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第29話 貴族のパーティー

パーティー当日。 俺は、そびえ立つ宮殿のような邸宅に言葉を失っていた。 厳かなレンガ造りの建物。立派な鉄門の隣には精巧な彫刻が立っている。 圧倒的な『格の違い』を見せつけられた。 アリュール教育学会の会員、セリーヌ・ロアシーの邸宅だ。 「エルマ! こっちこっち!」 門の奥から出てきたのはクヴァールだった。 重厚なモスグリーンのジャケット。赤の宝石が輝くブローチや金糸の装飾で、品のある貴族の姿だった。 いつもはくたびれた白衣なのに。やっぱ正装すると違うんだな。 「クヴァールさん、今日はよろしくお願いします」 「よろしく。ここまで迷わなかった?」 「大丈夫でした。……こんな立派な建物で行われるんですね」 あたりをきょろきょろしながら門を通り抜ける。大きな庭にはピンクや赤の薔薇が咲き誇っていた。 「エルマ、その服」 「はい?」 「……似合ってるね。綺麗だ」 クヴァールが柔らかく笑った。 ……昨日、ギルバートに正装を買ってもらってよかった。 とりあえずクヴァールの顔に泥を塗らなくて済んだようだ。薄いアイスグレーのジャケットを見下ろして、ほっと胸をなで下ろした。 パーティー会場に着くと、色とりどりのドレスを着た女性たちがすでに談笑していた。 真っ赤な絨毯に豪華なシャンデリア。中央はダンス会場。壁に沿って小分けのケーキや食事が置かれている。美味しそうだ。 だけど、ここで品性を見られるんだろうな、と考えてしまい、気軽に近づくことができなかった。 今回の目的は『ロゼッタの情報収集』だ。 パーティーでは、俺たちは他人のフリをすることにした。ギルバートはあとから参加する。 ギルバートは貴族だから話が合うだろうということで、多くの参加者に幅広く話を聞く係。 俺にはクヴァールというツテがある。アリュール教育学会のメンバーを紹介してもらい、深い話を聞き出すことになっていた。 ふたりで話し合って決めた。ギルバートは苦虫を噛み潰したような顔をしていたけど。 「エルマ。あのひとがパーティーの主催者、セリーヌ・ロアシーさんだよ」 クヴァールが指した先には、豪勢なドレスに身を包んだ貴婦人がいた。まわりに人を侍らせて談笑している。ザ・貴族みたいな。 俺はちょっと怖じ気づいてしまった。 けれど、クヴァールは気にせずセリーヌに話しかける。 「セリーヌさん、クヴァールです。この度はご招待いただきありがとうございます」 「あら、オーランド! よく来てくれたわね。お忙しいでしょうに」 「いえ、全然。今日はご紹介したい人がいまして」 クヴァールは俺の背に手を添える。 柔和な笑みで微笑みながら、続けた。 「彼が僕のパートナーです」 全員の視線が俺に突き刺さった。 ……パートナー? 聞き間違いだろうか。 頭が真っ白になって、差し出そうとした手を引っ込めてしまった。 「あなたが例の! よろしく。私はセリーヌ・ロアシー。アリュール教育学会のメンバーよ」 「あ、ど、どうも。あの……」 「エルマ、でしょう? 話は聞いてるわ。平民だけどとっても一生懸命なんですってね。オーランドが認めたくらいだもの」 セリーヌは感激の勢いで俺の右手をとる。ぎゅう、と握られる手が強い。 まわりの女性たちも微笑ましげに「あなたがオーランドさんの」と見つめてくる。 どういうこと。全然状況が読めない。 俺はクヴァールに助けを求める視線を向けた。せめて説明してくれよ、と縋るように口をパクパクすると、クヴァールは「ははっ」と面白そうに笑った。 「ごめんごめん、エルマ。セリーヌさん、ちょっと訂正です。僕たちはまだパートナーじゃないんですよ」 「あらそうなの。つまんないの」 「そのほうが面白いかと思って手紙に書いてしまいましたが、エルマが困ってるようなので。あんまり深く聞かないであげてください」 セリーヌは手の力をおさえて「わかったわ」と微笑んだ。一応は圧力がなくなったのでほっと息を吐いた。 ……”まだ”ってのがちょっと引っかかるけど。まあいいか。 クヴァールがそういう冗談を言うタイプとは思わなかった。 俺は改めて挨拶をし、その場の談笑に加わった。

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