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第40話 爆弾【SIDE ギルバート・ルフトシュタット】
それからベルトラム司祭に状況を伺い、部屋を出た。
セオドア司祭が部屋の前で待っており、入れ替わるように彼の部屋に入れられた。ベルトラム司祭から聞いた情報を伝えると、険しい表情で唇を噛んだ。
「ルフトシュタット様。状況はあまり芳しくないですね」
「……ええ。そうですね」
「”歴史書”には”神の御許”についての記載もあるのです。同一犯だった場合、”神の御許”の情報を求めていた可能性が高い」
俺は目を見開く。
「……その情報は、一体どのようなものですか」
「”神の御許”の実態、といいますか、その………」
セオドア司祭は言葉を濁し、唸りながら、やっと口を開いた。絶対に他言しないでください、と小さく付け加えて。
「”神の御許”は、”魔素発生・循環装置”なのです」
俺が「は?」と呟くと、セオドア司祭は声を潜めて続けた。
「魔素を生み、人々に与え、流し、吸収する。ポンプみたいなものと思ってください」
「ポンプ、ですか」
「例えですよ、ただの。実態はガラス製の瓶です」
セオドア司祭は手元の紙に図を描いた。
図には小瓶から矢印が出て、街に向かって飛ぶ様子と入ってくる様子が書かれている。
なるほど、循環だ。
「盗まれると、トラオム全域に魔素がうまく行き渡らなくなる。今のところ大きな被害は聞きませんが……次第に魔素が滞り、人々に健康被害をもたらすでしょう」
俺は眉根を寄せた。
そんな大事な情報を何で黙ってたんだ、と責めたくなった。
魔素が滞ることによる健康被害。エルマの姿が脳裏に浮かぶ。
もしかして、エルマの魔素不足は”神の御許”が盗まれたからだろうか。
トラオムに着いてから魔法が使えなくなったのだ。関連ないとは言い切れない。
早く取り戻さなければ。小さい子やご老人も危険だ。
「それだけなら、まだいいのです。魔素を供給する手段は曲がりなりにもありますし」
「それだけ、ですか。困っている市民がいるかもしれないのに」
「……過去、他の地域で起きた事件では。半年ほど聖体が教会から無くなっても大きな健康被害はありませんでした。それもあって私は”次の儀式まで”……半年後までに取り戻してほしいとご依頼したのです」
大きな被害がなければいいのか、と問い詰めたくなるが、セオドア司祭は現実的に解決できるラインを探ったのだろう。良くも悪くもリアリストだ。
そんな現実主義な彼が、”芳しくない”と言うとは。
視線で続きを促すと、セオドア司祭は低い声で、告げた。
「”神の御許”は、爆弾になります」
俺は息を呑んだ。
「爆弾……?」
「はい。”神の御許”が生み出す魔素は、多大なエネルギーを秘めています。全ての魔法の源ですからね。例えば、意図的に”神の御許”の循環を止めれば、魔素が溜まり続ける。そうしたら……」
「高エネルギーの魔素が、ガラス製の瓶の中に溜まる」
「ええ。膨らみすぎた風船みたいに、破裂する。すると」
セオドア司祭は深く息を吸って、続けた。
「辺り一面、いえ………最悪、トラオム全域が焦土と化します。それくらいのエネルギーを秘めている」
俺は、手の震えを自覚した。
爆弾。
俺たちが探していたのは、街を吹き飛ばすほどの威力を持った、爆弾だった。
ーーーもし、何らかの拍子に魔素が外に出てしまったら
”神の御許”はガラス製の瓶だ。
落としたら割れる。投げつけても割れる。蓋を開けてもダメだ。
精密に保管し、傷ひとつつかないようにしなければならない。
そうしなければ、街が崩壊する。
「私が隠していた理由、わかりましたでしょう? もし”街を破壊する爆弾”が盗まれたと知ったら、それがいつ爆発するかわからないと知ったらーーー市民は大パニックになる」
セオドア司祭はぎゅっと拳を握る。
額には汗が垂れ、瞳には焦燥が現れていた。
俺は、耳元で、心臓がうるさく鳴るのを感じていた。
こんな危険な任務に、エルマを……愛しいひとを巻き込んでしまったことを、心の底から後悔した。
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