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第60話出発

 魔王がどこにいるかというと、実は砂漠の国とこの辺境の間にある。  二つの国の間には不毛の地が広がっており、国と国とを繋ぐ道を「蜘蛛糸の道」と呼ぶ。この道以外を通った場合は体に穢れが蓄積するため、高位精霊術士や聖騎士の称号が同行者にいない限り決して足を踏み入れてはならない。  しかし魔王を討伐する我々は、その道をわざと外し、穢れが深い場所へ向けて進んでいくのだ。それゆえ主人公は対策装備をするか、もしくはパーティメンバーに聖職者を加える必要がある。  装備を整える場合には「精霊草」というものを畑で収穫し、素材として武具に混ぜる。相当農場レベルが高くないと駄目だが、こんなこともあろうかと前からエリアを絞って重点的にレベル上げしておいたのだ。狭い範囲だったら畑が傷んでもいいと判断し化学肥料を大量に使い、強引に収穫した。俺はあくまで軽装ではあるものの、しかし装備には精霊草を練りこんだため仮にソラスから逸れて一人になってしまっても魔境の瘴気に耐えるには十分な装備だ。  またパーティメンバーはソラスかヨルデのどちらかもしくは両方をメンバーに入れるのがゲームでは強く推奨されていた。ただヨルデはDLCであるため、大半のプレイヤーはソラスを入れる。ゲームプレイ時の俺の場合はソラスを避けDLCも購入していなかったため装備でゴリ押しする方針をとったことで、ソラスもヨルデも入れずにゲームはクリアできた。しかし俺のような瘦せ我慢さえしなければ、優秀な彼らは瘴気を払うフィールドを作ってくれたり、仲間の穢れを祓ったりしてくれる。  さて、俺とソラスは本日は早起きしてもう出るばかりになっている。スラリスは泣き疲れたのかまだ寝ており、一方、昨晩家にいたはずのトゥルニテはいない。 「昨晩トゥルニテは家にいたよね?ソラスに何か渡してたし」 「ええ、そうですね。どうしたんでしょう」  彼のベッドは冷えていた。昨晩眠りについている気はしたのだが、こんなに早くどこに行ったんだろう。彼とはここで最後の別れを言うつもりだったので、正直寂しい。 「昨日トゥルニテから針とナイフ貰ってたよね?今腰に下げてるそれがそうだよね。小道具ってソラスにしては珍しい」 「ああ、これですか。針には睡眠剤が、ナイフには麻痺剤が塗ってあります。・・・・・・使わないことになればいいんですが、保険です」  ・・・・・・・・?  朝日の加減でソラスの顔に影が出来た気がする。目が仄暗く、一瞬だが怖かった。  だがしかしこれから魔王討伐に行くのだ。目を輝かせていく奴などいない。  睡眠剤も麻痺剤も何に使うのだろうかと不思議には思うものの、きっと迷子になったとき道順を聞くため敵を拷問するとかなにかだろう。 「よし、じゃあ行こうか」 「はい、すべての決着をつけに」  新築の家のはずだけれど、あまりここに長くは住めなかったな。けれど、とても幸せな時間を過ごすことが出来た。俺は最後に家の中を見て、そして振り返り外へ足を進めていった。  辺境にも当然外と内を分け隔てる門がある。特にこの場所は国外に続く門であるため、王都の時とは厳重度が全然違う。そこから歩いて蜘蛛糸の道に到達し、瘴気の深いところをどんどん進んでいくのだが、蜘蛛糸の道までここから数時間である。そして蜘蛛糸の道からは馬は連れていけないため、必然的に俺たちは徒歩で三時間ほど歩く必要があるのだ。  そんなことを打ち合わせながら進むと、門の前に誰かがいた。いやもちろん門だから誰かいるには決まってるのだが、明らかに知ってる顔が3人いた。 「チッ」  ・・・・・気のせいだろうか、今ソラスの方向から小さく舌打ちが聞こえた気がする。品行方正な彼がするわけないから幻聴だろう。 「よお、奇遇だな。俺達も丁度魔王を討伐してぇなあって相談してたところなんだよ」 「そうですか。奇遇ですね。では僕たちはこれで」  ソラスは俺の腕を引っ張り、強引に門をくぐろうとする。しかしそれをトゥルニテが片手をあげて止める。 「ソラスさん、ルナリオが俺達のことを仲間にしたいという目で見てる」 「見てません。障害物を見る目です」 「なんで俺の目についてそんな議論が起こるの?俺は今、空がきれいだなあという目しかしてなかったよ?」  門の前にはトゥルニテ・シュトルム・ヨルデの男三名がいた。おそらくこの三名で結託し、流石に二人は危険だからということでついてきてくれるのだろう。  するとそんなお節介に俺はどう思うか。 「ええ!!心強い!!」 「ルナリオ!?あんなに、僕と二人がいいって言ってたのに、嘘だったんですか!?」 「ソラス、虚言はやめてくれ。俺はそんなこと一言も言って無い」  とくにヨルデがいい。ヨルデがいるのが大変心強い。俺はヨルデに近づき、手を握って振る。自分にそんな行動をとってくれる人は新鮮なのか、ヨルデはにこにことしている。 「ルナリオさんはとても先見性がありますね。そう、魔物対策に私は非常に刺さりますよ!」 「本当助かります!!もうヨルデさんがいたら百人力ですよ!!」  パーティに推奨メンバーのヨルデとソラスの二人が揃った。これはもう強すぎる。俺はテンションが上がっている一方で、ソラスの空気は絶対零度になっていることに気が付かない。  しかし意見は四対一。どちらが勝つかなど明白だ。  俺達は黙ってソラスを見つめる。見たことが無いくらい不快そうな顔をしていた。けれど静かに目を閉じ、うなずいた。 「・・・・・・分かりました。断っても永遠に付きまとってきそうですので、仕方がありません」 「ありがとうソラス!!大丈夫、ヨルデさん対魔物だと本当に強いらしいから!!」 「・・・!!俺の方が強い!!」 「張り合うなトゥルニテ」  ということもありパーティが五人になった。  凄い、婿候補から四人も集まってくれた。この奇跡に俺は一瞬興奮したものの、裏返すとレインさんだけいない事実に気が付く。確かに彼は戦闘員ではないものの、なんかハブみたいで彼のファンとしてはちょっと悲しい。 「いや、でも仕方ないよね。男性陣はレインさん以外みんなイロモノ集団だから。あの人だけは染まらないでいて欲しい。これは俺の勝手な願いだけど」 「何言ってんの?お前。とっとと行くぞ」  女性陣はみんなきちっとした職についてるのに、どうしてうちの男性陣はこうも変なのが多いのか。  そして紆余曲折はあったものの、俺達五人は歩き出した。彼らも魔王の住処のことは知っているのか、馬などは持たず、ただ必要最低限の装備で歩いている。それぞれの得意な武器を持ち、唯一ヨルデだけが武器を持っていなかった。彼は祈りによる後方支援が得意なのだ。 「トゥルニテ、同行出来ないって知ったときから不貞腐れてたもんね。今日はついてこれてよかったよ」 「不貞腐れてない」 「俺んとこにも来て泣き言を言ってきたんだよ。だから俺もしゃあねえからついていってやるよっていう流れになってよ」 「不貞腐れていないし、お前もキレてた」  またこの二人言い合ってるな。とにかく、二人ともソラスの判断に思うところがあったのだ。 「じゃあヨルデさんは?」 「レインさんから頼まれました。『僕は戦闘には向いていないから、代わりにあなたなら即戦力になるでしょう』、と」 「レインさん…凄い。なんという推察力。凄い、語彙力が無くて凄いとしか言えない」  あまりレインさんの話を繰り返すと、ソラスは機嫌が悪くなることがなんとなくわかった。無言で拗ねるのだ。だから俺は別の話に切り替える。 「ソラス、心配しなくていいよ。ヨルデさんは本当に瘴気を祓うのが得意だから。実際に見てみるとびっくりすると思うよ!」 「・・・・・・・そういうことではないんですけどね」  ソラスはパーティが多いと守るべき対象が増えることを気にしていた。けれど実際のヨルデを見れば瘴気を祓うその力の大きさに、自分の負担が減ることを喜んでくれるだろう。  そして何より、シュトルムのように変な別れ方をした面々と、あと少しだけでも一緒にいられるのもうれしかった。最後は悲しい別れではなく、賑やかでありたいものだ。この魔王討伐の旅を思い出すとき、俺の脳裏には楽しく笑うこの面々がいるのだろう。  寂しいけれど、でも今はとても心が温かい。 「ところでルナリオさん。ちょっといいでしょうか」  ヨルデが俺に近づき、何かを囁いてきた。 「実は教会が総力を挙げて回収した『女神のまどろみ』の話です」 「ええ、知り合いの商人も嘆いていましたよ。それが何か?」 「実は、あれが大量に行方不明になっている事件が起こったようでして」 「え・・・?」  それは、大変不味くないだろうか。 「ええ、私はこの地位と引き換えにあの騒動を収めましたが、これが表沙汰となると教会の存続すら危うくなります。現在は秘密裏に捜査中なのですが、なにか情報がございましたら教えてくれると嬉しいです」 「・・・・ええ、俺では役に立たないとは思いますが‥‥」  もう俺は魔王を倒して帰る気満々の身だ。故にこの先、人間の街に戻ることはないため新たな情報を拾えるわけがない。けれど本当であれば非常にまずい話でもあるため、一応は記憶の片隅にとどめておく。  そうして俺たちはついに蜘蛛糸の道にたどり着いた。

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