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第14話 Side 佐伯 5

 ここしばらく木田から連絡がない。  デビューして忙しいと言っていたので、そのせいだろうと思いながらも佐伯は焦った。木田は…もう自分の魔力から抜け出したのか?彼女ができたのか?僕に興味を失ったのか…  不安に勝てず飲みすぎてしまったり、急に悲しくなって泣き出してしまったり、癒しを奪われた佐伯はすっかり情緒不安定になっていた。  だから“来週の土日は仕事が入ってないんですが、佐伯さんのご予定は?”と連絡が来た時、安心した佐伯の目からボロボロ涙が零れた。    木田さんは僕を忘れていなかった…  佐伯は即座にOKの返事をして後悔した。このまま距離をおけば自分の傷は浅いままだったのに。  そもそも木田は佐伯に敬語を使い続けていた。職場で再会したからか、何となく佐伯もタメ口になれなかった。その礼儀正しさは好感が持てたけど、近づき過ぎるなと言われている気もした。このまま疎遠になれば…自分は深手を負うこともなかったのに。  だから不親切にも、木田にはマンションの住所だけを教えた。もしたどり着けなかったら、何か理由を作ってもう会わないことにしよう。そしてそのまま縁を切ればいい。中央本線から大江戸線に乗り換えられない木田に、自分のマンションを探し出すのは難しいだろう。でも…木田さんとはもっと一緒にいたかったのに…もっと話したかったのに。一度ぐらい抱いて欲しかったのに。  複雑な気持ちで待っていると、木田が佐伯のマンションにたどり着いた。エントランスのカメラに映る木田の顔を見た佐伯は思わず胸をなで下ろしてしまった。 「やっぱりキレイにしてるんですね」  佐伯の部屋に入った木田はそう言ったまま、ボーっと部屋の中を見回して突っ立っていた。まるで無人島にたどり着いた漂流者のように。  だから背中を叩いて“かけてください”と声をかけた。木田の背中は思ったとおり無駄な肉がなく固かった。本当はその肩にもっと触っていたかった。  佐伯は木田に野菜カレーを作った。木田がたどり着いたら、これを食べながら昔を思い出して自分を戒めればいい。たどり着かなかったら、一人でこれを食べながら、“これでよかったんだ”と自分に言い聞かせればいい。そう思って。 「佐伯さん、カレー好きなんですね」  木田は単純に佐伯がカレー好きだと思ったらしい。 「ええ…まあ…このワインも長野県産ですか?」  話題を変えたくて、木田が持って来たワインのビンを持って無理に話をふった。 「はい。母が送ってくれました」 「そうですか…優しいお母さんですね」  母は世間知らずだけど、その分純粋で優しかった。気難しい父とは反対に自分の話をよく聞いてくれたし、一緒に遊んでもくれた。父はともかく…母には会いたかった。  切なくなって目を伏せていると、いきなり木田が近づいてきて抱きしめられた。思った以上に深い胸。厚い胸板。このまま身を任せられたら…そう思っていると、顔が近づいてきてそのまま口づけられてしまった。  木田の唇は弾力があった。佐伯は自制できず舌を差し出した。すると木田は荒っぽく吸いついてきた。呼吸が止まりそうなほど深く口づけられ、佐伯がうっとりしていると、木田の大きな手が服の中に入って来た。そして、その手が熱くなったものに伸びる。 「あっ…」  下着の上から乱暴に握られ、思わず佐伯が声をあげる。なぜ木田が突然ことに及んだのか、自分に気があるとはいえ、真面目な木田がなぜ?と考える余力は、佐伯には残されていなかった。  傷ついても…いい…このまま…固くなったものを直に触れられた佐伯は正気を失ってしまった。  佐伯も木田のジッパーを下げ、湿めったものを触る。木田のものは燃えるように熱かった。これまでの誰よりも。佐伯は夢中で怒り狂うものを扱いた。激しく口づけながら触り合い、二人は相手の手の中に熱を放った。  欲望を開放した二人はゆっくりと体を離す。佐伯は、木田が自分の放ったものをじっと見つめているのを見て我に返った。  とたんに恥ずかしくなって、木田の手にティッシュを被せる。 「すみません。拭いてください」  佐伯が自分の手を拭き服を整える間、木田は呆然として動かなかった。ショックだったんだろうな。男と手コキし合うなんて…ノンケの木田には刺激が強すぎたんだろう。そう思った佐伯はそっと木田の手を取り、自分の出した白濁をティッシュで拭った。 「木田さん?」  木田の焦点が合っていないのに気づき声をかけた。ハッと佐伯を見た木田は真剣な顔のまま見つめ続ける。  このまま抱かれたい。そうすれば真面目な木田は責任を取るために付き合おうと言い出すだろう。一回きりの関係なんて木田にはありえないだろうから。でもいずれ捨てられるなら…でも傷ついてもいいから…でも… 「あ…すみません。ごめんなさい」  佐伯が切ない気持ちで葛藤をしていると、木田がいきなり謝って、そのまま部屋を出て行ってしまった。

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