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第9話レベル5のルーキーVSレベル80のレッドドラゴン
「どこのどなたが存じませんが!その子、ルナリオは今日冒険を始めたばかりのルーキーなんです!だから」
俺は、姉さんと同じ声をしているアウトーメルの言葉を手の振りで遮った。その言葉の続きは、きっと優しいものだろう。
けれど、このゲームをクリアしようとするのなら、レベルを大量に上げることができるこんな絶好の機会はない。ましてや隣で俺をサポートしてくれるのは明らかに強い騎士。
これから先、甘えで生き延びたとて、俺に待ち受けるのは死の嵐なのだ。
俺は現状5レベル付近、対してレッドドラゴンはレベル80。これを倒すことが出来れば。その経験値はかなりのものだろう。
この騎士の、見立て通りの強さなら、一人でレッドドラゴンの討伐もできるように思う。
しかし、彼は俺に手柄を譲った。
「君の策はまだまだ終わってないだろう?」とばかりに。
レッドドラゴンの攻撃から俺を、守るように、騎士はその剣を横に構える。
武器の名は聖剣パールミルリス。世界最強ではないものの、その刀身の美しさから、俺がゲームで愛用していたものだ。
とてもいい剣えらびのセンスだと思う。この騎士とはいずれ剣の話で語り合いたい。
「スラリス、無事か?」
「おいらよりルナリオのほうがやばかっただろ!大丈夫なのか?」
「うん、俺は大丈夫。なあスラリス。作戦続行できる?」
スラリスは待ってましたとばかりにはねる。
敵の攻撃に対する防御は騎士にまかせ、俺も剣を構え相対する。
俺の剣、ダーインスレイヴは、一振りでMPを全消費する魔剣だ。
レベル差があったとしても、やり方次第でミラクルを起こすロマン武器といえる。
本当だったらさっきは一振りで俺のMPは消費されていただろう。しかし、この剣の特性上、敵にヒットしたという判定が入らない限りMP消費もされない。
(逆に、さっきの攻撃で妙なところでかすったりしてたら、敵を倒せないのに今頃体は地面に突っ伏していたんだろうな)
空振りで窮地になり、空振りに救われた。しかし次は、この刃をあの逆鱗に確実に当てる。
(あれ?)
剣を構え、敵をにらみながら不思議に思う。今の数秒だけでも、いや一目見るだけでも俺より騎士のほうがはるかに強いことがこのドラゴンにも当然分かったはずなのだ。俺だったら騎士のほうを警戒する。
だというのに、
(警戒の比重を俺に置いているような気がする)
俺はダーインスレイヴを一瞥する。この剣の真価を、あの空振りで見切ったのかもしれない。
なんという知能。さすがは龍族。
レッドドラゴンは俺を見据え、静かに腕を振り上げる。騎士は受け身の態勢に入り、まだ機ではないと判断した俺は騎士の後ろに入る。
爪と金属がぶつかり合い、響く音が何度もしている。範囲攻撃となる尾の薙ぎ払いは隙が大きいのだろう。爪で集中攻撃にドラゴンは切り替えていた。
俺たちの時とはうってかわり、確実に獲物の息の根を止めることに神経を注いだ攻撃が繰り広げられている。ドラゴン側も余裕がないのだろう。
ドラゴンからそれだけの余裕を削る騎士の、その神業に酔いそうになる自分をこらえる。
騎士は兜をつけており、その表情が見えない。故に、余裕があるのかどうかの判断はこちらもできない。しかしそれはレッドドラゴンも同様であった。
ドラゴンは一度後ろに引き、空にとび、くるっと一回転する。この動作は!
「ブレスが来ます!」
俺が叫ぶより早く、騎士は防御陣を展開する。
頬を膨らませ、俺たちに向けてその死の息を一気に吐く。
「なに、今の陣の展開の速さ。それにこの強度…」
アウトーメルが感嘆の声をあげる。炎のブレスがいま、まさに俺たちに降りかかっているにもかかわらず、陣の中は涼しいまでさえあった。
一体この人は誰なのか。今はまだわからない。
数十秒炎の息が続いただろうか。レッドドラゴンは地上に降り、獲物の様子をうかがう。
獲物は、全員無傷だった。
これまで何十年にもわたり、幾多の種族を屈服させてきたこのブレスの集中砲火でも、傷一つ負わせられなかった事実にレッドドラゴンは生まれて初めての恐怖を覚える。
ふたたび敵の観察を行い、蹂躙するとしよう。
まて、いない。獲物が一匹、足りない。
白い人間が地上におらず、いたのは二人と一匹の雑魚。
騎士はレッドドラゴンの頭上にとび、がら空きのその赤い頭を地上めがけて殴る。
巨体の視界は世界が揺れ、レッドドラゴンは初めての地面のその衝撃に、頭が真っ白になった。そして同時に、その屈辱の思いから、すぐにでも体勢を直そうとした。しかし。
地上に側頭部から突っ伏し、がら空きになった逆鱗に、魔剣を持った小僧がいた。
「いくぞ!スラリス!」
馬鹿な奴だ。お前の実力ではその魔剣を全力でふるったとて、われを削りきることは出来ない。そのスライムが水をかけ、お前が刃をふるうのか?やってみろ。レッドドラゴンは、脆弱な生物がとりうるできる必死の抵抗を予想し、鼻で笑おうとした。
しかし、スライムはなんと、大声で叫び始めたのだ。
「よーし!今日は剣の使い方を教えるぞ!」
あまりの頓珍漢な光景に、味方であるはずの灰色の髪の娘、騎士までもが動揺する。
魔剣の小僧はわれの逆鱗めがけて渾身の一撃を振り下ろした。けれど、気力を剣に奪われることはなく、小僧は倒れない。
「スラリス!もっと聞かせてほしい!何故なら
|チ《・》|ュ《・》|ー《・》|ト《・》|リ《・》|ア《・》|ル《・》|中《・》|は《・》|M《・》|P《・》|が《・》|消《・》|費《・》|さ《・》|れ《・》|な《・》|い《・》|の《・》|だ《・》|か《・》|ら《・》|!《・》」
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脅威は去った。致命傷となった逆鱗からたましいが抜け、龍の死骸がそこに落ちていた。
俺たちの勝利だ。
「ご、ごめんアウトーメル。俺、もう緊張で、ふらふらで、歩けない」
「ルナリオ、いいの。私がおぶってみせるから」
アウトーメルは俺を背負い、よたよたと歩こうとする。しかし、彼女の筋肉量ではさすがに無理なのだろう。こけてべしゃっと地面に倒れこむ。日はとうに落ち、闇が俺たちを包んでいる。
騎士は何も言わず、俺をひょいっと持ち上げる。
「騎士さん…ありがと…ございました…」
それだけを告げ、俺は気を失った。
アウトーメルは、先ほどまで脅威の源だったものに目をやる。
「牙と、つめと、うろこがおちてる」
この世界の魔物は、命を落とすと何かしら素材を落としてくれるが、それ以外の部位については消えてなくなる。
「後でルナリオに渡さなくちゃね」
貴重なレッドドラゴンの素材だ。仕留めた張本人であるルナリオが貰ってしかるべきだろう。
いやちょっと待って
「騎士様。いったんこちらはギルドでお預かりいたします。あとで取り分についてはルナリオが起きた後に要相談ということでよろしいでしょうか。」
本当のところ、騎士がいなければ私たちは死んでいた。本当ならばこの素材は騎士にすべて渡すのが筋である。しかし、私がルナリオを巻き込みそれで死にかけたというのに、その報酬がなにもないというのは肯定できず、厚かましいとは思いつつ騎士にそうしゃべりかける。
首を縦に振ってくれた。
「・・・ーメル!!アウトーメル!!ルナリオ!!返事をして!!」
草原地帯の方向から私たちを呼ぶ声がする。いつまでたっても帰ってこない私たちを心配し、プリマヴェーラが捜索隊を呼んできたのだろう。
私は、いつも彼女に迷惑をかけてばかりだ。
捜索隊は近づいては来ているものの、まだ離れた距離にいる。
捜索隊もまさかレッドドラゴンとやりあったはずがないと思い、他エリアから探しているのだ。しかし私の「ここにいるから!」という返答の声の方角にまさかとおもいつつ、おそるおそる現れた。
ふふ、プリマヴェーラの顔。そう、レッドドラゴンをまさかのルーキーが倒したの。
プリマヴェーラは顔を真っ青にしては私の不注意を叱ってきた。けれどすぐ涙を流して、私を抱きしめて「よかった」と何度も言ってくれた。そして騎士に抱えられたルナリオの手を握り「ありがとう、本当にありがとう」と呪文のように唱えた。
砂埃を払い、歩き出す。さあ帰ろう。
またルナリオが起きた時、沢山お話をするために。
アウトーメル達が街に向けて歩き出す中、騎士はいわゆるお姫様抱っこでルナリオを運んでいた。
そして、なにかもの言いたげな様子でじっと眠るその顔を見つめていた。
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