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幼馴染
――十七年前。
「結月、早くしろ」
ランドセルを背負った黒髪の少年が振り返る。
結月は不機嫌そうに頬を膨らませながら走った。
「待ってよ!」
「また遅刻する」
「迅が早すぎるんだよ」
息を切らしながら隣へ並ぶ。
迅は呆れたように小さく息を吐いた。
「昨日もゲームしてただろ」
「なんで知ってんの」
「窓開いてた」
「……覗いてた?」
「聞こえた」
結月は小さく笑う。
「聞いてたくせに!」
いつもどおり、迅は何も答えなかった。
昔から、都合が悪くなると返事をしない。だから腹が立つ。それでも、翌朝になればまた一緒に学校へ向かっていた。
親同士の仲もよく、夕飯を囲むことも珍しくなかった。
「いただきます」と手を合わせる頃には、さっきまでの喧嘩なんて忘れている。
「西園、母さんがこれお前に渡してって」
「ああ」
ビニール袋を受け取ると、それだけで会話は終わる。
いつからかお互い苗字で呼ぶようになった。きっかけなんて、もう覚えていない。
気付けば、二人にとってそれが当たり前になっていた。
高校生になる頃には、一緒に登校することもなくなった。
家は相変わらず近所。親同士の付き合いも変わらない。それなのに、いつの間にか交わす言葉は減っていた。
お互い、違う道を歩み始めた。
大人になる頃には、刑事と医者になっていた。
互いに忙しい日々を送り、顔を合わせることもほとんどなくなった。
仕事で何度か西園の勤務する病院へ足を運ぶ度に、二人の間には仕事の話ばかりが飛び交う。
「被疑者だ」
「患者だ」
昔のように名前を呼ぶことも、くだらないことで笑い合うこともない。
二人の間には、警察手帳と白衣よりも厚い距離ができていた。
◇
「ご注文お決まりでしょうか」
店員の声に、結月はゆっくり顔を上げる。
いつの間にかメニューを開いたまま、ぼんやりと眺めていたらしい。
「ああ、ごめん」
小さく笑い、メニューへ視線を落とす。
「西園、決まったの」
迅は迷うことなくメニューを閉じた。
「決まった」
「相変わらず早いね」
「いつも同じ」
結月は思わず笑う。
「やっぱり、その感じムカつくね」
店員が注文を聞き終えると、その場を離れていく。
再び二人きりなった店内には、静かな沈黙が流れる。
昔なら、この沈黙が気にならなかった。
けれど今は、その静けさが少しだけ心地よくて、少しだけくすぐったかった。
ふと顔を上げると、迅も同じタイミングで結月を見ていた。
視線がぶつかる、ほんの一瞬。
どちらかともなく目を逸らした。
運ばれてきた料理から、湯気がゆっくりと立ちのぼる。
久しぶりの食事は、まだ始まったばかりだった。
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