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第13話 Side 佐伯 4
それから佐伯は木田に癒されていた。会っている時はもちろん、会っていない時も。
木田さん…ギブアップしてないかな。眉を八の字にしながら、アリの巣かと思いましたよぉ…と言っていた木田。大丈夫かな。ちゃんと通勤できてるかな。こんな風に仕事中も木田を思い出して癒されていた。
木田はドラマーだそうだ。
話を聞いた時は“まさか”と思った。ドラマーって、もっとガッチリしていて、男の色気が漂っているイメージなのに…田舎でトマトの栽培をしていそうな木田が?と、半信半疑の佐伯に、木田は年季の入ったスティックケースからドラムスティックを取り出して見せてくれた。
「これが一番使いやすいんですよ。レコーディングやライブの時は、コンディションがいいのを使って、練習の時はこういうのを使います」
スティックを持つ木田は輝いて見えた。むき出しの色気ではなく、爽やかで包まれたくなるような大人の男の優しい色気。佐伯は自分でも気づかないうちに木田に見とれていた。
***
ある日、実家から送られてきたという野菜を木田にもらった。新鮮だけど少し形がいびつな野菜たち。味は…濃厚だった。都内出身の佐伯は驚いた。こんな野菜もあるんだ…美味しい…お母さんが送ってくれるって言ってたから…母の愛情の味なのかな。
佐伯は勘当後、一度も両親に会っていなかった。あの振込み以降、何の接点も無くなった。一応住所や連絡先は手紙で送ったが読んだかどうかわからない。
野菜は見かけで判断できない。人も同じ。木田と会うたびに佐伯はそれを痛感していた。
ヌボーっとして一見頼りなげな木田は、いつも佐伯を守るように歩いた。人ごみは苦手だと言っていたのに。佐伯の肩を抱くようにして歩道を通り抜ける。歩道の無い道では必ず車が走る方を歩く。それ以外にも常に小さな気遣いをしてくれて、佐伯はそんな木田の優しさに引き込まれそうになっていた。
デビューすると言っていた木田は芸能人の仲間入り。それなのに木田は純朴なまま。お年寄りの泥だらけの荷物を持って階段を上がってあげたり、コインが入ってしまったと泣いている子供のために、這いつくばって自販機の下から500円玉を取り出してあげたり。土で汚れた服をパタパタと払いながら、よかったね…とニッコリする木田。
癒し系の木田に佐伯は惹かれていた。そしてドラムを叩く雄雄しい木田にも。
たまたま入ったライブバーで、木田がドラムを叩く機会があった。客の耳と目を奪った木田の演奏。その演奏の良し悪しは佐伯にはわからなかったが、力強く、そして時には繊細にドラムを叩く木田に佐伯は魂を奪われていた。
佐伯はこの男が自分の連れであることが誇らしかったし、反面誰にも見せたくない気もしていた。木田さんは僕に惚れてるんだ。僕のものだ。誰も見るな…と。佐伯は木田の二面性に、そしてその両面に溺れそうになっていた。
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