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第12話 朝の微妙な距離
「おはよう、エルマ」
朝起きると、ギルバートが反対側のベッドに座りながら話しかけてきた。まだ着替えてはいないようだ。
寝起きのぼーっとした頭で、「おはよ」とだけ返した。
妙に距離があることに違和感をもつ。
いつもなら俺のベッドまで来てわちゃわちゃと世話を焼くのに。
ていうか、先に起きたなら着替えてるはずなのに。
……ま、いっか。
俺は洗面所に向かって支度をした。
顔を洗って着替えて戻ってきても、ギルバートは自分のベッドに座ったままだった。
「着替えねーの?」
「俺の荷物はエルマの陣地にあるからな。取りにいけなかった」
「なんの話?」
「昨日。こっちの線から入ってくんなって言ってただろ」
そこまで言われて、俺はやっと昨日ギルバートに投げつけた言葉を思い出した。
……無性にむしゃくしゃして、勢いで言ったやつ。
一晩寝て冷静になると、子どもっぽすぎる言動をとってしまったと気づく。羞恥で顔に熱が集まった。
そんな戯れ言、普通に無視していいのに。なんで律儀に守ってんだよ。
かといって自分が言い出したことを「やっぱナシ」って言うのもプライドが許さなくて。
俺はギルバートの荷物を投げて渡した。
「ありがとう」
「……どーいたしまして」
なんか、やりづれぇなぁ。
感謝することじゃないだろ。俺が勝手に決めたルールなんだし。
ギルバートが着替え始める。
俺はキッチンからパンと牛乳を持ってきた。朝食だ。いつもはギルバートが用意してくれるけど、今ちょうど着替えてるから。
ふたり分の朝食をテーブルに置くと、ギルバートは目を丸くした。
「……エルマ」
「なんだよ」
「…………ありがとう」
ギルバートはふふっと顔をほころばせる。
その表情に、不意に胸の奥がむず痒くなった。
わざと視線を下げたままテーブルにつく。もそもそとパンをかじる。
「今日から教会の仕事だな。ギルバートは上級司祭の護衛だろ」
「ああ。エルマは?」
「俺は多分、事務作業だな。見習い修道士っていっても雑用らしい。ま、帳簿とかにいい情報あればいいんだけど」
裏帳簿とか見つけちゃったりして。教会の暗部に触れちゃったり?
と冗談を交えて話すと、ギルバートはパンをかじりながらやや眉根を寄せていた。
「危ないことはするなよ、エルマ。今は魔法が使えないんだ」
「わかってるよ。ていうか、ただの見習いがそんな事件に巻き込まれるわけないって。小説の読み過ぎ」
「……何かあったらすぐに俺を呼べよ」
ギルバートはため息交じりに言う。俺はちょっともやっとした。
我慢してるくらいなら、別に。そんなに守ってもらわなくてもいいのに。
昨日の話を蒸し返すのがイヤで、俺は「わかってる」とだけ返す。牛乳と一緒にもやもやを飲み干した。
今日は一日別行動だ。
それぞれ調べるべきことを確認する。
ギルバートは上級司祭のそれぞれの関係。俺は教会関係者の情報。
ある程度話がまとまって、教会へ出勤することになった。
「エルマ」
扉に手をかけると、ギルバートに声をかけられた。振り返ると、そのまま顎をくいっと上げられ、キスをされる。
心の準備ができてなかったから、心臓が勢いよく脈打つ。昨日より激しい気がして、俺は咄嗟にギルバートの胸を押した。
「なんっ……! 急なんだよ! お前はいつも!」
「昨日できなかったからな。もうちょっと流したほうがいいと思うんだが」
「いい! もう大丈夫!」
俺はぷいっと顔を背けた。
急なキスが恥ずかしかったし、申し訳なくなるし、頭はぐちゃぐちゃだった。
唾液を拭って、扉を開ける。
熱くなった頬はまだ冷めなかった。
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