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文化祭
文化祭の準備が始まってからというもの、慌ただしい日々が続いていた。授業に追われ、実行委員の仕事に追われ、気付けば一日が終わる。そんな毎日を繰り返しているうちに、時間はあっという間に過ぎていった。
そして――。
ついに文化祭当日を迎えた。
まだ一般来場者の姿はない校内では、開始時刻に向けて最後の準備が進められている。廊下を行き交う生徒たちは慌ただしく、それでもどこか楽しげだった。
「先生おはよー!」
「おはよう。装飾は終わった?」
「確認も終わったよー」
凪は小さく頷き、そのまま校内を見回る。
年に一度の文化祭。実行委員として、今日だけは誰よりも忙しい一日になりそうだった。
開始十分前。正門前では、すでに開場を待つ来場者の列ができ始めている。
校内には最終確認に追われる生徒たちが慌ただしく駆け回り、廊下には緊張と高揚が入り交じった空気が漂っていた。
「それじゃあ、まもなく開場です! 各担当、持ち場についてください」
校内放送が響く。その声を合図に、生徒たちはそれぞれの持ち場へ散っていく。凪は一度腕時計へ視線を落とし、小さく息を吐いた。
そして――。
「文化祭、スタートです!」
放送と同時に校門が開かれ、待ちわびていた来場者が次々と校内へ足を踏み入れた。静かだった校舎は、一瞬にして賑わいに包まれる。
「水瀬先生、模擬店前が少し混み始めてます」
「了解。誘導担当を二人回して。体育館前にも一人お願いします」
凪は実行委員の生徒たちへ的確に指示を出しながら、校内を歩く。
来場者の流れに問題はないか、各クラスの運営に支障は出ていないか、トラブルは起きていないか。責任者として確認すべきことは山ほどあった。
「水瀬先生、こちらは問題ありません」
「ありがとう。そのままお願いします」
生徒の報告に頷き、凪は足を止めることなく次の持ち場へ向かう。
文化祭は始まったばかり。忙しい一日は、まだ始まったばかりだった。
「ねえ見て! 入口にめっちゃイケメンいる!」
「え、ほんとだ! 二人ともやばくない?」
しばらくして、受付付近がにわかにざわつき始める。文化祭には卒業生や地域の人々も多く訪れるため、珍しいことではない。
それでも、あちこちから小さな歓声が上がるほどの騒ぎに、凪は書類から顔を上げた。
「何事」
「水瀬先生! 入口にすっごいイケメンが二人来てるんです! モデルさんみたいで……女子がみんな見に行っちゃってます」
「……そう」
興味無さそうに返しながらも、凪は念のため校門へ視線を向ける。
人混みの向こうには、頭一つ抜けた長身の男と、柔らかな栗色の髪を揺らした男が並んで歩いていた。二人は周囲の視線を集めるほど目を引く存在で、校門付近の女子生徒たちは思わず足を止めて見入っている。
そのうちの一人が、こちらを見つけるなり嬉しそうに表情を緩めた。
「凪くーん!」
「凪ー! 俺だよ俺!」
校門前に響く大きな声。その瞬間、生徒たちの視線が一斉に凪へ集まった。
ざわめく生徒たちを横目に、凪は小さくため息をつく。
「……あいつらか」
嬉しそうに手を振る怜央の隣には、穏やかな笑みを浮かべた男が立っていた。
――守谷将生 。
五人組の一人だ。
二人が並んで歩けば、人目を引くのも無理はない。ましてや、あれだけ派手に凪の名前を呼ばれてしまえば、気付かない方が無理だった。
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