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第58話魔王討伐の準備
「ルナリオー!!!!」
「兄さん、ルナリオさん!!よくぞご無事で!!」
俺たちは辺境にやっとたどり着き、ついに家に帰ってくることが出来た。あらかじめ今日帰るだろうことをヨルデから連絡を受けていたスラリスとプリマヴェーラが優しく出迎えてくれる。アウトーメルは今日は勤務中らしい。
「二人とも、俺たちがいない間に襲われなかった!?怪我はなかった!?」
「おう、変な奴はいたけどプリマヴェーラ達がぼっこぼこにしてくれたんだぜ!!」
流石は筋力値嫁部門第一位。
それでも心配だったものは心配だったのだ。
「あの、兄さんはてっきり皆様と一緒だと思ったのですが…」
「レインさんなら、雑貨屋に直接馬車が行ってくれたよ」
「あら?兄さん、馬には乗れるはずなのに馬車、ですか」
「あっ・・・ああ、なんかそういう気分だったらしいよ!」
危なかった。毒死寸前の話は彼女には内緒なのであった。馬車に乗った理由は経過観察中だからということを説明したが最後、経緯も説明することになってしまっていた。
プリマヴェーラは急いで雑貨屋の方へ走り去っていった。スラリスは俺に抱き着き、頬を寄せスリスリしてくれた。俺達が離れている間、畑では作物が順調に増えていた。人手が足りないだろう中でも一生懸命拡張してくれたと知って、本当に愛おしくなる。けれどこんなところで話しているのもあれなので一回家に入ろうとソラスは俺の腰に手を添えて誘導しようとしてくれた。
「んー???なんかお前達雰囲気変わったか???」
「そ、そんなことないけど?」
「そっか、なんか前より仲良しだった気がしたけどおいらの気のせいだな!!」
スラリスの直感、侮りがたし。
俺たちは家に入り、茶を飲みながら王都であったことを簡単に説明していった。けれど段々スラリスが情報過多でうとうとし始めたのでベッドに置いてきた。
・・・するとこの部屋には俺とソラスしかいないことになる。正直二人きりにはなりたくない。二人だけの空間だといつも甘い空気になるのだ。それが恋心を封印している俺にとってはとてもつらい。
俺がこの世界で告白するときって言ったらどういう時なんだろうなあ。告白しないと相手が死にそうなときとか‥‥
「ルナリオ」
ソラスは気が付けば隣にいて俺の指に自分の指を絡ませてきた。俺はとっさに手を引き、触られた左手を隠した。嫌ではない。すこぶる恥ずかしいのだ。正直交際歴がないため、こういう肉体的接触になると免疫がない。いやそれよりも凄いことをすでにやってはいるのだが。
ソラスは俺の反応に捨てられた子犬のような反応をしたため、嫌っていると誤解はされないようにこちらから思いっきり手を握る。今度は撫でられた子犬の顔をした。
「ただいま戻った・・・・・・・・・・」
別行動をしていたトゥルニテが帰ってきた。そうだ、すっかり忘れていたけれどトゥルニテは俺の家に入り浸っているんだった。もはや半分住み着いてるレベルに。
俺たちの握手を見て、トゥルニテは固まる。
「・・・・・・・・・・この地域では帰宅後握手するのが文化なのか?」
何かを勘違いした彼は俺の手を握ってぶんぶんと振ってきた。
さて、審問会も王都での一件もすべて終わり、俺が目下やるべきことは魔王討伐のみである。材料もすべて手元にあり、レシピもある。正直ソラスの武器と防具は今の俺ではそれ以上のものは作れないため、自分とパーティメンバーのものだけ作ることにする。
そうだ、パーティを決める必要があるじゃないか。
「ソラス、魔王討伐に誰が刺さると思う?」
「ルナリオ、その話なのですが」
リビングにはトゥルニテと俺とソラスの三人がいた。
「僕は非常に魔王と魔王軍について詳しい。故に言わせてください。僕とルナリオだけで十分です」
「えっ・・・・」
俺は驚いて席を立った。聞いてるトゥルニテもメンバーに自分の名前が含まれていると信じていたので、突然の発言に目を丸くしている。
「いえ、正確に言うと僕だけで充分です。ただ魔王へ最後の一撃を入れるのにルナリオの力が欲しい」
「魔王討伐って・・・・」
そんなにヌルゲーだったっけ・・・?
「でも、万が一の時のために他のみんなにも声をかけたほうがいいんじゃないかな!?」
トゥルニテも素早くコクコクと頷く。自分も行きたいのだ。
なにより不慮の事故だって起こる可能性はある。ヒーラーの存在も不可欠だ。けれどソラスの意見は変わらなかった。
「不要です。足手まとい・・・・・・護衛対象が増えるだけなので」
うーん、ソラス級になるとそうなのか。けれど、彼一人でサクサク進めるほど楽なゲームシナリオではなかったような気がするが、残念ながら別ルートのことは詳しくはない。
・・・いや、ここは彼の判断を信じよう。素人の俺では彼の意見を覆せる根拠はない。さっきからトゥルニテが目をうるうるとさせて自分もついていきたいという主張をしているような気がするが、ごめん。言い返せる材料がない。
「分かった。二人で行こう」
「!?」
トゥルニテはいやいやと首を横に振っている。一方のソラスは自分の意見が採用されて嬉しそうだ。
「じゃあ、いつに出発しよう。準備をする必要もあるからね」
ソラスは最強なのでいい。けれど問題は俺だ。例え彼が自信満々であっても、俺はそうではない。ただ口ぶりから察するに俺のレベルの具合は彼にとっては連れていくのに問題は無いようには思うので、最低限装備さえ整えれば十分だろう。
そしてもう一つ。俺は最後にあいさつ回りをしたいのだ。最後のお別れの挨拶を。
魔王を倒したときのゲートの説明は出来ない。どうしてそれが出現するのか、それがどうして俺にだけわかるのか。伝えることは出来ない。
けれど、最後に何も言わずに去りたくはない。
「もしこの家を出発して魔王を倒すとなると、大体何日かかるの?」
「およそ5日前後かと。僕たちは1日かけて魔王の根城へたどり着き、一日一層のペースで制覇します」
「じゃあその分の旅支度も必要だね。・・・・でも今日は王都から帰ってきたばかりだからちょっと休ませてほしい」
ゲームと現実の時間の流れは違うための必要日数の確認だ。最終決戦だとエリアに入った段階でゲーム内では時間が停止したのである。故に現実だとそれがどのように変わるのか知っておきたかった。
武器と防具の支度は早くに済みそうだ。あいさつ回りは一日かけて終えよう。食料の支度とかも一日あればいけるかな。これが俺が街にいられる最後の時間になる。決して悔いはないように、この世界の美しい景色や優しい人々を目に焼き付けておきたい。
「よし、さすがに俺も疲れたから、数日休みを取ってから準備を始めたい。じゃあ一週間後に魔王を倒しにいこう!!」
ソラスは力強くうなずき、一方のトゥルニテは不服そうに見ていた。
俺たちはしばらくの間思い思いに過ごしていった。
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