18 / 18

エピローグ

 学校の図書館にリジャス・ハリンストンが入ってきた。  彼の姿を見つけた女生徒は皆、頬を赤らめた。  紙とインクの匂いが充満するこの場所に、清らかな風が吹き込んだ。  背の高さを利用して机の群れに目をやる。  しかしリジャスは探し人の姿を見つけられない。 「リジャス」  そんな中、アイザック・ハリンストンが左手を挙げながら弟に呼びかけた。  彼の手には抉られたような痛々しい痕がある。 「兄さん」  ようやく兄の姿を見つけたリジャスは、嬉しそうに彼の元まで歩いて行った。  同時にアイザックは広げていた参考書を鞄に仕舞った。 「ここにいると思った」 「来ると思った」  ハリンストン兄弟は微笑み合う。  血の繋がりはないはずなのに、彼らの顔立ちはよく似ていた。 「帰ろうか」 「うん、帰ろう」  アイザックは弟と共に図書室を後にする。  途中で女生徒とすれ違う。  彼女はカーラの親友だ。  カーラが借りていた本を返すため、代わりに図書館まで来たのだった。  ハリンストン兄弟の姿を目の端で捉えた彼女は振り返った。  二人とすれ違った時、カーラが顔を青ざめさせていたのを思い出したから。 「なぁリジャス。帰ったらポーカーでもしないか」 「また?」 「負けっぱなしは嫌だからな。今日こそ勝ってやる」  ——なあんだ。別に何もないじゃないの。  他愛ない話をしている兄弟の背中を見送りながら、女生徒は少し興ざめした。  *  その日の深夜。  アイザックは自室のベッドにうつ伏せになっていた。 「っ……は」  片方の手でクッションを抱きながら、もう片方の手で後孔に触れている。  不慣れな手つきで解しながら、時折小さく息を吐く。  アイザックの瞳は悲しげにとろけている。  ほんのり色づいた頬の上を流れた涙。どうして泣いているのか、アイザック自身よく分からなかった。 「ん、っ」  指を引き抜くと同時にアイザックは呻いた。  下腹部の違和感を抱いたまま、ランプすら持たずに廊下へ出る。  ——俺たちは兄弟だ。  血の繋がりはないけれど、二人の間に結ばれた絆は何者にも打ち砕かれない。  だから、付き合ってやる。  俺の全部をお前に捧げてやる。  そうすればお前はもう、誰も傷付けずに済むんだろ? 「なぁ……リジャス」  弟の自室の扉をノックする。  まるで待ち合わせでもしていたみたいに、リジャスはすぐにドアを開けてくれた。 「誘いに、来たんだ」  弟を見上げながらアイザックは微笑みかけた。 「おいで」  深海の瞳を愛おしげに揺らすリジャスに手を取られる。  ハリンストン兄弟を迎えた部屋の扉が、静かに閉じられた。  (了)

ともだちにシェアしよう!