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プロローグ

 学校の図書館にリジャス・ハリンストンが入ってきた。彼の姿を見つけた女生徒は皆、頬を赤らめた。紙とインクの匂いが充満するこの場所に、清らかな風が吹き込んだ。  リジャス・ハリンストンは美貌の人であった。よく手入れされた金髪にはくすみがない。コバルトの瞳には深海のような静けさがある。  背の高さを利用して机の群れに目をやる。ある人物の姿を認めたリジャスは、艶やかな薄紅の唇を緩ませ、真っすぐ彼のもとへ歩いて行った。 「兄さん」  リジャスは静かな声で呼びかける。  顔を上げた兄も、弟の姿に表情を緩ませた。  兄の名はアイザック・ハリンストン。  弟のリジャスを「美青年」と表すなら、アイザックは「好青年」と紹介するべきだろう。  整えられた黒髪と、同色の凛とした瞳は、知的かつ上品だ。少し日に焼けた肌は文武両道を謳っているかのよう。端正な顔立ちには、万人を受け入れるような包容力もある。 「ここにいると思った」 「来ると思った」  ペンを持ったまま、アイザックは弟と微笑みあった。 「また勉強?」  リジャスは、アイザックの前に開かれている参考書を一瞥(いちべつ)し、気だるげに訊ねた。 「学生の本分だからな」  教授のようなことを呟いた後、アイザックは参考書を閉じた。  弟が図書館に来たということは、もう迎えの馬車が来ているということだ。 「帰ろうか」 「うん、帰ろう」  リジャスが嬉々として頷いた。日に照らされる彼の笑顔は、天使のそれと遜色ない。  アイザックは荷物をさっとまとめると、弟と共に図書室を後にする。  途中で二人の女生徒とすれ違う。その内の一人が、アイザックにうっとりとした視線を送った。  アイザックもまた、罪な男であった。 「……っ!」  突然、恋する乙女が顔を青ざめさせた。手で口元を覆い隠し、目を白黒とさせる。 「ねぇ、どうしたの」  友人に呼びかけられても、彼女は一言も発することができなかった。  アイザックの隣を歩くリジャスから睨まれたのだった。  彼の視線は暴力的だった。もし視線で人を殺せるのなら、今ごろ女生徒は首を掻っ切られていただろう。  何故、どうして。  ハリンストン兄弟と一言も交わしたことのない彼女は、リジャスから敵視される理由が分からなかった。  一瞬の出来事だった。しかし彼の敵意が脳に焼き付いて離れない。  時が止まったかのように動けなくなった。不気味な心臓の音だけが、小さな体を駆けめぐる。 「ねぇ。ねぇってば」  友人優しく肩を叩かれて、ようやく我に帰った。 「……っ、いや……なんでも、ないわ」  わなわなと震える唇で言葉を紡いだ。心配をかけないようにと笑顔を作るが、恐怖の残骸に首を緩く締められて、苦しげな表情になってしまった。

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