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第61話蜘蛛糸の道
蜘蛛糸の道。
これは道に蜘蛛の巣が沢山あるからというわけではない。蜘蛛の糸のように細い道というわけでもない。道自体が蜘蛛の巣のような造形をしているのだ。
瘴気が満ちる魔王の住処には、唯一普通の人間が通れる道がある。それが魔王城を中心として蜘蛛の巣のように細い道が大中小の六角形に形成しており、例えば王国辺境から砂漠の国へ行くのなら、蜘蛛の巣の外周の糸を辿るようにして通って行けば問題はない。なお道には偶に魔物と遭遇するだけで、割と平坦な道ではある。故に行商人や難民たちは難なくここを通って国を渡る。
逆に俺たちのように魔王に会いに行くのであれば、蜘蛛の巣を外してまっすぐ中央に向かって進んでいけば拠点がある。そして拠点は五層の建築となっており、その最上階に魔王が鎮座しているのだ。
「・・・さすがに蜘蛛糸の道から外れるのはこれが人生で初めてだからな。ヨルデの同行で対策があるとはいえやっぱ緊張すんな」
シュトルムたちもここからの道は初めての様子だ。周囲からは再三この道にまつわる注意事項を幼いころから刷り込まれているために、その顔からは緊張が伺える。
一方ヨルデは俺達に祈りを捧げ、瘴気対策の精霊術をかける。緑の綺麗な葉っぱが周囲に巻き起こり、それがキラキラと輝いて、消えていった。
代わりに俺たちの体がキラキラとしている。これで瘴気対策をしたのだろう、とても美しい術だ。トゥルニテ達も自分の体を簡単に確認している。
「ね?ヨルデさん頼りになるでしょ?」
「・・・・・・・・・・・」
ソラスにどや顔をしたが、ただ無言で俺の頬をつまんできた。
「僕の精霊術の方が圧倒的です」
「分かった、分かったからもう行こう!!」
活躍の場を一つ潰されて拗ねているのだ。ソラスは最近偶にこういう子供っぽいところがある。すでに「救国の騎士」という最高の名誉を持っているはずなのに、それでも俺にいろいろと自分の力を見せたがる場面が多い。きっと彼もどうやってここを進んでいくのか既に計画を綿密に立てていたのだろう。それを潰してしまって申し訳ないとは思う。
「ソラスの凄さは良く知っているからさ。これからの戦いで存分に見せてよ」
とはいうものの、先ほどから、道の先から魔物の悲鳴が聞こえる。そしてシュトルムとトゥルニテはここにいない。
「おう、道中の奴らあらかた片付けたぞ」
「うん、安心してこっちきて」
魔物を先んじて屠ってきた二名がどや顔でこちらに歩いてきた。
やばい、本当にソラスの活躍する場面が無い。さっきからズモモモという音が聞こえる。これは相当拗ねている。
「いや・・・でも本番は魔王戦だからさ!!そこでソラスの活躍が見たい、なんて・・・。あはは!!」
」
「本当ですか?本当に僕だけの活躍を見たいのですか?」
そうはいってないけど面倒だからそういうことにしておく。
いや、正直言うと俺もちょっと悲しい。なぜならこの日のために頑張って強くて格好いい剣と杖を作ったのに、活躍の場が無いのだ。
けれどソラスにも活躍はしてほしいからできうる限り武器は封印しよう。
俺はソラスの腕を引いて、地面の色が段々黒くなっていくエリアに足を進める。草は青紫色になっており、明らかに人間が進んでいい場所ではないことを視覚で説明してくる。
(・・・・・・・あれ?)
地面の色に注意を払っていると、見覚えのあるものが茂みに落ちていることに気が付いた。
(あの瓶、『|女神のまどろみ《ジュース》』が入ってた瓶じゃない・・・?)
茂みに無造作に落ちている。中見は空で、けれど女神の加工のおかげで割れずに原型を保っていた。そのおかげで見間違いでないことが分かる。
先ほどヨルデに協力を求められたことを思い出す。俺が視線を妙なところに向けているので、気が付いたソラスも同じように視線を追う。
「あれは・・・・。どうしてこんなところに」
ソラスも戸惑う。王都での大事件を経て、あの飲み物の危険性は民たちに伝わったはずだ。だというのに大量に紛失ということは、そこには悪意しか感じられない。
「魔王の巣窟に、毒物が持ち込まれている可能性・・・?」
もともと二つの液体は魔族が関わっている。とすると魔王が関与しててもおかしくはない。ひょっとすると、これから先の攻略が、毒物のせいで若干展開が変わる可能性がある。
「ルナリオ、心配しないでください。必ず僕があなたを守りますから」
先ほど活躍の場を奪われてちょっと拗ねてた人とは思えない格好良さだ。俺達は相変わらず道の前方から魔物の悲鳴が響いてるのを聞きながら、歩いて行った。
しばらくそのように進んでいくと、前方に五つの層が積みあがった石造りの建物が見えた。この1層を攻略するのにおよそ1日かかるという計算になる。すでに蜘蛛糸の道をたどり、時間が経っている為、日も既に落ちていた。この住処には神樹が大体1層ごとに1本生えているのだが、その付近は魔物は近づけないため、そこで休憩が出来るのだ。いわゆるラストダンジョンにおけるセーフゾーンである。
「よし、ここで一泊するぞ」
ついてきたはずのシュトルムが完全に音頭を取っている。けれど誰も特に異を唱えず、各々が出来ることを始めていた。ヨルデは神樹のエリアの端に近づいては祈りを捧げ、セーフエリアをさらに拡大している。
「ありがとうヨルデ。本当に助かるよ」
「いえ、私は戦闘は出来ませんからこれくらいのお手伝いはさせてください」
一応彼も浄化だったりデバフだったりは出来る。HPを削ることは不得手なだけで、彼の存在で相当攻略は楽になるのだ。
「・・・ヨルデ。さっきの道中で偶然見たんだけど」
俺はさっき見たジュースの瓶についての説明をした。ヨルデの眉間にはしわが寄っている。
「情報提供ありがとうございました。・・・けれど、何故ここにあの瓶が。それも中身が空に…」
仮に魔族が犯人だったとして、精霊術が使えない彼らがこれを飲むことはない。毒の生成以外に理由が考えられないのだ。すると、あの毒を爪や武器に塗られてでもしたらまだ俺達ではどうしようもないだろう。
「・・・注意をしておきましょう。確か殿下からもらった聖霊種、お持ちでしたよね」
「はい。備えています」
「緊急の時はそれを。よろしくお願いします」
俺は静かにうなずく。他面々にもこの件についての注意を促すべきとも思うが、しかし万が一どこかでこの話が漏れると教会の誰かがまた責任を取る必要がある。例え俺がシュトルムやトゥルニテに信頼を置いていても、安易に情報が漏れ出るルートを作りたくないようだ。流れた途端、どうしても彼らを疑う必要が出てくるから。
特にヨルデの場合は俺とは違ってまだ二人とは信頼関係を結べていないのだ。まあ、毒については俺が気を付けていればいいことだろう。
シュトルムたちは周辺の魔物の確認に、一方ソラスは炊事の器具を準備してくれた。今日の俺は本当に何もやってないので俺が料理を担当する。サンドイッチとかはあるものの、できれば後半にそれらは食したい。作れる余裕があるうちはちゃんと作っておきたいのだ。
いつものように家で採れた野菜を並べていく。玉ねぎ、ニンジン、ジャガイモ、その他もろもろ。とてもつやつやで栄養があることが一目で分かる。それらを慣れた手つきで皮をむいていき、切って、炒めていった。野菜炒めだ。うちの野菜は愛情をこめている為、食べると非常にバフがかかる。お椀によそって帰ってきたみんなに渡していった。
ただ、これだけでは品数が足りないので、特別に輪切りにした生のニンジンをみんなに小皿で分けていった。もう慣れているシュトルムたちは当たり前のようにデザートとして受け入れているが、唯一ヨルデだけは皿を受け取った後に俺の顔を見て、皿を見て、みんなの顔をみて、皿を見た。誰も何も突っ込まない光景にやや恐怖を覚えていたようだが、特にシュトルムが「大丈夫。慣れるから」と肩をポンポンと叩いて励ましていた。
シュトルムたちは一応自分の物資はちゃんと運んでは来ているようだが、できれば俺の物から使ってもらいたいと思い、食材はこちらから提供した。一応この世界を去る前に俺のこのかばんは置いていくつもりだ。とはいえできうる限り使い切っておこうと思っている。ダーインスレイヴもこのエリアではMP0の状況は自殺行為に等しく、使わないだろうと判断し家に置いてきてある。できればスラリスが今後金銭に困らないようにあれを売って欲しいと思って置いてきたのだ。
各々が寝具を使い、睡眠をとっていく。今晩の見張りはソラスのようで、彼は揺れる火を眺めていた。
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