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第6話 任務、開始

翌朝。 しっかり眠ったおかげか、目覚めはよかった。 ギルバートはすでに起きていた。もう支度も済んでいるようだ。 俺が寝坊したというわけではない。こいつがイヤに早起きなだけだ。 バツが悪くなって急いで洗面所に向かった。 顔を洗って手のひらに意識を集中させる。 魔素は、やっぱりまだ戻ってない。 一晩寝れば解消するかもという淡い期待はしゅんと消えた。 ……つまり、ギルバートとキスをする日々が始まった、ということだ。 「エルマ、遅かったな。どうした? 頭でも痛いか? お腹でも壊したか?」 洗面所から戻った途端、ギルバートが尋ねてきた。……そんなにかかってないと思うけど。 「別に。普通だよ」 「何かあったらすぐに言え」 「わかってるって」 「エルマ、寝癖がついてる。こっちに」 「あー、もう! こんなの誰も気づかねえよ!」 俺の抵抗も虚しく、ギルバートは有無を言わさず俺の髪をとかした。 ……始まった。 ギルバートは世話焼きなのだ。 何歳の頃からか忘れたけど、こうして俺の世話をうるさいくらいに焼きたがる。お泊まりした翌朝は必ず身支度に口を出してくる。 寝癖を直すのはいつものことで、着る服もぐちぐち口を出すし、タイがあればピーンと伸ばしたがる。 「やっぱり、昨日ちゃんと乾かさなかったから」 「うっせーな! 俺の寝癖なんか誰も気にしねぇよ!」 「俺は気にする」 ギルバートは苦い顔をする。 ……そんなに見苦しかったかな。 「体調は」 「悪くない」 「魔素は」 「…………まだ」 ぽつりと呟くと、ギルバートは「そうか」とさらっと流した。 「じゃあ、出る前に補給しておくか」 流れる手つきで俺の顎をくいっと上げて、キスをする。 「!!!???」 はねのける間もなく、舌を絡められた。 体中が熱くなって蕩けそうになってーーー (せめて、もっと、こう、ちょっとは、ためらえよ!) しばらくして唇を離される。 唾液が糸を引いて、なんだか妙にいやらしかった。 ギルバートはしれっとした顔で俺の唇についた唾液を拭う。 「今日はトラオム聖教会のセオドア司祭に会う。上級司祭のひとりだから、失礼のないようにな」 きっぱりとした声でギルバートは告げる。 意識しているのは自分だけみたいで。 「わかってるよ!」 俺はぷいっと勢いよく顔を背けた。 俺たちはトラオム聖教会へ向かった。 白亜の壁がそびえ立ち、尖塔は鋭く天に伸びていた。年季の入った建物は重厚な雰囲気を醸し出している。 この国の宗教の中心を担うにふさわしい場所だと直感で理解する。 門は開かれているのに、入るのを躊躇ってしまう。 ごくりと唾を飲み込むと、奥から白いカソックを着た男性が駆け寄ってきた。 「ルフトシュタット様、クライン様。お待たせいたしました」 五十代くらいだろうか、青い髪に白髪が混じっている。白地のカソックは金の刺繍が輝いていた。白は聖教会でも特別な色で、位の高い司祭の象徴だ。 「エドモンド・セオドアと申します。この度はお越しいただきありがとうございます」 セオドア司祭はぺこぺこと頭を下げる。 偉い人のはずなのに、そこまで丁寧にされるとかえって恐縮してしまう。 挨拶と自己紹介をそこそこに「立ち話もなんですから」と、セオドア司祭は教会の中へ案内した。 足を踏み入れた瞬間、広大な空間が広がっていた。 白い壁に高い天井。柱にはゴシック調の装飾が施されている。木でできた長椅子が並び、中心にある大きな女神像が見下ろしていた。 光と女神がオルフェリア聖教の象徴だ。 この国で信仰されているオルフェリア聖教は、一言で言えば女神信仰だ。 女神の慈愛でひとびとは魔法を使うことができ、幸せに暮らせるというもの。 信者たちが椅子に座り、熱心に祈りを捧げている。それを横目に、セオドア司祭のあとについて教会の奥へ向かった。 関係者専用の通路を通って、歩く。ひたすら歩く。 事務室や修道士の部屋、図書館や医務室が目に入る。宗教施設というよりは、教会の中がひとつの街と言ってもおかしくないくらいの充実度合いだ。 迷路のような施設を連れ回されて、地下へ。 何十分か、もしかしたら一時間くらい歩いているかもしれない。 もう誰の声も足音もしなくなって、やっとセオドア司祭は足を止めた。 ぱっと見は何もない壁だった。 なんだろう、と首を傾げていると、セオドア司祭が壁に右手をついた。 小さく呪文を唱えると、壁に取っ手がぼこっと現れた。引っ張ると、扉が浮かんでくる。 隠し部屋だ。 「こちらへ」 重そうな扉を開け、中に入る。 小さな部屋があった。窓はなく、空気が滞っている。壁は赤黒いレンガ造りだ。廊下の白い冷たい壁とは違う。 ランプの光が心許なくて、俺は手をぎゅっと握り締めた。 セオドア司祭は椅子を勧め、俺たちは席に着く。 「盗難事件が起きたと伺っております」 席に着くなり、ギルバートが切り出す。 セオドア司祭は困ったように眉を下げた。 「はい。そうなんです。お恥ずかしいのですが……とても、重要なものでして。どうしたらいいか分からず……騎士団の方に捜査をご依頼しました」 表情から憔悴がにじみ出ていた。 瞳からはじっとりとした疲れが伝わってくる。 セオドア司祭はぽつぽつと、事件の概要を話し始めた。

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