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第5話 Side 木田 5

 家に着くまで、木田は何も考えられなかった。  机代わりのダンボール箱の前に座り、外国語の怒鳴り声が聞こえ始めた時、ようやく我に返った木田は…両手で顔を覆った。  なんで俺はあんなことを…佐伯さんにしてしまった。よりによって佐伯さんに…しかも、きちんと謝りもせずに逃げるように家を出てきてしまった。どうしよう…俺、どうしちゃんたんだろう…  “謝らなくちゃ”と思った木田はスマホを取り出した。でも寂しそうに目を伏せた佐伯の顔が浮かび…次々とその続きをリアルに思い出してしまった。佐伯さんの唇はカレーの味がした。肌は滑らかで温かった。そしてあの場所は熱くて固くてヌメヌメしていた。  思い出すだけで自分の中心が起き上がるのに気づき、焦って風呂場に入る。俺、どうしちゃったんだろう…これじゃ佐伯さんが好きみたいじゃないか。それも体の関係を持ちたい意味での好き…  シャワーを浴びながら冷静に考えてみた。    佐伯さんがあまりに美しいから、女性みたいに見えたのかも。違うな。それなら、あそこに手を伸ばさない。俺はあの時、佐伯さんのものを触りたかった。佐伯さんの出したものを舐めたいと思った。俺…佐伯さんをLIKEじゃなくてLOVEなんだ…佐伯さんは男なのに…  自分の気持ちはともかく佐伯に謝らなければと、寝巻き代わりのジャージに着替えた木田は再びスマホを取り出した。だって男にいきなり手コキされてショックだっただろうから。 『もしもし…』  出てくれないかもと思っていたら、バリトンの美しい声がした。 「木田です…さっきはすみませんでした」  電話の向こうで、鼻をすする音がする。泣かせちゃったんだ。貴重な陸地を泣かせて傷つけちゃったんだ…そう思うと木田も泣けてきた。 「本当にすみませんでした。あの…俺、佐伯さんを好きみたいなんです」  それでも思ったことを正直に話して許してもらうしかないと思った木田は、まだ整理中の自分の気持ちを説明することにした。 「だから…その…そういう欲求が突然湧いてきて…だからってあんなことしちゃダメですけど…なんか初めてで唐突な想いだったから、ブレーキをかける間もなく暴走してしまいました」  もう会ってもらえないかも。二度と顔を見たくないかも。だよな。普通そうだよな。電話の向こうで続く沈黙に、木田は自分がどんどん落ち込んでいくのがわかった。 「本当にすみませんでした。償えるなら償いたいです。でももう俺に会いたくないでしょうから…申し訳ありませんでした。こちらからは二度と連絡いたしません」  木田はスマホを耳にあてたまま頭を下げる。そして返事を待った。それでも何も反応はない。 「本当に申し訳ございませんでした」  だから、そう言って通話を切った。

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