愛する相手がいることも、 彼が別の子を身籠もっていることも、すべて話し合った上での選択だった。 なのに。 フィンは、“選ばれなかった”と勘違いして消えた。 「俺の愛は……そんなに、信用できなかったのか……」 後悔は、すぐに執着へ変わった。 番の痕が疼く。 抑制も効かないほどに、フィンの存在を求めている。 ――見つける。 ――何を壊してでも。 レオニスは動いた。 家の権力を使い、 各地に人を放ち、 オメガの情報を一つ残らず集める。 その過程で、知ってしまう。 フィンが身籠もっていた可能性。 そして、その子が――自分の子である可能性。 「……逃がすわけがない」 愛している。 それは変わらない。 だが今は、それ以上に―― 失うことへの恐怖が、彼を縛っていた。 もし再会したら、どうするか。 説得? 謝罪? それとも―― (もう、二度と選ばせない) 優しく抱く腕は、 同時に逃げ道を塞ぐ檻になるだろう。 運命など、どうでもいい。 世界が許さなくてもいい。 「フィンは、俺の番だ」 それだけが、真実だった。

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