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第10話 怪しい司祭

「私っ、エルマ・クラインはっ! オルフェリアの加護に感謝しっ! 一生懸命神に遣わせていただくことをっ! 誓いますっ!!」 なんだこれは。 と、自分でも考えてしまうくらい、アホな宣誓だった。 大聖堂に司祭と修道士たちが集っている。 セオドア司祭は優しく見守って、その後ろにはわらわらと他の司祭たちもいる。 聖騎士たちも見える。総勢百人くらいがいた。 ”誓いの儀”だ。 トラオム聖教会では、新人が入ると女神像に宣誓を誓う。 体育会系みたいだなと小馬鹿にしてたら、「声が小さい!」と中級司祭からヤジが飛んだ。俺が見習い修道士だからだろう。新人のしごきだ。 数回やり直させられ、やっとオッケーが出て列に戻った。 俺たちの他にも新人がいるようで、ほかの修道士や騎士たちも同様にしごかれている。 俺だけじゃなくてよかった。 「私、ギルバート・ルフトシュタットは、オルフェリアの加護に感謝し、一生懸命神に遣うことを誓います」 ギルバートの番になった。シルバーの甲冑が似合っている。 そのせいか、司祭たち含め全員が見とれてしまい、なぜだかヤジは飛んでこなかった。 ギルバートは一回だけの宣誓で列に戻った。 ……悔しい。奥歯をぎりっと噛み締める。 なんだよイケメン大正義か? あ? 俺たち平民はしごいてもいいってか? 「これにて、”誓いの儀”を終了します。新たにトラオム聖教会の仲間になられた皆さん、これからどうぞよろしくお願いいたします」 セオドア司祭が柔らかい声で儀式を締めた。 上級司祭の中でも一番偉いのだろう、司会進行やその他もろもろを取り仕切っていた。 俺が困ってるの分かってるなら助けてくれてもいいのに。逆恨みすらしそうになる。 「エルマ、こちらへ。司祭様を紹介しますよ」 セオドア司祭が俺を呼ぶ。 ほかの修道士たちは俺にちらりと視線を配るも、そのまま去っていく。 俺は小走りでセオドア司祭のところへ向かった。 わざわざ俺を呼ぶってことは、コイツらが容疑者だぞ、って伝えたいんだろう。 ギルバートはセオドア司祭の近くに立っていた。 「こちらがベルトラム司祭になります。彼はトラオムで生まれ育って、上級司祭に。聖教会の生き字引のような方です。分からないことがあれば彼に聞くとよいでしょう」 セオドア司祭は、がっしりした偉そうなおじさんを紹介した。 「よろしくお願いします。エルマ・クラインです」 「どーも。さっきは頑張ってたね。ま、無理しないようにね」 優しい言葉だが、口調は投げやりだった。 どうせさっさと辞めるだろう、みたいな見下される空気を感じる。 がんばります、と返すと、ベルトラム司祭はふん、と鼻を鳴らす。 「そして、こちらがアインホルン上級司祭。あまり接点はないかもしれませんが。……聖典や魔法は、彼が一番詳しいですよ」 セオドア司祭は奥歯にものが詰まった言い方で紹介した。 立っていたのはすらりとした男性で、ふたりの上級司祭に比べるとかなり若い。三十代くらいだろうか。エメラルドグリーンの長髪が光に照らされてきらりと輝いている。藍色の瞳はにやりと細められていた。 目が合って、背筋がぞくりとする。 身体のなかをじろじろと透視されるような、気味の悪さを感じた。 「よろしく、エルマ」 低く艶っぽい声が妙に耳に残る。 「……よろしくお願いします」 「迷ったら僕の所に来てください。仕事でも、人生でも。そうですね、きみを悩ます、体のことでも」 「は?」 何言ってんだ、と眉根を寄せると、アインホルン司祭はころころと笑った。 ……なんか、狐みたいな雰囲気だ。 「僕なら解消できるかもしれませんよ」 急にぞわっと鳥肌が立つ。 途端、ギルバートが俺の前に立ち塞がった。 「……きみは」 「ギルバート・ルフトシュタットです。すみません、無礼な行動をして。ただ、……彼が困っているようだったので」 「ああ、そうですか」 アインホルン司祭はなんてことないような調子で続けた。 「きみは、エルマと付き合ってるんですよね」 飛び出そうな叫び声を、咄嗟に飲み込む。 ギルバートがちらりと俺を見下ろす。そしてアインホルン司祭に向き直った。 「はい。それがなにか」 「いえ、素敵なことですよね。美しい。応援してます」 アインホルン司祭は飄々とした笑顔でギルバートに握手を求めた。 ぎこちなく握手が交わしているのを見ながら、俺は、 さらっと流されたギルバートの「イエス」を、大声でかき消したくて仕方なかった。

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