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勇者が死んだ(後編)18(終) 旅はまだこの先も
全てを受け入れる眼差しを向けられたアレクは、かすかに残っていた理性を脱ぎ捨て、僕を一切の遠慮なく犯し始めた。
「あっ、アァっ、アレクさま、アレクさまっ……♡」
痛みも苦しみも彼に与えられていると思えば、全て快楽へと変換された。前からも後ろからも数え切れないほど犯され、腹の中に精を流し込まれた。
その全てが本当に嬉しくて、幸せだった。このまま抱き殺されたいと思ったし、無意識のうちに何度もそう口走った。
唯一悔しかったのは、彼が僕の名を呼んでくれないことだ。彼は僕の名を知らない。僕は個体名の与えられていない『ヒーラー』だから、呼ぼうとしても呼ぶことはできない。
もし自分に名前があったら、行為の最中に愛を囁いてもらえただろうか。愛しげに繰り返し名を呼び、僕を愛してくれたかもしれない。それだけが本当に、口惜しかった。
「あっ、かはっ……あぁっ、アァ、ぐぅ、んァァ〜〜〜っ……!♡」
悲鳴じみた甲高い喘ぎ声とともに絶頂し、ぐったりと脱力する。ほぼ同時に彼も僕の中に欲を吐き出し、突然糸の切れた人形のようにその場で昏倒した。
「はぁ、ハァッ……アレク、さま……?」
フラフラと体を引きずるように這い寄ると、アレクは顰めっ面でぐったりと気を失っていた。体力と精力を全て使い果たし、昏倒してしまったのだろう。
それほどまでに自分の肢体に夢中になってくれたのだと思うと、溢れるほどに中に出された腹の奥底がじんわりと温かくなった。
空を見上げると、ほとんど日は落ちかけていた。このままここにいては、埋めた死体に寄ってきた魔物の餌食になってしまうだろう。
僕はふらつく体を叱咤して荷物をまとめると、アレクを抱えてその場から立ち去った。
次にアレクが目覚めたのは、すっかり朝日が顔を出してからのことだった。
瞼を持ち上げ、寝ぼけ眼でぼんやりと焚き火の跡を見るアレクを隣で眺めながら、僕はじわじわと押し寄せる恐怖に耐えていた。
昨夜の自分はどうかしていた。あれほど自分が淫奔であるとバレたくないと思っていたのに、最後には彼をまじないで惑わして、強引に僕を犯させて――
軽蔑されて当然だ。もう仲間とも思ってもらえないかもしれない。
そっと首元に残る首輪に触れる。首輪の鍵となる短剣は回収できていない。直接手にしたら最後、再び自害させられそうになるのは目に見えていた。そうと分かっている罠を踏むほど愚かではない。
そんな状態で唯一の味方に嫌悪されるような行動を取るなんて浅はかにもほどがある。自分はバカだ。かつて奴隷商が言っていた通り、性器を咥え込んで男を悦ばせるだけの存在なんだ。こんな僕を助けてくれる人なんて――
ぐるぐると嫌なことばかりが頭の中を巡り、暗い顔で縋るようにアレクを見てしまう。アレクはそんな僕の視線に気づいて顔をこちらに向けると、何度か瞬きをした後、急に青ざめて起き上がった。
「ヒーラーっ……!」
急に大声と共に肩を掴まれ、びくっと震えて硬直してしまう。アレクはそんな僕の顔を見て、それから性行為を経て傷だらけになった僕の全身へと目を向けた。
「すまない、ヒーラーっ……お、俺は、なんてことをっ……!」
涙ぐみ、その場にひれ伏した彼を、僕はオロオロと見下ろす。
彼は昨夜の乱暴な交わりを自分のせいだと思っている。勇者の置き土産のせいで癒すことができなかったセックスの痕跡を見て、絶望しているのだ。
違うのに。あれは自分が理性を飛ばすまじないをかけただけで、それまでの彼は、慎重すぎるほどに僕に優しかった。
だけど真実を告げようとした口は、打算的な己によって閉ざされる。本当のことをここで黙っているのがいいんじゃないか。彼の罪悪感は、僕が彼の隣にあり続ける理由になってくれるんじゃないのか。
だが偽りだとしても彼を責める言葉や許す言葉は喉から出てこなくて、僕は考え込む。黙りこくる僕の足元で、彼は咽び泣いた。
「本当に、すまないっ……俺は、どう謝れば……! 詫びにもならないが、いっそ、死んでしまいたいっ……!」
「ダメです!」
彼が口走った言葉を咄嗟に遮る。それだけはダメだ。何の咎もない清廉潔白な彼にそんなことをさせちゃいけない。
僕は、恐る恐る見上げてくる彼に何を言えばいいのか必死で考える。謝罪か。誤魔化しか。嘘か。
そのどれもが声の形になることはなく、僕は彼から目を逸せないまま、何とか喉を震わせた。
「僕たちは、旅を続けないと」
目の前の問題を先延ばしにし、その前に横たわるさらに大きな問題を口にする。
今頃、魔物に食い漁られている勇者と女の死体。その事後処理をする旅を、僕たちはしなければいけない。
旅はまだ終わらない。旅が終わるまでは彼とともにいられる。どうか、まだ僕と一緒に旅をしてほしい。
そんな切なる願いを込めて、彼を見る。彼は小さく口を開けて固まった後、覚悟を決めたように表情を引き締めた。
「……そうだな。旅を、続けないといけない」
「はい」
小さく答えると、アレクはぐっと唇を引き締めた後、僕の手を優しく取った。
「ヒーラー。こんなことをしてしまった俺を軽蔑してくれていい。だけど……旅の終わりまで、どうかついてきてくれないか?」
指先を軽く握って持ち上げながら、愛の告白をするように彼は言う。僕の返事は、決まっていた。
「……はい、アレクさま」
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