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第13話 夜な夜な墓地を徘徊してるらしいよ
俺は下っ端修道士たちが集まる部屋に向かった。
一番下のヤツが現れたと知るなり、先輩たちはこぞって俺に書類を押しつけた。ろくな説明もしないまま「とりあえず丸つけとけばいいよ」って感じで。
ぎしぎしする机に座って書類の束を整理する。
……本来の任務でないとはいえ、与えられた仕事は手を抜けない。
この書類は人事関連のものらしい。
総勢五百人以上の教会関係者の情報が記されていた。住所や生年月日、来歴など。
(ま、ラッキーだな。欲しかった情報だし)
書類を整理するフリをして、情報を盗み見た。
(セオドア司祭。今年で四十七歳。マジ? もっと年いってると思った。苦労してんだな)
(ベルトラム司祭は五十六歳か。こっちは妥当だけど。セオドア司祭のほうが偉いんだな、意外。
ベルトラム司祭はなんかウザい感じだったけど……公爵なのか。トラオムって閉鎖的だし、昔っからあんな感じなのかな)
ぱらぱらとめくり、ざっくり把握する。
そして、アインホルン司祭の名前が目に入り、一瞬指が止まった。
……昨日、すごく苦手な雰囲気がしたひとだ。
見透かすような瞳が脳裏に浮かんで、ゾッと背筋が凍った。
ごくりと唾を飲み込んで、書類に目を向ける。
ゼフュリウス・アインホルン。三十三歳。
年功序列が根強い教会組織にしては、かなり早い出世だ。上級司祭ともなれば四十歳くらいでないとなれないはずなのに。
出身はエラドール。王都からはかなり離れている田舎町。
身分は伯爵。他の司祭に比べても高くはない。
最難関の学校出身だが、教会関係者なら珍しくもない。けど。
(……特別、魔力が高いなら。この異例の出世もあり得るか)
うーん、とうなりながら書類に向かっていると、先輩修道士から「大丈夫?」と声をかけられた。仕事で困ってると思われたらしい。
「アインホルン司祭の任命記録書? どうしたの?」
「あ、いや、……この間、ちょっとすれ違って。どんなひとか気になりまして」
あはは、と、気づかれないように笑い飛ばす。
先輩修道士はからからと笑いながら、「わかるー」と相槌を打った。
「なんか怖いよね。俺、喋ったことはないんだけどさ。ヘンな人っていうか」
「え、ええ」
「あのひと、夜な夜な墓地を徘徊して死体を掘り起こしてるらしいよ」
「は?」
なんだそれ、ヘンな人どころじゃないだろ。俺は真顔で固まってしまった。
先輩修道士は「こえーよな」と笑った後に、少しだけ声を潜めた。
「でも、俺……見ちゃったんだよ。夜の墓地にいたの」
「え………ほ、ほんとですか」
「うん。遠かったけど……あの後ろ姿はアインホルン司祭だったと思う」
ごくり、と生唾を飲み込む。一気に部屋が寒くなった気がした。
「いつ、ですか」
「俺が見たのは一ヶ月前。でも、その噂が流れ始めたのは……二ヶ月くらい前かな? 忘れたけど……」
二ヶ月前というと、ちょうど聖体盗難事件があったころだ。
あまり関係ない噂だとは思うが、気になる。
先輩修道士は「まあ気にすんなって」と背中をバシバシ叩いて、去る。
いつの間にか目の前に処理する書類が追加されていた。
(………っつ、つかれた…………!!!)
午前中の仕事が終わり、やっと昼休憩になった。
昼食のサンドイッチを片手に中庭に向かう。
あの狭い詰め所から出たくて仕方なかった。
狭いくせに人が多いし、古いものばっかで息が詰まる。
はぁー、と深呼吸して、中庭の隅のベンチに座った。もう、倒れ込むような感じで。
サンドイッチの包みを開けようとして、違和感が走った。指先がぴりぴりと痺れる感じがする。
仕事のしすぎかな、と気楽に考えていたのだけれど。
(………き、きもちわるい、かも)
視界が白くなって、目がチカチカする。手で口を押さえて、背中を丸めた。
うう、と涙目になりながら吐き気をこらえる。
「大丈夫?」
ふと声をかけられ、顔を上げる。
すらりと背の高い男性が俺を見下ろしている。ひらりとした白衣が目に入った。
「だいじょうぶ、です」
「大丈夫じゃないでしょ。ちょっと失礼」
男性は俺の前にかしづいて、手を取る。脈を測っているようだ。
焦げ茶の髪はややふわふわしていて、丸い眼鏡をかけている。
「魔素不足かもしれないですね」
男性はポケットから小さな袋を取り出し、俺の手のひらに置いた。ピンク色で丸い、ころんとした飴だった。
「これは?」
「魔素供給の飴ですよ」
「……ありがとう、ございます」
もらっていいのかな、とおずおずと手のひらのものを眺めていると、男性は早く舐めろという圧を出してきた。
思い切って口に含む。フルーツみたいな甘さが広がった。
「! 美味しいです」
「よかった。一時的な魔素不足だったのでしょう。症状が続くようであれば診察をオススメしますよ」
「はい。……あの、あなたは」
男性は柔らかく笑った。
「僕はオーランド・クヴァール。トラオム聖教会の医師です」
クヴァールはすっと立ち上がった。
「あ、あの! 今度お礼を………!」
「これくらいかまいませんよ。患者を助けるのが医師の務めですから」
「え、で、でも」
魔素供給の飴はかなり高価なものだ。
そんなのをタダでもらうなんてーーと、貧乏人らしい申し訳なさが込み上げていたのだが。
「じゃあ、今度なにか差し入れでもください。僕は教会の三階、医務室におりますので」
優しい瞳で微笑んで、クヴァールは去っていった。
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