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第31話●
これって病院のベッドで、俺が切望していたことだ。それが叶うだなんて。
「ん……、て、てつやくぅん」
名まえを呼べば、口のなかに哲也くんの舌がぐりんって潜りこんできた。キスされたのさえはじめてなのに、いきなりこんな舌と舌を絡めあうおとなのキスだなんて。
(き、気持ちいいっ。やばいよぉっ、これ、お×ん×ん勃 っちゃうやつだ!)
キスはとても丁寧でそしてエロくって、―そしてとても甘かった。まるで上等なプリンのように。いいや、これはきっと上等なプリンよりもっと甘い。
「哲也くん……もっと……」
「……藤守」
「んっ、……哲也く……、ふぁ……あん……」
俺はそのさきをどんどん期待した。ちいさな水音をたてながら、ややぎこちない俺たちのキスはしばらく続いた。上あごを舐められると腰がぞわぞわとする。唇を食まれて背中がびくんびくんってなった。
「……もっと、舐めて」
「うん、わかった」
すっかりおねだりモードで哲也くんの腕のなか、俺は彼の胸にしっかりとしがみついていた。ふるふるってお尻が震えて、時折あそこもぴくぴくしちゃって。
ゆうくんに開発されてしまっていた俺の身体はとっても貪欲だ。いつの間にかもっともっとって上体を伸びあげて、俺のほうから哲也くんの唇に食らいついていた。あぁ、もうずうっとこうしてひっついていたい。
「藤守……」
「や……、あんっ、」
「なんて、かわいいんだ」
ようやくふたりの唇が離れると、「想像どうりだ」って囁かれて、頭のなかまで蕩けてしまった。
ふにゃんと芯の抜けてしまった身体で、ぐったりと哲也くんに寄り掛かかり、そしてそこでようやく俺は気がついた。期待しすぎて……、
(俺の下半身、やばいことになってんじゃん!)
ボトムのまえが窮屈に張っていた。慌てて哲也くんから離れようとする。こんなのバレたらダメだって!
「だめっ! だめだよ、哲也くんっ!」
それに深く考えないでこんなことされたら困るんだ。哲也くんにとっては軽い気持ちや若気の至りであっても、俺にとっては地雷だ、地雷。
「ちょっ、ちょっと放してっ」
「藤守? いきなりどうした?」
抱きこまれていた腕から逃れようと、必死であがく。
「俺、ホモなんだよ? お願いだからっ―、」
「好きなんだっ」
哲也くんのその告白は放った俺の「揶揄わないで」という言葉に被さった。聞き間違いか?
「えっ⁉ 今、なんて云ったのっ?」
俺は弾けるようにして顔をあげた。
「ずっと。ずっと好きだったんだ、藤守のこと!」
「え、ええぇっ⁉」
「好きだ」
「……う、うそっ」
驚愕する俺にかまわず、哲也くんは俺の頬にちゅっちゅ、ちゅっちゅと口づけてきた。
「好きだ……、好きなんだ……」
ちゅっちゅ、ちゅっちゅ。ちゅっちゅ、ちゅっちゅ。
「あ、あのっ? えぇっと、ええ⁉ ちょっと待ってよ、え、これ、どういう―…、わっぷっ、あのっ、哲也くん? わっ⁉」
そして再び、ブチュって口を塞がれた。哲也くんの舌に俺の舌が掬われ、俺は腰をひくつかせて「あん」と喘ぐ。
「……うぅんっ……ン……」
こんなことになってしまったもんだから、だから俺もキスの合間に、
「俺も。俺も哲也くんのこと、好きっ」
って告げてみた。そうしたら応えるかのようにして、ずっと背中にまわったままだった哲也くんの腕に力がこめられたのだ。
「えへへへ」
「藤守」
唇を離して額をくっつけ、ふたりで微(わ)笑(ら)った。それからも俺たちはお互いに、好きだ、好きだ、と云いあいながらたくさんのキスをした。
数分後。
「藤守、俺とつきあってください。お願いします」
もじもじしている俺に改まって頭を下げてきた哲也くんの額が、肩にコツンとぶつかった。
「あのっ、真面目に云ってるの? ……俺のこと揶揄っていない?」
「そんなことするわけないだろ。俺は本気だよ。藤守、俺のことを藤守の彼氏にして」
「ホントにホント?」
「本当に本当。お願いします。俺とつきあってください」
「うん。俺も哲也くんのことずっと大好きだった!」
嬉しくって、俺は哲也くんの首っ玉に齧りついた。
「こちらこそ、よろしくお願いします! 哲也くん、哲也くん、哲也くんっ」
抱きついた勢いのまま、彼の膝に誘導されて跨るようにして座らされる。ついに、だ! と俺は期待に胸を躍らせた。視線を合わせ、鼻がくっつきあいそうな距離でふたりで「ふふっ」と笑った。
「一年で同じクラスになっただろ?」
「?」
「はじめて藤守を見たときにかわいい子だなって思ってしまったんだ。だからなんか疚しくて。自分から声をかけることができなくて、藤守とは友だちにすらなれなかった」
頬を撫でられ、そこにキスされた。真似して俺も哲也くんのおなじところにキスを返してみる。
「三年になってまたクラスが一緒になったときはもう藤守にはよくない噂があって、クラスのみんなもあんな感じだったろ?」
あまり聞きたくない回想だったけれども、俺は黙って哲也くんの話に耳を傾けることにした。
「俺がふつうに藤守と友だちになりたいだけならよかったんだけど、そのときにはとっくに藤守にたいして邪な気持ちが膨らんでしまっていて―」
真面目に話してくれる哲也くんには悪いけど、その哲也くんが俺に持ったという『邪な気持ち』ってどんなんだろうと想像して興奮した。
「俺、恋愛対象として藤守のことみてるのかもって思いはじめてたんだ。だからおなじクラスになって、藤守が苦しんでるって気づいたときも、こんな俺が声をかけてもいいのかって悩んでしまって……」
(そっか。虐められてた俺のこと、ずっと気にかけてくれてたんだ。へへっ、うれしいな)
俺は哲也くんの首筋に顔を埋めた。哲也くんが俺より大きいから、向いあうとちょうど目のまえに首があるんだもん。哲也くんからはもう病院特有の消毒の匂いはしなかった。ここはあったかいし、なんかいい匂いがするからお気に入りの場所になりそうだ。
「それに実際にそういう目で藤守のこと見ている俺と一緒にいると、ただの噂だったものが半分は本当になっちゃうだろ? アイツらにホモって云って絡まれても否定できなくなるなって……、そしたら藤守がよけいにつらい目にあうはめになるだろうって」
俺がクラスの男子と用事で話しているだけでも、竹中たちは俺だけでなくその相手のことまで貶めてきた。まぁさすがに哲也くんぐらいの相手になるとあいつらもちょっかいはかけないだろうけど、そのぶん影で俺にひどい仕打ちをしたんだろうと簡単に予想がつく。
「俺が不純な気持ちでいたばっかりに、藤守になにもしてあげられなかった。悪かったと思ってる。本当にごめんな」
俺は哲也くんの肩のうえで頭 を振った。
「哲也くんはなにも悪くないよ。だからもうこれ以上は謝らないで。そんなことよりもっ、」
「ううん。ごめん。本当にごめん。今までのことは取り返しがつかないけど、でもこれからはちゃんと藤守のこと守れるようにがんばるから。おなじ失敗はしない。約束する。だからずっと藤守のそばに居させてくれ」
哲也くんは俺の右手を引き寄せると、今度は小指にちゅっとキスをした。
「哲也くん」
うっとりとして顔をあげる。すてきな哲也くんをまえに若干俺の鼻息が荒くなるのは致し方ない。
「うれしいけど、でも、いまは―」
確かにうれしかった。
うれしくて胸はきゅんきゅんしていた。
でもさ。
でもさ、哲也くん。
それよりも俺はいま、キスから先のことに進みたいんだ。だって俺のアレとソコはさっきからギンギンのギュンギュンになってるんだもん! 我慢しすぎて既にお腹が痛くなってきている。
「こんな頼りない俺だけど」
「えっ! この話まだつづくの⁉」
俺は愕然とした。もう一秒だって我慢できそうにない。
「哲也くんはぜんぜん頼りなくないってば!」
「藤守?」
さっきからバレては困ると懸命に哲也くんの膝のうえで腰を浮かしていたが、もう限界だった。俺は、疼くお尻を哲也くんの太ももに擦りつけるようにして下ろすと、
「あんっ!」
気持ちよさにぷるぷるぷるっとひと震えして、それからまた彼にぎゅっと抱きついた。哲也くんの表情 がかっと上気する。
「ふ、藤守⁉」
「て、哲也くんが寝ていてもちゃんと助けてもらってたし、守ってもらうし、ずっといてもらうし、失敗もないから」
支離滅裂だ。なんとか認識できていたのは狼狽する哲也くんの顔だけで、俺は、息を乱しはしたなくも腫れあがる股間をちょこん、ちょこんと哲也くんのヘソのあたりに押しつけながらしゃべっていた。
「ううん、はっきり云ってそんなこと、もうどうでもいいからっ」
「え? あっ、えっ⁉」
「あ、謝るなら謝ってもいいけど……」
哲也くんには悪いけど、なんてったって俺は暴言や暴力どころか生死の境界線ギリギリすら経験してきていて、そこから復活してきているんだ。人生観なんてすっかり変わっていて、かなりタフになっちゃっているんだよ?
そんな俺が毎日毎日シクシクと泣いて暮らしていた原因は、哲也くんに失恋したと思っていたからなんだから。だから恋が成就したんだったらもう、俺は哲也くんとエッチすることしか考えられない!
「そんなのもう全部あとにしてぇ~っ」
俺ははむっと食いついて哲也くんの唇を閉ざしてしまうと、硬くなった下半身をグイグイ哲也くんの腹に押しつけた。
「うわっ⁉ ふふふ、藤守っ、うぐぅっ」
だって俺、気づいちゃったんだもん。哲也くんのペニス も俺とおなじで昂っているってことに。そしたらもう我慢とか無理じゃない?
密着するふたりの腹のあいだに哲也くんの手がぐいぐいと割り込んできて、俺のものにやっと触れてくれたとき、俺は哲也くんにぎゅうっとしがみついてぶるるんっと勢いよく腰を震わせた。
「あんっ」
「藤守……エロすぎる。このままじゃ俺、止まんなくなるぞ?」
低く凄 まれるように云われて、あぁあ、今のセリフで俺ちょっと出ちゃったよ。
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