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第10話住人が増えました
「え?この家、まさかの殺人現場だったってこと?」
「もう10年前の話なのだけどね」
(嘘だろ、農場ゲームの主人公を犯行現場に住まわせるゲーム、普通あるか?)
ルナリオは知る由もないことだが、海外産のゲームだったら割とこういうことはある。数日前に殺人事件が起こったのに、血を拭いて物を片付ければあら不思議!りっぱなおうちだわ!!ということはざらにある。
しかしプリエスティラ農場物語は日本産のゲームである。ルナリオの感性は何も間違っていない。
「どうりでこんないい立地なのに誰も住みたがらないはずだな」
俺は今、朽ちた家のベッドで横たわっている。擦り傷切り傷はあったものの、それも治癒魔法で完治し、やや筋肉痛が残ってはいるものの今は元気に動ける。しかし、心配性のプリマヴェーラが絶対安静ということを俺に告げた。
いや、農作業をほおっておくわけには。そうやってベッドから出ようとした俺の頭をガッとつかみ、プリマヴェーラは俺をベッドにねじ込んだ。意外に思うかもしれないが、プリマヴェーラは脳筋である。その細腕からは、想像できないほど強い力を持っており、初期筋力は主人公の6倍の値を誇る。ただのゆるふわ系と思ったら大間違いなのだ。
そんなこんなもあって、俺は今暇つぶしに付き合ってくれるアウトーメルと話していた。
アウトーメルはずっと俺に優しく語りかけてくれる。あまりに俺が暇だったからということで、付き合ってくれるのだ。
そこで知り得たのが冒頭の殺人事件という話だ。
そういえば前にスラリスが幽霊を見たという話をしていた。あれは本当だったことに驚く。
しかし、亡くなったのはアウトーメルのお姉さんとお母さん。だとすれば、気味悪く思ってほかに移るというのはあまりにも失礼な気がする。
けれど、しかし。人がなくなっているというのは、正直住むうえで気分はよくないのも事実。
知り合いの不動産屋さんも言っていた。突発的に殺人が行われた物件に住むのはやめなさい、と。
「この家はね、取り壊すことに決めたの」
「え!」
まさに俺が悩んでいたことを一刀両断される。
「うん、もともとは私がお父さんに壊さないでって懇願しちゃってたものだから」
心の傷がえぐられることになるから、残してもらったところで意味はない。だというのに、みんなで団らんしていた場所を壊すことに納得がどうしてもできなかった。
けれど
「建て直して新しくスタートを切るの」
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レッドドラゴン討伐後、大慌てになっているギルドの職員たちに後始末を任せ、ルナリオを抱えた騎士とスラリスと私はルナリオの家に帰宅した。
騎士はこの朽ちかけている家にためらいなく入り、ベッドにルナリオを寝かせる。騎士と自分の気まずい時間に耐えられずアウトーメルは何度か騎士に会話を持ち掛けたものの、帰ってきたのはうなずきのみ。
(この人、本当に大丈夫なのかな)
助けてくれた以上の情報を、こちらは持ちえない。
おいらがルナリオの看病するからな!という自信満々のスラリスを確認した騎士は、あとは任せるようにジェスチャーで「外の見回りをしてくる」とだけ私に伝え、出て行った。スラリスと二人きりか、そう思いスラリスを見ると先ほどの発言はなんとやら。寝ていた。さすがに疲れたのだろう。
私は寝ているルナリオのベッドに腰かけ、彼の顔にかかっていた髪を払った。
そういえばこの家に帰るの、いつぶりだっけ。月明かりが部屋を照らし、ろうそくがなくとも何があるかわかるくらいには明るかった。
すると部屋の一角がぽわっと、白く靄がかかっていることに気が付いた。
「ひっ!だ、誰!?」
私はとっさにルナリオを守ろうと姿勢を作るが、その必要はなかった。
幽霊だ。
まさか、あの日からずっと。ここにいたの?
「まさか、姉さんなの?」
突発で亡くなった不幸な死者は、地縛霊としてそこにとどまる。
姉と母を亡くした時、せめて天国では幸せになってほしいと祈ったものだが、ずっとここに残っていたという事実に背筋が冷たくなる。
霊の表情は見えない。けれども、なぜだろう。微笑んでいるような気がした。
そこでようやくわかった。ずっと、心配でここにとどまり続けたということを。
ずっと悔やんでいた。あの時、姉さんの居場所をのんきに伝えなければ。
いや、自分の頭が恋愛でいっぱいだったから。姉さんの暗い表情の変化に気が付けなかったから。
姉が死んでしまった要因が、自分にはあった。
悔やんでも悔やみきれない。
けれどもそんな懺悔を聞くために姉は残り続けたのではない。
自分はただ、あの時言いたかったことを言えばいいのだ。
「姉さん。ハッピーバースデー。私は姉さんの笑顔が世界で一番大好きよ!」
霊は安心したのか、靄は希薄となり、そしてやがて消えていった。
「ありがとうアウトーメル。あなたをずっと愛しているわ」
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アウトーメルの心は、人生でこれほど晴れやかだったことはないくらい輝きに満ちていた。
「ねえ、ルナリオ?私が手配するから、家をあっちの方角に建て直さない?」
アウトーメルは小屋から十数メートル離れた個所を指さす。
「この小屋の下は花畑にしたいの!」
アウトーメルのはしゃぐ様子に、俺は笑みをこぼす。
だがしかし。
「でも、アウトーメル。建て直すお金がないんだ…」
俺はほぼほぼ無一文なのである。
そもそもゲーム開始から今日で三日目である。一日目に畑を耕しはしたが、二日目は鉄を取りに行ってああなった。収入がまだスラリスのにんじんしかないのである。
そんな話をしていると、ドアがギギ…と開く音がする。
畑作業をしていたスラリスたちが戻ってきたのだ。
「スラリス!!お疲れ様」
「ルナリオ、おいら、新しくにんじんを30も植えたんだぜ!!」
スラリスは俺のベッドにぴょんぴょん駆け寄り、自分の成果を誇らしげに伝えてくる。
スラリスのその後ろから床をギシッギシッと軋ませ、騎士が俺に近づいてきた。
「・・・・・・・・」
相変わらず何も言わない御仁だ。やはり、彼のような人物はゲームにはいなかったように思う。
婿候補の一人も確かに騎士ではあるが、顔を隠すことも黙っていることもなかった。
(顔を隠す人っていうのは、隠す必要があるから隠しているんだよな。例えば主人公の知り合いだったり)
すると、この主人公の故郷の知り合いの誰か、ということになるのだろうか。俺は三日前にルナリオになったばかりなので全然分からない。
「この騎士の兄ちゃんがな、畑作業を手伝ってくれたんだ!おいらだけでは今まで耕すのが難しかったから、すげえ捗ったんだ!!」
「ニンジンはふかふかな土が重要だからな。スラリスのにんじんはとてもおいしかったけれど、二股のものも多かったから勿体なかったよね」
今日の俺は昨日プリマヴェーラからもらったフランスパンの残りを咀嚼している。おかしいな、昨日と違ってかちかちで食べにくい。そりゃ時間が経過したフランスパンは固くもなるわよ、とアウトーメルが胡乱げな表情で指摘する。
唾液腺が発達していない日本人は硬いパンよりも柔らかいパンを好む。さっきからやや食いちぎる形でパンを食べているのだが、このルナリオの唾液腺もいまいち発達していないように思う。次からは固くなる前に食べてしまおう。
「騎士様。お話がございます。」
アウトーメルは俺の食べようにやや引きながらも、騎士に体を向き直り、真剣な表情で語り掛ける。騎士も何の話かは心得ているのであろう。静かにうなずき、近くの椅子に腰かけた。
「6対4。いかがでしょうか。」
「アウトーメル、畑仕事を甲冑で手伝ってくれた人ににんじん4割はないんじゃないかな…」
「にんじんの取り分の話じゃないの。いまドラゴンの話をしているの。」
ドラゴン。なるほど、生き延びるのに必死で忘れていたが、そういえばレッドドラゴンを倒すと貴重なアイテムを落とすのであった。
「ところでだけど、昨日のレッドドラゴンを倒すと大体いくら?」
残念ながら、ドラゴン素材は基本的に武器製作に用いて金策要因にしたことはないため、俺も値段は知らない。
「レッドドラゴン討伐のクエスト依頼は入っていなかったから、残念ながらアイテム換金だけになるの」
本当に残念、いつもなら依頼として入ってることも多いんだけど、とアウトーメルは続ける。
「すべてを換金した場合、10万ゴールドはいくわね。」
「10万!!!!高・・・・・・・・・・いや、ちょっと待って。」
時限クエストがクリアになる報酬を聞かされ一瞬浮かれそうになる反面、ふと冷静になる。この世界でも何人が倒せるんだというドラゴンが10万。おや・・・?
「ドラゴン、だよね?そう考えると安くないか…?」
・・・いや、よく考えてみたらおかしくはない、か。
なぜならこれは強さを求めるゲームではなく、農場ゲームなのだ。農場ゲームの花形は、野菜を育てたり材料を集めて道具を作ったりすること。強いドラゴンを倒して素材を売って一攫千金というようなゲームバランスではない。強い素材を用いて、何を作るか。求められているのはそこなのだ。
しかし、作業台もレシピもないため、今のルナリオには手に余る材料でもある。農場ゲームの序盤は、扱えない最高級素材よりも、銅とかそっちの方がはるかに価値があるのだ。
レッドドラゴンの材料は変わりがないものでもないため、ストーリー終盤でも無くて困るということはない。今取れる最良の選択肢は換金だろう。
しかしどうやらそのドラゴンの材料をめぐって、今から交渉が繰り広げられるようだ。
「でもアウトーメル。相手は恩人。0対10が妥当じゃないか?」
「駄目よ、あなたは今困窮してるでしょう?なによりお金が欲しいっていってたじゃないの」
自分の過去の発言をほじくり返され、ひるむ。自身の過去の発言を突き付けることが一番説得に効くと知っている、さすが相手の発言を逃さない、ギルドの受付嬢だ。
一方騎士は、手のひらを上にして俺の方に向ける。そして自分に左手をさし、俺に右手をさす。そして手を同時に反対方向にさした。
「え?10対0、ということ?」
つまりこちらが10、騎士が0ということである。こちらに都合がよすぎる交渉ということで騎士のことに厳しいまなざしを向けていたアウトーメルも、今の騎士の主張に唖然としている。
自分はお金をたくさん持ってるから、俺にあげるということ?いやいや、代替になる素材があったとて、ドラゴンは世界にわんさかいるわけではない。非常に貴重なものなのだ。
こんなうまい話、あっていいわけがない。タダより高いものは無いのだ。
俺たちが騎士の意図を測りかねていると、騎士はスラリスを持ち上げ、ぼそぼそとなにかしゃべった。
喋れるのか?しゃべられないからジェスチャーだったわけじゃないのか?アウトーメルを超える超絶人見知りなのか?
「ただし、条件がある、だそうだぞ!」
スラリスは騎士の意図を代弁する。
「条件…?いえいえ、なんだか面倒くさそうですので、取り分で手打ちしましょう。俺が2、騎士さんが8でいかがでしょうか」
「駄目よルナリオ!6対4よ!!!」
「いえいえいえ、俺、ドラゴン退治でおいしく経験値いただいたので!いえいえ、遠慮なさらず」
けれども騎士は俺の発言に首を横に振る。そしてまたスラリスにぼそぼそとなにかをしゃべる。
そしてスラリスは笑顔になってこう代弁した。
「この農場で自分を雇って欲しいってよ!」
「ええええええええええ!!!」
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