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手応え

「おい、柏木! また単独行動しようとしてるんじゃないだろうな!」 朝の捜査一課に、課長の怒声が響く。 デスクの引き出しを閉めながら、結月は肩越しに振り返った。 「まさかまさか」 口ではそう言うものの、その手には事件資料がしっかり握られている。 課長は額に手を当て、大きくため息をついた。 「その顔が一番信用できん」 「ひどいなあ。俺、一応真面目な刑事なんですけど」 「その頭の色しといて、誰が言ってんだ!」 課内に小さな笑いが広がる。 結月は肩を竦めると、ジャケットを羽織った。 「ちょっと病院寄るだけですよ」 「だからそれが単独行動だと言ってる!」 背中へ飛んでくる怒声を聞き流しながら、結月はひらりと手を振る。 「報告書はちゃんと出します」 「柏木!」 返事はない。もう廊下へ出ていた。 エレベーターのボタンを押し、ポケットから煙草を取り出す。指先で一度くるりと回し、またしまった。 病院へ着く頃には、朝の外来で慌ただしい時間帯になっていた。 受付で警察手帳を提示すると、結月はそのまま病室へ向かう。 病室の前まで来ると、扉がゆっくりと開いた。 出てきたのは迅だった。カルテを閉じながら、結月へ視線を向けた。 「早いな」 「まあね」 二人はそのまま病室へ視線を向けた。 「状態は落ち着いてる。昨日より受け答えもできる」 「記憶は?」 「まだ戻ってない」 結月は小さく息を吐き、病室の小窓から中を覗いた。 被疑者の男はベッドに腰掛け、ぼんやりと窓の外を眺めている。 「入る」 迅は小さく頷いた。 「刺激しすぎるな」 「善処する」 その返事に、迅は何も言わない。 結月は軽く手を挙げると、静かに病室の扉を開けた。 「どうも。昨日の警察です」 男はゆっくりと顔を上げる。 その目には、昨日と同じ戸惑いが浮かんでいた。 「……」 「唐突に聞くね。ほんとに記憶ない?嘘つくと、またさらに罪重くなるんだけど」 挑発するような笑みに、男はうっすら反応を見せた。 「……ないです」 「へぇ。けど俺のことは覚えてんだ」 その言葉に、男は一瞬だけ目を瞬かせた。 一瞬の反応でも見逃さない。 「……昨日のことは覚えてる」 「そっか」 椅子へ深く腰掛けると数枚めくり、一枚の資料へ視線を落とす。 「三島美咲って知ってる?」 その瞬間だった。男の肩がぴくりと震えた。 膝の上で重ねていた手が、ゆっくりと強く握り締められていく。瞳だけが揺れた。 結月はその反応を静かに見つめると、資料を閉じた。 「ああ、もういいよ。収穫あったから」 男はゆっくりと顔を上げる。 「……え?」 「無理に思い出さなくていいよ」 結月は椅子から立ち上がる。 「その反応だけで十分」 男は困惑したまま結月を見つめていた。 結月は軽く手を振ると、病室の扉へ向かう。 「また明日」 静かに扉が閉まる。廊下へ出ると、壁にもたれて待っていた迅と目が合った。 「終わったか」 結月は小さく口角を上げる。 「ちゃんと診察した方がいんじゃない」 迅は静かに眉を寄せる。 「なんで」 「なんでも」 結月は肩を竦めると、そのまま歩き出した。 足取りは、病室へ向かう時より少しだけ軽い。 今日の収穫は思った以上だった。

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