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第64話魔王
俺達はいよいよ四層へ駆けあがる。もうここから先はセーフゾーンは存在しない。てっきりまた休むと思っていた面々は、これが最後の戦いであることをここで察する。
さて、ここからは四層組と魔王討伐組に分かれる。どういうことかというと、この層では敵が無限湧きするのだ。そしてこちらに殺到してくる。これは魔王を倒すまでずっと続く。ではみんなで四層を抜けてしまえばいいと思いきや、そうはいかない。なぜなら魔王と後方の無限湧きに挟み撃ちにされるからだ。
故に魔王を倒す組み合わせと、そんな面々が集中して戦えるように五層に行かないよう押しとどめる面々で分かれるのだ。ただ、ソラスは当初の予定では俺と二人で行く予定だった。そういう攻略の仕方も可能だ。そう、後ろから殺到する前に超攻撃力で魔王を削るタイプのやり方。
相当攻撃力が無いと通用しないので一度ソラスに家で遠回しに確認を取ったことがあるのだが、神律音の剣を見せられてしまい俺は黙ってしまった。世界最強武器じゃねえか…。なんでパールミルリスなんて使ってんだこの騎士…。
「ソラス、剣を変えよう。パールミルリスはやめよう」
「嫌です」
「とても素晴らしいセンスだとは思うけれど、今は神律音の剣の方が絶対良いと思うよ」
「ごめんなさい」
結局使わないのかい!!じゃあなんで家で俺に見せたんだ!!
無限湧きを押しとどめてくれる頭数がいる為今回はタイムアタックの必要はないが、けれどさっさと倒すに越したことはないのに。魔王相手に、舐めプしようとしてる味方がいることにびっくりだよ。
魔王討伐はおそらく俺とソラスで戦い、他三人が押しとどめる役になると思う。ゲーム攻略でも恋人枠を除けばソラス起用が一番推奨されると聞いたことがあった。恋人と主人公は強制的に魔王討伐組に組み込まれる。無限湧きは手数との勝負になるので俺達のパーティでは、この配分がちょうどいいだろう。
三層までの明るさとは異なり、四層は極めて暗い。そして建造物は俺達のいた世界の廃ビルのような造形をしている。コンクリートの壁、ボロボロの床、窓はあるものの外は暗い。
「なんだ、ここ。湿度もあって薄気味悪いな」
「私もこんな建築は初めて見ました。興味深いような、不気味なような」
俺も廃墟は苦手なので、気持ちはよくわかる。どうしてここだけ廃ビルのデザインをとられているのかは俺も知らない。ただ不気味さの演出としてはとても刺さっているとは思う。
「何もいない。変なとこ」
「油断はしないでください」
そう、部屋に入ってすぐには魔物は湧かないのだ。中盤あたりに一斉に湧く。そこから俺たちは全員で魔王の方向へ走り、役割分担をする。
・・・・・・・・・・・・・・
はずだった。数歩歩いただけで敵が一気に現れた。
「!?」
「全員、固まって奥に進んでください!」
ソラスの咄嗟の指示で俺たちの方向性は決まる。確かにここは現実世界なのでゲームと差異は生じるだろう。しかし、今俺たちが通る四層は縦に長い。こんな序盤で敵が来ることは絶対なかったはずだ。俺はなぜだろうと思い敵を観察したが、しかしこんな切羽詰まった状況でそこまで把握することは出来ない。今はただ陣形を壊さぬように進むだけだ。
(・・・・・・あれ?)
こちらに押し寄せてくる魔物の面々を、俺は知っている。
紫色の肌の妖艶なラミアー
ミスリルで動くゴーレム
幻術を使う小人
地面を自在にわたるアンデッド
全員、魔王幹部だ。それも、本来なら1~4層までに一体ずつ配置がされているはずの。それぞれの守護者に対して、サポートをしてくる敵たちだ。しかし彼らとは今の今まで遭遇せず、ここで初めて遭遇した。おかげでここまでの道中は楽だったが・・・・
(一挙に四体が押し寄せるのにさすがに三人で抑えられるんだろうか!?)
そこにさらに大量の魔物が殺到してくるのだ。何故、こんなにもゲームとずれがあるんだろうか。
「ねえ、あの明らかに強そうな四体。喉が潰されてる」
走りながらも、トゥルニテは観察していたようだ。俺も視線をそこにやる。本当だ、喉に黒紫の光る傷跡がそれぞれついている。確か、この四名はシュンネペイアのようにべらべら会話を好む奴らだったはずだ。だというのに喉を潰されただ呻きのような声だけを上げている。そしてその目には、俺たちのことを排除すべき人間ではなく、怯えと共に恐怖が感じられた。
なんだろう、勝てないことが分かっているけれど、他に出来ることもないから一か八かというような・・・
「ルナリオ、前を見ろ!!よそ見してんじゃねえ!!」
俺に蜘蛛の魔物が糸を吐く。それに対してソラスが光の斬撃を飛ばし、斬ってくれた。
「ありがとう!!」
「いえ、当然です」
先頭をソラスが駆け抜け、シュトルム、俺、ヨルデ、殿をトゥルニテが務めている。一人が歩速をずらすと、ほかのメンバーに大きく迷惑がかかる。陣形を維持しながら、押し寄せる魔物を切っては開き、斬っては開いてと進んでいった。
「・・・・・このエリアは魔物が無限に湧いてくる。おそらく、魔王を倒すまで永遠に続くでしょう」
「もし魔王のもとまで行ったとして、こちらに押し寄せてしまったら。そうすれば私たちはジリ貧ですね。二手に分かれましょう」
「うん、ソラスと俺が最上階に行くよ。みんな、ここを任せてもいいかな」
他の面々は無言でうなずく。五層に続く階段が見えてきた。俺は走り、ソラスのすぐ後ろについた。一方他三人は一気に身を翻し、押し寄せる敵を向かい撃つ。
「・・・ここは彼らに任せて、僕たちは急いで魔王を討ちましょう」
「うん、頼りにしているからね、ソラス。」
「行ってこい!!魔王なんかさっさと倒して来いよ!!」
「時間は稼ぐ。任せて」
「信じてますよ、ルナリオさん」
「ありがとう!!!みんなも武運を祈ってるよ!!」
階段に続く扉を二人でくぐると、先ほどとは打って変わって静かな空間がそこにはあった。そして最上階に続く階段がただ静かに俺たちを待っていた。
階段はこれまでの階層とは材質が異なり、明らかにこの先に魔物の王がいるということを簡単に想像させるほど荘厳だった。そして、階段の一段ごとにきらびやかなランプが灯っていた。すべて白色の光を放っている。ゲームでもこの光景は見たが、しかし白色だっただろうか。もっとこの空間に合った、おどろおどろしい色だったような。いや、今はそんなことはどうでもいい。俺は階段を急いで上がろうとした。
しかし。
「・・・・・・・・・っ」
ソラスは階段の前でとまり、|息《・》|を《・》|止《・》|め《・》|て《・》|感《・》|動《・》|を《・》|し《・》|て《・》|い《・》|た《・》。そのきれいな頬を染め、その目を少し潤ませ。
「ソラス・・・?」
「え・・・・・あ、ああ。ごめんなさい。行きましょうか」
ソラスはいつの間にか針を手に持っていたが、しかし階段の光を目の当たりにして懐に戻していた。
らしくないソラスを引き連れ、長い長い階段を駆け上がる。一段一段上っていくごとに空気が薄くなっていく感覚がある。
仲間から距離はだんだんと離れ、もう二度と彼らとは会えなくなるという悲しみが湧いてきた。4層ではあまりに想像以上に敵の湧きが早く、あんな簡単な別れになってしまった。覚悟はしていたというのに、けれどそれを振り払うように俺は足を一歩、また一歩と進めていった。
そして最上段に到達したとき、そこにはとても大きな鉄の扉があった。この先にいよいよ魔王がいる。
俺はソラスを見た。彼はこくんと頷き、扉にそっと手を当てる。
そこは外だった。天井は無く、青空が広がる。床は広く、中央を囲むように、大きな四つの柱が立っていた。
けれどその次に俺の目に入ったのは、魔王ではなかった。
|氷《・》|だ《・》|っ《・》|た《・》|。《・》
宙に浮かぶ、とても大きな氷だった。四つの柱に鎖が括りつけられており、それがとても多きな氷を宙に吊るしていた。
そしてその下に魔王がいた。黒い肌に大きな角を生やし、目は五つの異形。この世のものとは思えない、とても不気味な生物。巨体で、魔物の王を名乗るに相応しい気味の悪さがそこにはあった。
その魔王の上に大きな氷が宙につるされていたのだ。俺はあまりの光景に言葉を失う。
(何だこの光景、ゲームで見た記憶がない)
ゲームではここで、俺たちを待っていた魔王が立ち上がり、どうして世界を滅ぼそうとするのかの長い話が始まった。けれどそれと眼前に広がっている光景が全く一致しないのだ。
魔王は玉座に座っていたが、しかし氷と同じように鎖で雁字搦めにされていた。丁度四本分、鎖が体を貫いている。よく見るとその四本の元を辿ると大きな氷があった。
魔王との対峙を覚悟をしていたはずの俺の心は、脳が理解を拒んで思わず後ずさる。すると、足元に何かがぶつかった。
(これ…。「慈悲の涙」と「女神のまどろみ」だ)
瓶が大量に散乱していた。
「っーーーーーーーーーーー!!!」
一方魔王は声にならない呻きを上げ、ただ苦しそうに玉座の上で身じろぎをしている。よく見ると、氷は少しずつ解けていた。解けた氷の水が鎖を伝い、魔王の体に点滴のように注入されているのだ。
「つまりあの氷は・・・・『慈悲深き女神の涙』を氷で固めたもの」
それが体に注入され、しかし俺に殺されるまで死ねない魔王はああやって永遠に苦しみ続けているのだ。
一体、誰が。どうしてこんなことを。
「『慈悲深き女神の涙』。王都にいた時、混ぜれば毒になるなんてこと僕は全然分かりませんでした。ルナリオはすごいですね。」
ソラスは平然とした表情で俺に語り掛ける。
誰が。
一体どうして。
何の目的で魔王にこんなことを。
いや…。犯人なんて一人しかいない。
「ソラス・・・どうしてこんな真似を・・・?」
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