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第66話月の輝き(sideソラス)

 四層から五層へ続く階段。魔王に続くその階段を駆け上がるとき、その場所を照らす照明の光は白かった。  それを見て僕は勝ちを確信しました。  この世界は、僕をルナリオの恋人として認識した、と。  ルナリオが誰とも恋仲になっていないとき、そこは月のようなただ柔らかな黄色い明かりが灯っていました。けれど、初めて見た何も知らない僕は特に気にも留めずそのまま階段を駆け上がりました。  その後周回を続け、シュトルムの時は赤、トゥルニテの時は黒というように、誰と成立したかでその場所の明かりの色が変わったのです。トゥルニテもそうだったのですが、レインの時は藍色で、非常に不気味な空間でしたね。  白色でなかった場合はここで君に眠っていてもらう予定だったので、ひとまず不要と判断し、針はしまいました。  この場所にはすでに、この周だけで二度訪れています。理由は君が楽にここを踏破できるように。  実はこの魔王討伐は、数多の周で君の死を数えきれないほど見てきた場所なんです。別の周でもっと君が簡単に踏破できるよう、一度守護者全員をあらかじめ倒したことはあるものの、時がたつと復活するようで、次第に僕は相手を殺さぬようにぎりぎりを狙う技術を会得しました。以前シュトルムを追いかけた刺客がいたとき、あそこでもこの技術が役立ちましたね。まあ、あの時は全員自害したのですが。  黒翼の幹部とは異なり、ここにいる幹部たちも同じように時が経てば復活します。ですので峰うちをする際に魔王幹部も喉を徹底的に潰しました。万が一喋られて僕の犯行が分からぬように。けれど、魔王を弱めるのに流石に氷はやりすぎた。それで君は犯人が僕であることを突き止めてしまった。  ・・・けれど、以前に瀕死の魔王が最後の力を振り絞って鎖越しに君に攻撃してきたことがあったんです。だから僕はそんなことがないように手を打つ必要があったんです。  最後の最後で詰めを誤ったと思い焦ったのですが、けれど君はそれすらも受け入れてくれて僕は安堵しました。  君はその剣を持って、これまでにあった道のりに思いを馳せているのでしょう。  そして魔王に近づき、剣を突き立てた。  地響きがし、いよいよ僕の最大の仇である青いゲートが現れる。ここで君の決意を止めてしまえばやっと君と一緒になれる。  けれど、僕は驚愕しました。  |ゲ《・》|ー《・》|ト《・》|が《・》|白《・》|い《・》  初めてのことに愕然としました。どうして今回だけ色が違うのか。しかし同時に直感しました。  彼がもし、ここをくぐれば、時間は戻らない。僕があの草原に戻されることも二度とない。  本当に、これが最後の周なのだと。  けれどやることは変わりません。君を止められればいい。ルナリオはゲートを見据えました。僕はこれまで何度も何度も考えに考えた説得をするつもりでした。さりげなく針とナイフの位置を確認し、最終手段をとる覚悟も出来ていました。  まずは説得をする。情に訴えること、君と離れたくないこと、あれは未知の物だから危ないから決して行ってはいけないこと、今回逃してもきっとゲートはこれからも現れるだろうこと。  それが失敗したら実力行使に出る。  忌々しいゲートは光を増し、僕たちを一方的に照らした。君はゲートから視線を外し、そして僕の方に振り返りました。  その顔は、とても穏やかで。けれど決意にあふれていた。エメラルドの美しい瞳はまっすぐ僕を見る。  そしてその手には、この地域では珍しいガーベラの花が握られていた。相手に思いを告げるときに渡す花だ。彼はその花を僕に突き出す。  僕が何かを言う前に、君が口を開く方が早かった。 「ソラス、あなたのことが好きです」  君は笑っていた。  何度も何度もシミュレーションし、どんな声をかけて説得するか何千回と考えていたはずの僕の頭は、その瞬間真っ白になった。  けれど君の告白を受け、僕は何度も何度も言おうとして、けれど言えなかったその言葉が。いまここでようやく喋ることが出来る。 「はい、僕もルナリオのことを愛しています」  たったこの一言が伝えられず、苦しい夜を何度過ごしただろうか。ずっと伝えたかったその言葉を、今ここでやっと口にすることが出来た。  そして僕は同時に思ってしまった。  |あ《・》|あ《・》|、《・》|君《・》|の《・》|こ《・》|と《・》|を《・》|引《・》|き《・》|留《・》|め《・》|ら《・》|れ《・》|な《・》|い《・》、と。  涙が止まらなかった。細い腕を掴んでは引き寄せ、抱きしめ、けれどただただ無力感に震えた。  この場に立ってようやくわかった。  愛しているからこそ、君には幸せに笑っていてほしい。  おそらくここに立ったシュトルムも、レインも、トゥルニテも、同じ気持ちを味わったのだ。愛している人に行って欲しくない。けれど別れの時になると、君が選んだ道の先で幸せになることを、ただただ祈らざるを得なかったのだ。  そんなことにすら、僕には想像も出来なかった。想像もできないほど、夢中になっていた。  逆光に照らされる君はとても美しかった。君はかつてあの月の夜に、神々しいと言ってくれた。けれど、今の君の方が僕ごときと比べるのも恥ずかしくなるくらい美しい。抱きしめてでも止めるつもりだったのに、決意は揺らいで腕の力が入らない。ただ涙がこぼれ、考えていた説得の言葉など全部飛び、次第に震えも止まらなくなる。 「ソラス」  ルナリオは、そっと唇にキスをしてくれた。  あれだけ交わっておいて、僕たちはまだ唇にキスをしていなかった。したかったのに、告白を受けていないものがそこにする権利はないとでもいうように、体が固まったのだ。  唇はとてもやわらかく、甘美だった。  自分がどこに行こうとしているのかを知っていることを、僕が知っているとを察したのだろう。ただ僕の顔を覗き込み、優しく微笑む。 「あなたに、何度も何度も助けられた」  ええ、愛していたから。それは恋心が故なのだ。 「あの家で畑を耕し、一緒に暮らしていたあの時間はとても幸せだった」  ええ、あなたに怯えられず、家族として過ごした時間はかけがえのない時間だった。 「俺は世界で一番幸せだった。ソラス、本当に、ありがとう」  あなたに抱きしめられ、愛を囁かれているこの今が、僕は人生で一番幸福なのだ。  ルナリオは僕を抱きしめていた手をゆっくりほどく。そして白いゲートに振り返った。別れを決意したその目には大量の涙が浮かんでいる。一方の僕は支えをなくし、地面に片膝をつき、それでもなお涙も震えも止まらなかった。  君は白いゲートに向かって2歩、3歩とゆっくり足を進めた。そして足を止め、またまっすぐゲートを見据える。未練を絶つような苦しそうな表情をしているのだろう。  やがて、駆けた

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