2 / 2
第2話
☆フィン視点─「選ばれなかった者の居場所」
夜明け前の港町は、ひどく静かだった。
潮の匂いに混じって、知らない土地の空気が肺に入るたび、フィンは自分が“もう戻れない場所”へ来てしまったのだと実感する。
腹に手を当てる。
まだ小さく、誰にも気づかれない命。
それでも確かに、彼の中にいる。
(……ごめんね)
謝罪は、誰に向けたものなのか分からなかった。
この子かもしれないし、レオニスかもしれない。
あるいは、自分自身か。
レオニスは優しい。
運命の番が現れたと告げれば、きっと苦しそうな顔で、
「それでも一緒にいよう」と言っただろう。
だからこそ、言えなかった。
運命の番同士から生まれる子が、
どれほど「価値がある」とされているかを、フィンは嫌というほど知っていた。
自分の子は、ただの“妥協の産物”として扱われるかもしれない。
それなら――
最初から存在しなかった方が、彼の未来は綺麗なままだ。
(愛しているから、いなくなる)
それは、フィンなりの選択だった。
逃亡先での生活は、静かで、厳しい。
オメガであることを隠し、発情抑制薬を使い、
小さな宿の手伝いをしながら日々を生きる。
夜になると、決まって思い出す。
あの声。
あの腕。
番として刻まれた、消えない感覚。
「……忘れられるわけ、ないよね」
腹の子が少し動いた気がして、フィンは泣いた。
この子だけは、手放さない。
それだけが、自分に許された“わがまま”だった。
★レオニス視点─「運命を壊してでも、取り戻すもの」
フィンが消えたと聞かされた瞬間、
レオニスの中で、何かが音を立てて崩れた。
「……俺は、何も選んでいない」
運命の番とは、友人として距離を保つと決めた。
互いに愛する相手がいることも、
彼が別の子を身籠もっていることも、すべて話し合った上での選択だった。
なのに。
フィンは、“選ばれなかった”と勘違いして消えた。
「俺の愛は……そんなに、信用できなかったのか……」
後悔は、すぐに執着へ変わった。
番の痕が疼く。
抑制も効かないほどに、フィンの存在を求めている。
――見つける。
――何を壊してでも。
レオニスは動いた。
家の権力を使い、
各地に人を放ち、
オメガの情報を一つ残らず集める。
その過程で、知ってしまう。
フィンが身籠もっていた可能性。
そして、その子が――自分の子である可能性。
「……逃がすわけがない」
愛している。
それは変わらない。
だが今は、それ以上に――
失うことへの恐怖が、彼を縛っていた。
もし再会したら、どうするか。
説得? 謝罪? それとも――
(もう、二度と選ばせない)
優しく抱く腕は、
同時に逃げ道を塞ぐ檻になるだろう。
運命など、どうでもいい。
世界が許さなくてもいい。
「フィンは、俺の番だ」
それだけが、真実だった。
ともだちにシェアしよう!

