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変わらない

店員が料理を並べ終えると、「ごゆっくりどうぞ」と席を離れた。 二人は揃って箸を手に取る。 結月は味噌汁を一口飲み、小さく息をつく。 「なんでこの店知ってんの」 「元カノ」 あまりにもあっさりした返事だった。 結月の箸が止まる。 「……へぇ」 「美味いって言ってた」 結月も恋人がいたことはある。べつに報告する義務はない。結月も自分の恋愛を、迅に話したことはなかった。けれど、自分の知らない時間を誰かと過ごしていた迅を想像すると、胸の奥が妙にざわついた。ただ、面白くないと思った。 「……ほんと気に入らないわ」 ぽつりと零すと、焼き鳥を一本手に取る。 迅は顔を上げることなく、静かに口を開いた。 「何が」 「別に」 自分でも、何が気に入らないのか分からない。 結月は考えるのをやめるように、グラスへ手を伸ばした。 「で、元カノに勧められた店を今度は俺に勧めてくれんだ」 くすりと笑いながら言う。皮肉のつもりだった。けれど、その声は思ったより柔らかかった。 迅はゆっくりと、結月へ視線を向ける。 「じゃあ次は、俺のおすすめで」 一瞬、結月の動きが止まる。 「……次?」 「嫌ならいい」 「いや……そこまで言ってないけど」 迅は小さく頷き、再び箸を手に取った。 それだけの約束。日付も、時間も決めてない。 それでも結月は、不思議とその〝次〟を断る気になれなかった。 その後は、仕事の話を少し。 笑うほどでもない、他愛のない話を少し。 気付けば、テーブルの料理はほとんど空になっていた。 会計を済ませて店を出ると、夜風が頬を撫でる。 駅前はまだ人通りが多く、街の明かりが静かに揺れていた。 結月はポケットから煙草を取り出し、迅を横目で見る。 「一本付き合う?」 迅は小さく頷くと、駅前の喫煙所へと歩いていく。 互いに煙草に火をつけると、紫煙が風に乗ってゆっくりと溶けていった。 しばらく、どちらも口を開かない。 沈黙なのに、居心地は悪くなかった。 結月は吐き出しながら、何かを思い出したみたいに小さく笑う。 「昔もご飯食べた後、一本吸ってたね」 迅は煙草を口元から離し、短く頷く。 「ああ」 「よく親に怒られてた」 「未成年だったからな」 その返しに、結月は思わず吹き出す。 「そこは笑うところでしょ」 「事実だ」 「その返しほんとムカつくんだけど」 そう言いながらも、声はどこか楽しそうだった。 煙草の火が静かに短くなっていく。 気付けば、昔のように肩の力が抜けていた。 「おまえ」 迅が不意に、結月へ視線を向ける。 「変わってなくて安心した」 「……はい?」 結月は思わず眉を上げる。 「急になに」 「そのまま」 迅は最後の一吸いをゆっくり吐き出す。 「昔と変わらない」 結月は一瞬だけ黙り込んだ。 「それ褒めてんの」 「褒めてる」 迷いのない返事だった。 結月は思わず鼻で笑うと、煙草を灰皿へ押し付けゆっくりと立ち上がった。 「じゃ明日、あの被疑者のとこ行くから」 「……ああ」 それだけだった。けれど、不思議と昔みたいな距離に戻っている気がした。

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