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第11話 俺だって我慢してるんだ
「なんでっ! イエスって言ったんだよっ!」
「なんの話だ」
一日の任務を終え、俺たちは拠点に戻った。
バンッ!とテーブルを叩きながらギルバートを問い詰めるも、白々しい顔で首を傾げるだけだった。
「アインホルン司祭のことだよ! なんで俺たちが付き合ってるって……」
「あの場はああいうしかなかった。悪かったな」
一ミリも悪いと思っていなさそうな様子でギルバートは流す。
ふざけんな、と睨み付けるも、ギルバートは慣れた様子で話を続けた。
「おそらく”赤の間”に入るところを見られたんだろう。今後も”赤の間”で調査をする可能性を考えると、恋人設定は続けたほうがいい」
「…………そっ、」
「むしろエルマと一緒にいても怪しまれない。一石二鳥じゃないか」
そうなんだけど、俺の、気持ちはっ!!??
心の叫びをぶちまけそうになるも、ギルバートが鋭い視線を向ける。
「仕事なんだから私情を挟むなよ」
「ぐっ……」
ぐう正!!!!
ギリギリッ、と奥歯がすり減っていく感覚がする。
俺のこの感情なんか一ミリも考えてないギルバートの顔に、もやもやが腹の中でとぐろを巻いた。両手をわなわなと震わせて、怒りを必死に押し殺す。
舌打ち混じりに、ギルバートに嫌みったらしく言ってやった。
「俺はお前と違ってひとの心があるんだけど」
「……俺だってあるが」
「は?」
ギルバートはカップに口をつけて、上品な仕草で紅茶を飲む。
ひとの心がある、と言ったわりに、俺のわなわなを全く意に介していなさそうだけど。
なんだよ、とガラの悪い声で続きを促すと、ギルバートは珍しく視線を泳がせた。
「……俺だって我慢してるんだ」
ぽつり、と呟いた声は、ギルバートにしては弱々しくて。
滅多にない本音だと気づいた。けど。
……それって、つまり…………
俺と一緒に働きたくないってこと!!??
「俺だってそうだよ!!!!」
腹から声を出して、叫んだ。
俺がギルバートをこう、色々思うのはかまわないが、ギルバートに思われるのは腹が立つ。
っていうか、あんなしらっとした顔をしといて、俺がバディなの、イヤだったのかよ。
しれっとキスなんかしといてさ!
ふつふつと悔しさが込み上げてくる。
俺はテーブルの真ん中に指でスッと線を引いた。
「この線! この線からこっち来んなよ!!」
「は?」
「こっち俺の陣地な! 入ってきたら許さないから!」
ちょうどテーブルを挟んで両壁にベッドが置かれている。大体これで部屋が半分に分かれた。
ギルバートは眉根を寄せて、ずずず、と紅茶を飲む。
何言ってんだコイツ、というのがありありと伝わってくる。
「……エルマ」
「じゃあ、俺もう寝るから! 話しかけんなよ! 入ってくんなよ!」
「キスは」
「キスって言うな! ”緊急避難の魔素供給”と言え!」
「…………”緊急避難の魔素供給”はしないのか」
「明日でいい!」
ふん、と顔を背けて、俺の陣地のベッドに寝転がる。布団を被って、ギルバートに背を向けた。
「おやすみ」
ギルバートの声を、俺は無視した。
部屋のランプが消され、真っ暗になる。
ギルバートも反対側のベッドに向かったのだろう。遠くでベッドが軋む音がした。
……なんでこんな、癇癪起こしてるのか、自分でもわからない。
悔しさなのか悲しみなのか虚しさなのか、よくわかんない。
ギルバートからしたら、使えない俺と一緒にいるのなんか、ストレスだろうし。
キスだってイヤなはずだし。そんなことわかってたけど。
けど、ギルバートが、俺のことを”我慢してる”って言ったのが、無性にイヤで。
でも全部俺のせいだから、責められなくて。
布団にくるまって歯を食いしばっていた。
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