61 / 66
第62話1.2層攻略
夜が明け、朝が来た。
太陽の光に照らされ、誰が合図するまでもなく俺たちは起床する。ソラスも座りながら仮眠をとっていたようで、俺達の起床を確認し立ち上がった。荷物をまとめ、五名のパーティはいよいよ石造りの層へと突入する。
トゥルニテがあくびをしており、シュトルムがたしなめた。相変わらずシュトルムは粗雑そうに見えてきっちり体内時計を調整している。一方俺も野宿は慣れないため腰が痛いのだが、それに気が付いたヨルデが精霊術を行使しては疲労をとってくれようとした。彼の精霊術は確かに疲れはとれるのだが、やはり睡眠に代えられるものではない。術はあくまで補助であって万能ではないのだ。
さて、この魔王城ともいうべき層は、それぞれの階が別個の環境を保有する。
例えば1階は砂漠、2階は溶岩というように厳しい環境を持っているのだ。これはそれぞれ特定の環境でしか体が適応できない魔物の住処でもあるため、階ごとに特徴を尖らせていないと彼らも住み着けないのだ。しかし人間に仇なす存在である以上は倒す。
故に俺たちは一階に足を入れた。
景色がぐにゃりと歪み、足元も固い場所からさらさらした場所へと変わる。
砂漠だった。上は別の層があるにもかかわらず、太陽が燦燦と輝く。
「ここから二階につながる階段を探せばいいんだよね?」
「はい、そして階段前には守護者が待ち受けています」
砂漠の層の守護者は大蛇である。一睨みで石にしてくるため、対策抜きに挑むと大変まずい。この層の攻略には本当ならエシュテスとトゥルニテが活躍する。双方とも砂漠の国の出身であるため、乾燥や対蛇に慣れているのだ。ただエシュテスの方は自身が猫を使うため、天敵の蛇のことは嫌っているので彼女を加えていくと戦闘を嫌がる会話が見られる。
さて、敵が石化のヘビという事実をどうやってみんなに伝えよう。
「過去に書物で見たことがあります。この層は石化の大蛇、ではなかったでしょうか」
俺が言葉を悩んでいるうちに、ソラスが代わりに言ってくれた。
「書物・・・?私は教会で魔物の研究をしていたのですが、全然知りませんでした。石化、とても厄介ですね」
そう言いながらヨルデは俺達に何かしらのバフをかける。石化対策だろうか。本当に有能だな。
「蛇か。相手にすんのは得意だぜ。なんてったって生きててずっと蛇の相手をしてたんだからな」
それはシュリイ妃のことを言ってるのだろう。シュトルム渾身のブラックジョークである。
「良い蛇は見逃す。こちらを襲う蛇は殺す。捌くと淡白でなかなか上手い。俺にまかせて」
トゥルニテも心強いことを言ってくれる。そうなると俺が出来ることはただ一つだ。
「俺さ・・・。後からちゃんと行くからさ。みんな先に行ってくれない?」
「なんでだよ」
「な、『なんでだよ』!?」
戦闘民族たちには伝わらない、この恐怖。
ゲームでは画面越しに何とかやっていたけれど、ここは現実。自分よりも10倍以上でかい蛇がうねうねするのだ。普通サイズですら見かけたら心臓が止まるのに、それがはるかに大きいのだ。こわい、こわすぎる。
「駄目です、ルナリオは僕の活躍を見ている義務があります。一緒に行きましょう」
「こんなに人数いるなら俺一人いなくてもいいじゃん!!もっと少数パーティだったら俺も勇気出してたけどさあ!!!」
「よし、まずは階段前まで一緒にいこうぜ。な?それからゆっくり考えようぜ」
俺はやや強引にシュトルムに連行されていく。トゥルニテは慣れている砂漠をみんなよりも先に進んでは、太陽を見たり周囲を見たりして角度を調整しながら俺達を先導していった。こういうのって何も考えずにまっすぐ進むと、体の傾きによって円を描いて最初の場所に戻るっていうもんなあ。慣れている人が一人いるだけでありがたい。
すると蜃気楼と共になにやら城のようなものが見えてきた。
「あれが次の層への階段ですね」
「そっか。僕はここで待つよ」
「ここはサソリもいてあぶねえから、もっと詰めるぞ」
ずるずると引きずられる。歩くたびに城が段々と近づき、なにやらその中でズルズルとうごめく音が聞こえる。ここに至るまで雑魚の魔物は俺達に襲ってはきたものの、あっという間にみんなが屠ってきた。俺は何もしていないのに、さらにその上ただ蛇に怯えるという超足手まといをしている。
そして大蛇はいた。
俺達の姿を視認するなり、目から光線を放つ。
紫の光線だった。これに当たると石化するのだ。その解呪には精霊魔法かアイテムしか方法が無い。ソラスは白い盾を瞬時に展開し、真正面から受ける。ちょっと俺の顔を見て満足げだった気がするが、悪いが蛇が怖すぎて今の俺はシュトルムの背中に張り付いている。
ヨルデも俺と同様にシュトルムの背中に隠れているが、なにやら祈りを捧げる。すると光の粉が撒き散り、トゥルニテのナイフに集まっていった。
「切れ味をあげました!!お願いします!!」
トゥルニテは、必殺技を使ったその蛇の隙を逃さない。一気に回り込み、首を一気に落とした。刃渡り的に足りないはずなのに、連撃を高速でいれたのだろう。
「トゥルニテ凄い....」
思わず呟いてしまった。あ、しまった。ソラスがまた対抗心燃やしてトゥルニテを厳しいまなざしで見ている。
そうして一切の苦労無く、あっという間に一層を攻略した。ボスを倒す時間よりも、ここまでくる時間の方が圧倒的に長かった。
「.........?」
一方先ほど守護者を仕留めたトゥルニテは、自分の獲物を見て首をかしげている。
「ヨルデのサポートのおかげで随分切れ味がよかったんじゃない?」
「・・・・いや、それにしては流石にあっけなさ過ぎと思って」
あまり手ごたえを感じていないようなリアクションをしている。しかしそれはトゥルニテの主観による感想なので、何も言ってあげられない。「強くなったんじゃない?」と言って無理やり納得してもらった。
ドロップした素材は拾って、シュトルムに押し付けた。俺ではその素材をこれから先使うことはないので
彼に有効活用してもらいたいという判断だったが、まるで終活とでも思われたのか要らねえよと言われて突き返された。
まだ15時のため休憩には随分早いのだが、このまま連続で行動した場合、もし長引いたら危険とのことで2層に上がってすぐに休憩を取ることにした。
ここは溶岩エリア。あまり長居はしたくないが、この神樹の付近は温度も調整されていて過ごしやすい。俺達はまた一泊してから進むことにした。
--------------------------------------------------------------------
「なんだよあの魔物!!気持ち悪ぃなあおい!!」
「え?そう?可愛いじゃん」
2層のボスはタコだった。溶岩に巣食うタコ。
吸盤の綺麗な配列から雌だろう。俺は水魔法を打ちながら、隙あれば足に攻撃する。おいしそうだなあ。
「意味わかんないんだけど。なんで蛇は駄目であれはOKなの」
「ええ・・・?おいしそうじゃん」
文化の違いである。タコはところどころ岩の仮面をつけており、うねうねとこちらに襲い掛かってくる。その攻撃手段は物理のみのようで、攻撃力は高い反面よけやすいのでそれほど辛くはない。気持ち悪がるシュトルムとトゥルニテの代わりに、今度はやっと俺が活躍するときが来た。水をかけ、切り刻み、雷で焦がすことで少しずつ削っていくさまが何とも料理をイメージして楽しい。
一方シュトルムはなるだけ近づきたくないのか、銃をもって応戦する。狙いを定める結果、吸盤という気持ち悪いものが目に入って何とも辛そうだ。
一方相手がタコだろうがお構いなしのソラスは、一生懸命戦う俺をほほえましそうに見守っていた。大きい攻撃が来たら代わりに割って入って受け止めてくれる。けれどそろそろ溶岩エリアも暑さで辛いので、ソラスは光の剣を召喚し、一気にタコを串刺しにする。
オーバーキルともいうべき圧倒的攻撃力に、タコは一瞬にして消失した。尚ヨルデはマグマがこっちに飛ばないように防御を維持してくれている。
「最初からやれよ!!あいつマジでキモかったんだけど!!」
「ルナリオがとても楽しそうだったので」
「いい遊具を見つけた父親目線かよ!!」
ソラスはシュトルムに怒られていた。何もないことに越したことはないので、俺は二人の間に割って仲裁した。こころなしかヨルデも顔色が悪いのでよっぽどあのタコのフォルムが嫌だったのだろう。絶対蛇の方が気持ち悪いと思うんだけど。
そうして俺たちは難なく2層から3層へと上がっていく。
(・・・・・あれ?)
そういえばここまでの戦いで一度も魔王幹部に遭遇していない気がする。守護者一匹につき、魔王幹部が一人ついているのだ。けれど1層も2層も単体だった。
(・・・・・遭遇しないに越したことはない、よね?)
幹部と言い女神のまどろみといい、小さな疑問は積み重なっていくが、しかし些事と判断し、一旦思考を中断する。確かにソラスの言った通り、ソラスがいれば問題なくサクサク進んでいけているのだ。
そのまま俺たちは3層に進んでいった。
ともだちにシェアしよう!

