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第6話 Side 木田 6

 その後、佐伯から連絡はなかった。だけど木田の頭の中では、佐伯の悲しそうな表情がグルグルまわっていた。傷つけた…美しい人を…汚してしまった…  木田は表情が豊かな方ではないし、日ごろからおしゃべりな方でもないため、周りは木田の落ち込みを無視して物事を進めていく。  唯一バンドメンバーの吉良が“どうした?木田さんらしくないな”と言ってくれたけど、だからと言って周囲の変化は待ってくれなかった。  木田の所属するバンドがデビューを果たした。それと同時に木田の引越しが決まった。もっと事務所に近い、そしてセキュリティのしっかりしたマンションへ。 「ドラムを置ける部屋が見つからなかったんですよ。だから、見つかるまで練習は事務所でお願いします」  水谷に連れられ、引越し先のマンションに近づくにつれて、どこかで見たことのある景色に変わっていく。そして…着いたのは佐伯のマンションだった。 「こ、ここですか?」 「はい。ここからなら事務所まで歩いていけます。自転車なら5分ですよ」  そうだったのか…東京の地理に疎い木田は全く気づいていなかった。  会っちゃったらどうしよう。  むしろ木田は佐伯に会いたくてたまらなかった。  遠くからでもいい。一目見たいと思い役所に行こうとして、“これじゃストーカーだろう”と、かろうじて地下鉄の改札で足を止めた。  佐伯は自分に会いたくないはず。というか、顔も見たくないはず。いやいや、同じマンションに住むのも嫌なのでは…  だからといって、すぐ別の場所に引っ越したいとも言えない木田は部屋に運び込んだダンボールの整理を始めた。荷物はほとんどなかったので、水谷と吉良が自分たちの車で運んでくれた。  はぁ…荷物を整理し終えた木田はフローリングの床に寝転んだ。この部屋って、佐伯さんの部屋の二つ上だ。要は真下に知らない人が住んでいて、その知らない人の下に佐伯が住んでいる。  佐伯さんに連絡しとこうかな。もし偶然会っちゃったら…その方が気まずいもんな。ライン入れとくか。でもこっちから連絡しないって約束したし…木田がスマホを手に迷っているとメッセージが入った。  “償ってくれますか?”  佐伯からだった。  木田はすぐに立ち上がって佐伯の部屋に向かった。

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