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第63話最後の休息
いよいよ俺たちは3層にきた。ターニングポイントだ。しかし、足を踏み入れた瞬間、俺達は驚愕で足を止めた。
目の前に広がるのは雪、雪、雪。
知ってはいたけれど、あまりの降りように驚く。
「よし、また神樹があるな。ここで一泊するぞ」
しかし、誰も頷かない。確かに神樹の周辺は温度は一定に保たれていてまだ暖かい。しかし、それでも周囲の空気につられてなんだか寒いし、周辺が豪雪のため気分的になんか嫌なのだ。ひとつ前に一泊した2層の溶岩のときは、一応セーフゾーンからはブクブクとした熱いものは見えないでいたし、セーフゾーンの隣には普通の冷たい湖もあったおかげであまり気にならなかったのだ。あの時は出入口の天井も鍾乳洞のような形になっており、とても過ごしやすかった。
「いや分かるぞ。寒いよなここ。火を起こして布を被っている分には凌げるとは思うがよ。あーさみぃ」
そう言ってシュトルムは俺に体を寄せる。こちらとしてもありがたい。
「シュトルムって暖色だからこういうとき助かるよね」
「俺の髪を薪がわりにするな。っていうかさっきの溶岩地帯で俺に距離があったの、暑苦しいって思ってたわけじゃねえよな…?」
「あははは」
「あはははじゃねえよ」
ヨルデも寒いのか、俺達にすり寄ってきた。男三人がくっついてる妙な構図になってる。
「ルナリオ。あたためますのでこちらに来てください」
「・・・・・・・・・」
「ルナリオ・・・?」
ソラスは鎧をつけている。見るからに冷たそうだ。めちゃくちゃ嫌だ。
「ヨルデは暖かくなる精霊術とかないの?」
「それはもう魔法の領域ですね。先ほどのように溶岩から守ることは出来ますが、温度調節はちょっと…」
「となるとソラス頼りかあ・・・」
しかし見るからに鎧が冷たそうなのだ。その視線に気が付いたのか、ソラスは武装解除を始めた。
「いやいやいや、いいよ。俺はこうやってシュトルムの体温奪ってるから。家賃の恨みを返してもらってるだけだから」
「家賃は正当な権利だろ。住ませてやってんのになんだその言い草は」
頬をつねられる。頬を触ってくるシュトルムの手もかなり冷たいため、二重で辛い。
「はい、はい!!こんな寒冷地もあるだろうと思って、今日は唐辛子スープにします!!」
以前ソラスが覆面だった時に作ってくれた奴だ。寒い時はやはり辛いものが助かる。あらかじめ作っておいたサンドウィッチといただこう。
「え?あの辛くてやばかった奴?嘘だろ別のにしようぜ」
「駄目。辛さ調節するから我慢しなさい。さっきから寒さに耐えられなくてトゥルニテが死にかけてるから」
余りの温度の低さにトゥルニテがさっきから喋ってない。暑いのは得意だが寒いのは苦手なのだ。シュトルムも半分は砂漠の民なので寒さは苦手なよう。としたらここは唐辛子料理しかない。俺は手際よく野菜を切り、以前作って貰ったようにスープにしていく。そして唐辛子も煮込んでいった。
けれど俺は忘れていたのだ。辛さが得意な人間の作る料理というのは、多少手加減しても壊滅的に辛いということを。
「馬鹿舌!!どういう辛さだ!!」
「辛い・・・」
「あれ、ごめん。加減を間違えたかも」
「なんでお前他の料理はまともなのに唐辛子料理だけ手が滑るんだよ!!」
デザートのニンジンで舌の回復をするシュトルムとトゥルニテ。
対してソラスとヨルデは満足げだった。
「程よい辛さ。体も温まってとてもいいですね。私は気に入りましたよ!」
「ルナリオの食事はいつだっておいしいです」
「ね。おいしいよね」
そうしてあっという間に食事の時間は終わった。
けれど俺は知っている。これが最後の憩いの時間になることを。
なぜならこの層が終わって上の4層に上がると、五階の魔王討伐組と四階の無限湧き抑え組の二手に分かれる必要があるためだ。四階にセーフティーゾーンはない。3・4・5はノンストップですべてを攻略し終える。
食事の時間は終わり、各々就寝に入る。今日は俺が見張りを希望した。最後の時間、色々考えていたいのだ。どのみち明日ようやく元の世界に帰られるんだという興奮で寝付けないだろうし。いちおう体育座りはして目を瞑り仮眠はとる。他のメンバーはみんな就寝中だ。
しかししばらくすると、誰かがもそもそと起き上がって俺の隣に座ってきた。シュトルムだ。
「眠れないの?」
「んーまあ、そんなとこだな。どうもお前のさっきの空気に違和感を感じて、な」
「俺?明日に緊張してるだけだよ」
でもこれが最後の休憩ということは伝えられないでいた。なんで知っているのかを伝えられないからだ。カップに水を注ぎ、喉を潤す。冷たいけれどおいしい。そんな中シュトルムは俺の顔をまじまじと見て、爆弾発言をする。
「お前、ひょっとして|あの騎士《ソラス》のこと好きなのか?」
ブフーーーーーーーーーッ!!!!
「ごほ、ごほっ…」
「いや悪ぃ、カマをかけたつもりだったんだがビンゴだったか。」
「ごほ、いや、誤解で‥‥」
全く誤解ではないが、しかしつい否定してしまう。
「なんか、あいつこっちにめちゃくちゃ牽制してくるし、肝心のお前もそこまで違和感持ってないっぽいしでまさかとは思ったが本当だったか」
「そそそそんなことは」
挙動不審の俺を、シュトルムはどんな目で見ていたか。
とても優しい目で見ていた。
「言っとけよ本心。言わずに後悔するのはお前だぜ」
「いや・・・・あの、本当にそんな・・・・・」
けれど彼は言葉を交わせなかった結果マルグリット妃から憎まれていた人だった。彼から話し合いをしたとて当時の彼女は受け入れてはくれなかっただろう。
故に。意思疎通の大切さを一番知っているのもまた彼なのだ。こういった場で発せられる彼の言葉には重みがある。
「本心を伝えず、あの時どうすればよかったのかを延々と考えるのはとても辛い。だからせめて、お前は正直に生きて、後悔なく生きて欲しいんだ」
「シュトルム・・・」
やはり彼は優しい人だ。俺なんかのことにここまで気を配ってくれている。こんなことを話すメリットなど彼にはない。けれど、せめて手の届く範囲で人をたすけようとしてくれている。俺は彼の綺麗な赤の頭を優しくなでた。
「シュトルム、うんと幸せになってね」
「俺はお前に一番それを言われたくなかったんだけどな」
照れてるのか、頬を染めて顔をポリポリとしている。
「これ以上喋ってると狸寝入りかましてる奴がそろそろキレてきそうだな」
「え?なんて?」
「お前もさっさと疲れを取れよ」
シュトルムは立ち上がり、寝床に向かっていく。
「後悔のない選択をしろよ。お休み」
後悔。
俺はずっとあの世界に帰りたいと思っている。だからこの選択に後悔はない。けれど改めてそう言う発言をされると、俺はいろいろと考えてしまうのも事実だった。
手元にはスラリスがくれたガーベラの花がある。花を愛でつつ、いろいろと引きずりながら、それでも仮眠の再開を始めた。
夜は深まり、時間は止まらず、そして朝はやってくる。
それぞれがこの日の層の攻略を念頭に置き、身を起こす。ソラスだけは厳しいまなざしをしており、まるで今日が決戦の日ということを知っているかのような凄みを感じた。
そして、この世界で過ごす最後の一日が始まった。
3層のボスも俺たちは難なく撃破し、いよいよ4層5層の同時攻略に挑む。別れの時は近い。けれど、魔王を倒して元の世界に帰るのだと、俺はただ前だけを見ていた。
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