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第14話 目撃
こうして俺は彼女を作るチャンスを失い、瑆 さんと一方的ではあるけれどセックスをする関係になった。
そして、イマココ。
受験勉強を見てもらう傍ら、毎日のように襲われている。
朝の突然の襲撃も、三上さんと出かけなくなった辺りから始まったし。
三年になると瑆さんが家庭教師のような役割をしてくれるようになった。
軽~い母親達の雑談で。
「良市 ってば瑆ちゃんと同じ大学行くって勉強してるけど心配なのよね。瑆ちゃん、良市の勉強見てくれないかしら」
うちの母親が言えば。
「大丈夫、いいわよ。瑆、勉強ぐらいしか出来ないから」
なんて瑆さんたちの母親が返して、瑆さんは大義名分まで手に入れた。
実際教え方は上手いし、俺は助かるのだが。
例文を出しながら。
「一問間違えたら、悪戯するからね」
と妖しい笑みを浮かべつつ言われ。
実際間違えると、瑆さんの指にペニスを弄られながら勉強する羽目になる。
「ほらあ、ちゃんと集中しなきゃあ」
揶揄うような笑いを浮かべながら、俺の弱点である先端を引っ掻く。
「…できるわけないでしょっ」
知らずペニスも体もビクつかせる俺を瑆さんは楽しそうに眺め。
「仕方ないなあ、じゃあ、一回抜く?」
と咥えたり、跨ったり。
まあ、全問正解したらしたで。
「ご褒美あげるね」
と嬉しそうに咥えてくるし。
勉強が終わったら終わったで。
「じゃあ、息抜きの時間だね」
とまた跨ったり…。
「結局、乗ってくるんですね」
俺が訴えても、悪戯っ子の笑みを浮かべて。
「これはね、僕への家庭教師の報酬」
と返ってくる。
つまり勉強になってるような、なってないような。
頭より主に下半身にばかり血が集まってる。
おかげで、かどうかわからないが、瑆さんの機嫌はすこぶる良い。
瑆さんの機嫌がいいと俺も安心する。
なので勉強の進み具合よりは上手くいってる、と言える。
吉山の言っていた上手く行く、と言うのとは違う気がするが。
吉山といえば。
三年になって、俺は吉山と同じクラスになった。
二年の時はあれっきり、また廊下ですれ違うときに挨拶するぐらいの仲に戻っていたのだが、同じクラスになるとまた連むようになった。
もともとなんだかんだでペースが合いやすい。
性格は正反対、ぐらい違うのに。
彼女とはまだ続いてるようだが、少し落ち着いた感じらしい。
そして。
彼は高校を決めた時と同じように、簡単に進学先を決めた。
「いや、お前、自分の将来に関わるんだからもっと真剣に決めろよ」
「だって、行きたいとこねぇんだもん。それなのに親が大学行けって言うからさ」
俺と同じ大学でしかも同じ学科を選んだ吉山に俺は呆れてしまった。
決めたのはいいけれど、担任からあっさり「無理」と笑われ、彼は奮起した。
「ぜってぇ受かってやる」
そして俺に勉強を教えろと言う。
「俺を巻き込むな」
「いいじゃん、友達だろ」
「そもそも俺は人に構えるほど余裕はないっ」
と言ったものの。
彼も家庭教師を付けてもらってそれなりに勉強を始め、俺は学校では一緒に勉強するようなった。
一人より誰かと一緒の方が気が楽だ。
受験勉強なんて気が重いだけ。
とはいえ家庭教師が瑆さんだからな。
灰色、ってわけじゃないけど。
そして。
今日は吉山に付き合って問題集を買いに来た。
いつも寄ってる本屋には目当てのものがなかったので、ちょっと遠出して、二駅先の本屋まで来た。
「多いな…」
その数たるや…。
近所の本屋には数点しかなかったものが、この本屋には壁際に特設された棚の半分ほどはある。
もう半分は公務員試験などの資格もので。
俺は瑆さんが使っていた問題集も持ってるから、新しい物が欲しかったんだが。
「俺の家庭教師が過去問買ってこいって言ってたけどさ」
吉山が棚を見上げながら呟く。
「いや、それでも何冊もあるぞ」
とりあえず奥付から新しい日付のもの、パラ見した中で充実してそうなものを、俺と吉山でそれぞれ買った。
終わったら交換しようと言うことで。
「あ!俺、今日発売の漫画本買ってくる」
会計も済ませてさて出ようかって時に吉山が言い出した。
「漫画、ってお前余裕あんなぁ」
「息抜き、息抜き」
すでに背を向けてしまった吉山に俺は声を掛けた。
「外で待ってるぞ」
吉山が手を振ったのを確認して外に出た。
平日の夕方。
主要道路に隣接した本屋の前は人通りも車の交通量も多い。
小さく息を吐きつつ、スマホを開く。
帰り側に送った瑆さんへのメール。
『友達と参考書買いに行くので遅くなります』
その返事が入っていた。
『そうなんだ。僕もちょっと遅くなりそうだからちょうどいいね』
吉山といるときは確認してなかったけど、俺のメールの直後に返信が入ってた。
瑆さんも遅くなるのかあ。
ちょっと、てだからもう帰ってるかな?
俺は用事が終わったことを知らせるメールをしようとして一瞬、顔を上げた。
些細なタイミングだった。
目的がはっきりしてるからすぐ吉山は出てくるだろうし、駅は二駅だし。
時間としてどれくらいかな?
そんな一瞬考えを巡らすだけのタイミング。
そして、俺は硬直している。
通りの人通りを何気なく眺めていたら、その中に見つけてしまったんだ。
瑆さんを。
車が行き交う通りの向こう。
こんなに人がいる中でなんで見つけてしまったんだろう。
小さな背中。
瑆さんがよく来ている服。
顔は見えないけれど、間違えるはずがない。
ここから叫べば声が届かないこともないだろうけど。
掛けられるはずがない。
連れがいて。
相手はスーツ姿。
眼鏡を掛けた横顔はどう見ても、中年。
瑆さんのお父さんではない。
眼鏡を掛けてないし、あんなに背も高くない。
二人は立ち止まって何か話し込んでいる様子だ。
こちらに背中を向けた瑆さんの肩に男の腕が回され、ニヤついた(偏見)男の顔が瑆さんに寄せられる。
瑆さんはそれを嫌がってる風ではなくて。
ぞわっと背筋を何かが走った。
そして直感的に思う。
あいつは瑆さんの下半身の友達だ。
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