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第10話 Side 佐伯 1

 いつもより早く目が覚めた佐伯は、いつもより早い電車に乗って職場に向かっていた。  早く来たんだからと、お気に入りのカフェでコーヒーを買って少し遠回りして職場に向かう。すると、人ごみの中にスカイツリーが立っていた。  スカイツリーは言いすぎだな。東京タワーかな。そう思いながら通り過ぎ、さりげなく振り向いて顔を見た。  面長の顔に筋の通った鼻。真っ直ぐな男らしい眉毛に1重で切れ長の目。薄い唇。そしてすらっと背が高く、服の下は適度に筋肉がついていそう。佐伯のタイプだった。  佐伯が自分のセクシャリティに気づいたのは高校の時。そして決まって好きになるのはノンケだった。そして決まって好意を寄せられるのもノンケだった。  自分はその気のなかった男をその気にしてしまう悪魔だと、佐伯は自覚していた。ただ美人は三日で飽きるという言葉どおりなのか、三日とまでは言わないが、佐伯に夢中だった男たちは皆、正気に戻って佐伯を捨てた。  もうノンケは好きにならない。何度もそう心に誓ったのに、佐伯に言い寄ってくる男たち。“男は洋人が初めてだ”“男とか女とか関係なく洋人が好きだ”  その言葉を信じて佐伯が彼らに夢中になると、彼らは決まってこう言った。 “やっぱり女がいい”“やっぱり俺はホモじゃない”  おまえが先に始めたんだろ!と責めてももう遅かった。彼らの心は佐伯から離れ、佐伯の心には傷だけが残る。だからもう、絶対ノンケには惑わされない。  そう思いながらも、呆然と立ち尽くす東京タワーに声をかけてしまった。東京タワーは救世主でも見つけたかのように、すがるような目で“大江戸線に乗りたい”と言った。  遠いなあ…そう思いながらも、佐伯は東京タワーの先に立って歩き始めた。そして取り憑かれたようにフラフラと後についてくる男。この人…もう僕に落ちてるのか…と思いつつ、都営大江戸線まで案内した。  遅刻しそうな時間になってしまった佐伯は、東京タワーの名前も連絡先も訊かずに急ぎ足で職場に向かった。

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