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第19話 再び押し問答
とはいえ。
俺は軽く深呼吸して、気持ちを落ち着かせる。
「いっちゃうの、やなんですか?」
改めて瑆さんに尋ねると、俺から顔を隠すように背けてぼそぼそ答えた。
「………僕ばっかり、ずるい…」
「え?」
「………」
聞き返した俺に返事は来ない。
細く白い腕が顔を隠す。
隠すなよ。
腕を掴んで剥がしたい衝動をぐっと堪えた。
「俺もイきそうだったんですけど」
ほんと、瑆さんが止めなければ、もうちょっとで。
「……ほんと?……」
疑わしそうに腕の下からこっそりと瞳が現れる。
なんなんだかなあ。
「はい」
俺がこっくり頷くと、腕がそろそろと肩に回された。
「…じゃ、していい、よ」
「はい」
よし。
俺が再び熱くうねる中で腰を動かそうとすると、瑆さんの指に力が入った。
「…あんま、り、奥はだめ…」
なんで?
「奥、とんとん、しちゃだめ」
とんとん?
ああ、あの壁みたいなやつ?
「痛いですか?」
小さく首を振る。
「痛くないのに、だめ?」
「……すぐ、いっちゃう…から」
「…………」
またそれ?
「…………」
瑆さんは目を伏せたまま黙り込む。
「俺にイかされるの、そんなに嫌ですか?」
自分でイくのも、俺をイかせるのも平気なのに?
他の男にされるときはイってるんじゃないの?
俺だとダメなのかよっ。
いらっと来たのが思わず顔に出てしまったらしい。
瑆さんの顔が泣きそうに歪んだ。
「…りょ、くん、嫌いになるでしょ、僕の、こと…」
「は?なんで?」
小さな呟くような返事に、思わず聞き返した。
やべ、イラっとしたまま雑な言葉遣いになってしまった。
でも瑆さんは別段気にした様子は見せず、そのままぼそぼそと続ける。
「……い、んらんだ、から……」
は?
いんらん?
淫乱か。
なるほど。
ちゃんと自覚あるんだ。
あ、いやいや。
俺、まだイラついてるのかな。
「それで嫌いにはならないと思いますが」
てか。
わけわかんないな。
いつもは淫乱じゃないみたいだ。
「…………」
でも、どうやら瑆さん的には何か重要なことらしく。
それっきり黙り込んでしまう。
瑆さんの思考は俺には難解すぎて相変わらずわからないけれど。
このまま、お預けですか?
俺のペニスが入り込んだままの瑆さんの中は話してる間もきゅんきゅん動く。
気持ちいいけれど。
このまま放置はちょっと、じゃなく辛い。
それともこれが放置プレイってやつ?
兎にも角にも瑆さんの意思が伴わない状態での強行は避けたいので、説得、いや会話は必要不可欠だ。
…いつまでもつかな?
瑆さんは平気ってことだよな。
なんかまだ余裕たっぷりって感じでムカつくな。
それこそ、俺ばっかり、でしょうに。
「…気持ち良かったら、イくのが普通でしょ?」
逆に言えばそれが目的でセックスしてるわけだから。
イかなくていいなら、そもそもしないでしょ。
それに。
俺は今日は瑆さんをイかせることが目的なんだ。
いつもはイかされてるだけで、イってるのは見たことないし。
演技でなく本当に喘がせたいんだ。
なんなら俺がイくまでに何回だってイかせる気なんだけど、そんなテクニックはない。
残念だけど。
だからせめて一回はイかせたいのに。
それが嫌みたいに言われるとどうしようもない。
「…………」
瑆さんが意外に頑固らしいことを初めて知った気がする。
譲る気はないらしい。
いつかの押し問答再来だな。
今度は逆だけど。
つまり俺たち二人共頑固者ってことか。
俺は小さく溜息を吐いた。
「わかりました。じゃあ、また上に乗って下さい」
「え」
俺がそう言うと、瑆さんは目を見開いて驚く。
そんなに驚くようなこと言った?
「俺、ほんと、もうやばいんで、いつも通り瑆さんがイかせて下さい」
嫌な事を強要する気はないんだ。
そこまでして下克上したいわけじゃない。
だってそれじゃレイプと同じだ。
…矛盾、してるかもしれないけど。
「………」
瑆さんから返事はない。
ほんと、こんな寸前でお預けとか。
俺は瑆さんの背中に腕を入れて持ち上げようとすると、瑆さんが首を振った。
「やっ!あ、…良くんが、して…」
だめだ。
俺には瑆さんは謎すぎる。
「…イっちゃうの、嫌なんじゃないんですか…」
「………や、じゃない………」
答えながら瑆さんは、ぷるぷると頭を振る。
ほんとですか?
全然そんな風には…。
「良くん、して」
きゅ、っと抱きついてくる。
ほんと、どうしたいんですか?
「…して…」
すり、っと頭を擦り付ける瑆さんを覗き込もうとしたけれど、偶然か、肩に頬を擦り付けられ顔が逸れてしまった。
「嫌なら、ちゃんと言ってください」
「…や、じゃない…」
思わず、溜息が出る。
本心ならいいけど。
「…良くん…」
「はい」
小さく名前を呼ばれたので返事をする。
…我ながら、俺って犬っぽい…
「……怒ってる?」
「怒ってはないですけど、困ってます」
怒ってる、って言えなくもないけど。
他の男とセックスする時、瑆さんがどんな感じなのかわからない。
でも明らかに今とは違うだろうと思う。
そう思うと、なんかムカつく。
それは確か。
「…僕、困らせてる?」
相変わらず顔が見えない。
意図的に隠してる?
「俺は、瑆さんを気持ちよくしたいだけなのに、イきたくないって言われてしまったので」
「イきたくないわけじゃないよ」
でも、そう取れた。
「………」
「…良くんに嫌われたくないだけ…」
嫌うならとっくに嫌ってますよ。
強制的に手コキやらフェラやらされて、まるでおもちゃみたいに扱われてきたんですから。
でも、結局。
俺は、瑆さんを嫌いになれない。
「嫌いません」
核心ははぐらかして、俺はそう言った。
「…ほんと?」
さっきも似たやりとりしましたけど。
「約束します」
「絶対?」
「俺、約束破ったことありました?」
「ないよ。良くん、真面目だから」
くす、っと肩口で笑う声がした。
あ、ちょっといつもの瑆さんっぽい?
「あんっ」
瑆さんがびくっと震えた。
話の間少し萎えかけてた俺のペニスが完全復活したから。
「あぁ、あ」
ふるふると震える体をそっと抱きしめた。
「瑆さん、いい?」
こくん、と頷きが帰ってくる。
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