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久しぶりの
事情聴取の内容をまとめ、必要最低限の報告書を仕上げる。記憶障害の疑い。その一文を打ち込む手が、一瞬だけ止まった。
演技か、本当か。それを判断するのは結局、医者の仕事だ。
結月は小さく息を吐き、パソコンを閉じた。
「柏木、もう上がっていいぞ」
上司の声に軽く手を挙げる。
「お疲れ様です」
デスクの引き出しから煙草を取り出し、ジャケットを羽織る。
外へ出ると、街はすっかり夕暮れだった。
スマホを取り出し、時間を確認すると十九時を過ぎていた。待ち合わせまでは、あと少し。
そのまま駅へ向かって歩き出した。
駅前は仕事帰りの人で賑わっていた。
改札前へ視線を向けると、人混みの中でもその姿はすぐに見つかった。
腕時計へ目を落としたまま立つ男は、黒いシャツにスラックス姿で壁にもたれながら静かに待っている。
「……早」
思わず小さく漏れる。
約束までは、まだ五分ある。
結月は小さく肩を竦めると、そのまま迅のもとへ歩いていった。
「待った?」
迅は腕時計から視線を上げる。
「いや」
短い返事に、結月は思わず笑った。
「その〝いや〟ってやつ、信用していい?」
迅は表情を変えない。
「五分前に着いただけだ」
「そんなに俺と会えるの楽しみだった?」
一瞬だけ間が空く。
「違う」
即答だった。結月は思わず吹き出す。
「即否定なんだ」
「待ち合わせに遅れるのが嫌なだけだ」
結月は肩を竦め、小さく笑う。
「はいはい。相変わらず優等生で」
迅は返事をすることなく歩き出す。
結月も一歩遅れてその後を追った。
駅前の人混みを抜け、並木道を歩く。
肩がぶつかるほど近くもなければ、離れすぎることもない。絶妙な距離を保ったまま、二人は足を進めた。
会話はない。それでも沈黙が苦になることはなかった。昔からこの空気だけは変わらない。
やがて、迅が一軒の店の前で足を止める。
「ここ」
視線の先には、落ち着いた雰囲気の小さな居酒屋があった。
結月は店を見上げ、小さく口角を上げる。
「へえ、意外」
迅は静かに暖簾をくぐった。
「嫌なら帰るか」
結月は思わず笑う。
「いや、褒めたつもり」
店内は仕事帰りの客でほどよく賑わっていた。
焼き鳥の香ばしい匂いと、グラスの触れ合う軽い音が耳に届く。
「西園さん、お待ちしてました」
店員が慣れた様子で声を掛ける。
迅は軽く会釈を返し、奥の四人掛けの席へ向かった。
結月はその背中を見ながら眉を上げる。
「常連?」
「たまに来る」
「へえ」
意外だった。こういう店には来ない人間だと思っていた。
そのまま席へ腰を下ろすと、店員がおしぼりとメニューを運んでくる。
結月はメニューを開きながら、ちらりと迅を見る。
「で、今日はどういう風の吹き回し?」
問いかけに、迅はメニューへ視線を落としたまま静かに口を開いた。
「たまには」
それだけだった。結月は小さく笑う。
「昔を思い出しちゃうね」
迅はメニューから視線を上げると「そうか」と、一言だけ返してきた。
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