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第67話プリエスティラ新農場物語 最終話
四層の魔物の無限湧きは止まり、シュトルム・トゥルニテ・ヨルデの三名はその場の魔物全てを屠った。魔王幹部が一挙に押し寄せてきたのは驚いたものの、発声が出来ぬようで全く連携がとれていなかった。誰がどうして喉を潰したのか、三人には想像できなかった。けれど、いまはそれより上階に行った二人のことが気になって仕方がない。
「よし、これで大丈夫だろう。さっさと上にいって状況確認しに行くぞ」
「魔王を倒したから湧きが収まったとは思うのですけれどね。それでも心配です」
互いの怪我の有無を簡単に確認し、三人はうなずきあう。擦り傷切り傷は多いが、大けがは誰もしていない。それぞれが武器を収め、魔王に続く階段を無言で眺める。
すると、地震にも等しい地鳴りがする。
「おい、これさっきも起こったよな!?さっきのやつよりもかなり大きいぞ!!」
「建物がミシミシ言ってる。倒壊する」
「私たちも一旦引きましょう!!」
「上階の二人は・・・まあ、|騎士《あの野郎》がいるなら俺たちの助力は不要だな、先に行くぞ!!」
三名は崩れていく周囲を横目に、下の階段へ向かって走っていく。しかし、ここに至るまでの道中はとても長かった。崩れる速度からして明らかに間に合わない。
けれど3階に戻るはずの階段に到達したとき、三人は気が付いたら最初のセーフゾーンに立っていた。階段を一つでも降りれば強制的にスタート地点に返されるように設計されていたのだ。
あたりを見回すが・・・しかしあの二人はいない。もう一度戻るわけにもいかず、三者はただ無言で崩れ行く城の行く末を見守っていた。
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ゲートは目前だった。あれをくぐれば、きっと俺は帰ることが出来る。
この世界で初めてギルドに寄ったとき、書いてあったのは「青い」ゲートだった気はする。けれど今はそんなことはどうだっていい。
あの先に俺がずっと会いたかった家族が待っている。
この死にゲーから脱出し、何の別れも言えずに離れることになった家族に、伝えたいことがあった。沢山あった。
けれど俺は駆けた。
|ソ《・》|ラ《・》|ス《・》|の《・》|方《・》|向《・》|に《・》|向《・》|か《・》|っ《・》|て《・》。
彼はひざを折り、その大きな手は地面をつき、そしてただ涙を流していた。俺が向こうへ行くのなら決して止めないとばかりに、涙しながらも見送ろうとしてくれた。
俺は確かに、家族と再会して伝えたいことがあった。これまで支えてきてくれた感謝を。
けれどそれ以上にソラスにも伝えたいことが出来た。たったそれだけの理由だけれど、俺が彼を抱きしめるのには十分すぎる理由だ。
駆け寄って、力強く抱きしめた。両腕で彼の顔を抱きしめた。
「ルナ、リオ?」
想定外の展開に彼は困惑している。白いゲートは俺の選択を受け取ったかのように、段々と薄くなり、やがて消えた。
抱きしめたソラスの体温が何とも心地よく、愛らしかった。綺麗な顔も涙で濡れていて、指で優しくなでるとくすぐったそうに目をつむる。
きっと。俺があのまま消えたら、俺が大好きなこの人は死を選ぶだろう。
愛している人には幸せでいてほしい。俺はこのゲームにいる間、ずっと家族の幸せを願っていて、それをもう一度見たかったという願望があった。けれど、それ以上にソラスには幸せでいてほしかった。本当、ここに至るまでは帰る気満々だったのに、こんな重要な判断を咄嗟に変えてしまったのだ。
あちらを選べばソラスへの未練が残り、こちらを選べば家族への未練が残る。
どちらにせよ未練は残る。だからこれは大きい選択肢ではない。
じゃあ後はどちらを幸せにする覚悟を持てるか、それだけだ。
ソラスは先ほどまでにゲートがあったところを呆然と見ている。
「ルナリオ、どうして僕を・・・選んでくれたんですか?」
「ひどいな、まるで俺がソラスを捨てる確信を持っていたかのような言い方で」
「だって…」
ソラスは戸惑っては言いよどむ。そうか、この人は俺が二度と帰らない選択肢を取ると確信をしていて、それでもなおここまで導いてくれたのか。本当に、何て優しい。なんて俺にはもったいない人なんだろう。
驚きに満ちたその表情は、しかしやがて安堵の表情に変わっていき、俺を力強く抱きしめた。震えは止まっている。涙は止まっていないけれど、しかしアメジストの瞳に美しい輝きが戻り始めた。
「絶対に、絶対にルナリオを幸せにします。ここに残って良かったって、絶対泣かせることはしません」
「ふふ、ありがとう」
地響きが鳴り、床が崩れ始める。だというのに俺たちは静かに口づけをしていた。ガーベラの花だけが、俺たちが交わす愛を見守っていた。
「いやお前空間移動使えんのかよ!!」
ソラスの空間移動で俺たちはあの場所から脱出した。いや本当、空間移動使えたんかい。俺たちはどうしてここまで長い道のりを歩かされてたんだ。あの時間を返してくれよ。
「あれ、ルナリオさん、目が赤いですけど大丈夫ですか?」
「いやごめんね。てっきりみんなとは永遠の別れだと思ってたからまた会えて嬉しいんだよ」
トゥルニテが近寄ってきて俺の頭を撫でてくれた。シュトルムは目をそらしつつ静かに笑い、ヨルデもほほえましそうに俺たちを眺める。
背後の建物は大きく音を立て、崩壊した。周辺の瘴気も薄くなり、原因は消失したとばかりに周辺の空気のよどみもなくなる。
「さて、帰ろうか。俺たちの家へ」
ソラスは全員を空間移動で辺境まで運ぶ。これを使って、行きに送ってくれなかったのは、魔王を一人で仕留めたことを隠しておきたかったためだろう。「自分が一人であの毒を使うには時間が足りないから物理的に不可能」と言ってごまかせばよかったのに、氷の一件で俺に詰められてあっさり自白したのは詰めが甘くて、でもそこがとても愛らしい。
ソラスの転移陣の光に包まれ、目を開けると、見慣れた愛すべき畑が待っていた。
実った作物に水がかかっており、太陽をはじいてキラキラと輝く。スラリスたちが今日も一生懸命働いてくれたのだろう。青い空が広がり、美しい緑が生い茂る。この世界の生命の、なんと美しいことか。
これから先も、俺は家族のことを思い出してはひっそりと泣くこともあるだろう。
けれど、隣にはソラスがいる。俺は愛したこの人と、協力して、そして時に慰めあいながら生きていくのだ。
「本当に、長い旅路でした。まずはゆっくり休みましょう」
「うん!!」
耳をすませば、周辺から人の声が聞こえる。複数人だ。きっと、俺達のことを心配してこの畑にみんなが集ってきたのだろう。シュトルムたちは声の方向へと駆け出し、迎えに行った。
一方、残った俺とソラスは静かに手を握る。決して離さないように、その指は優しい意志をもって俺の指に絡められていった。
太陽の光は、ただ祝福するように俺たちを優しく照らしていた。
終
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