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第41話 大事なバディを置いて行けるかよ【SIDE ギルバート・ルフトシュタット】

「……爆弾」 エルマがぽかんとした様子で呟く。 拠点に戻り、今日得た情報を共有していた。 「……えらく、やべーもんを盗まれたな」 「ああ。早く解決しないと、大勢の人が死ぬ」 エルマは現実感がないのか、「そうだな」とだけ小さく零した。一度に知るには多すぎる情報に混乱しているのだろう。 エルマが頭をガシガシと掻いて、あー、と唸る。 「なんで犯人は”神の御許”なんて盗んだんだ? テロか?」 「その可能性は高い。歴史書を盗んでまで使い方を手に入れたんだ。爆弾とみなせば、これ以上にない道具だ」 盗難から二ヶ月。犯人の動きがないのは、魔素が溜まるのを待っているからかもしれない。 準備が整えば、街を消し飛ばすことだって……。 背筋を冷やした。 何らかの高尚な目的があって、トラオム聖教会、ひいてはこの国への不満をぶつけるため。 そんなイメージが浮かび上がる。 「まあ、そんな暗い顔すんなよ。むしろ、いま分かってよかったじゃん。犯人取り押さえるときに間違って割っちゃったーとか、そっちのが最悪のケースだろ」 エルマがからからと笑った。わざと軽く笑い飛ばしてくれたんだろう。 俺も笑顔を向けようとした。エルマだって不安に思ってるのに。 ……けど、うまく笑えなくて、「そうだな」とだけ呟いた。 「大変な事件に巻き込まれたもんだな。なんで俺だったんだろ。ウケるね。運がいいのか、悪いのか」 エルマが冗談めいた口調で笑う。 けど。 俺は、息が詰まって、何も言えなかった。 エルマがこの任務に選ばれたのは、俺が推薦したからだ。 俺がエルマに会いたくて。 任務という口実がなければ、会う勇気もなかったから。 エルマは俺に会いたくなかったというのに。 (………守る、どころか。また命の危険にさらしている) 歯を食いしばる。 後悔がずっと頭を占めている。 別の誰かの名前を挙げればよかった。 誰でもいい。エルマじゃないなら。 王都でも、メーヴェでも。どこでもいい。 エルマには、どこか安全な場所で、幸せに生きてほしい。 なんなら今すぐにでも逃げてほしい。任務なんか放りだして。 ……正直、トラオムの未来より、エルマの命の方が大事だ。 俺は死んだってかまわないから、どうかーーー 「ギルバート」 エルマの心配そうな声が届いた。 俺はハッと顔を上げる。 「なん、だ」 「顔。真っ青だけど。大丈夫か……って聞くのも、変だよな。大丈夫な状況じゃねーんだし」 エルマが不器用に笑いかけた。 無理して明るくしようとしているのが伝わってくる。 情けなくなった。俺のせいでこんな目に遭ってるのに、俺はうつむくしかできなくて。 ぎり、と拳を丸める。爪が手のひらに食い込んで痛かった。 「もしトラオムが危なくなったら、エルマは逃げてくれ」 「なにそれ。なんで」 「生きて、本部に状況を伝える人間が必要だ。エルマに頼みたい」 「やだよ」 エルマがクスッと笑う。 俺は、キッと睨み付けてしまった。 なぜ断る。この理由なら、エルマを自然に逃がせると思ったのに。 けど、それらも見通したように、エルマは藍色の瞳を柔らかく細めた。 「大事なバディを置いていけるかよ」 そっと、俺の手に、エルマが手を重ねた。 「大丈夫だよ」 その声が、暖かくて。 静かな部屋に響いて、胸が熱くなった。 触れる手が温かい。 エルマの手は俺より小さいけど、しっかりした男の手で。たくさんの苦労をしてきたあとがあった。 「俺は死にたくないし、お前も死なせたくない。もちろん、トラオムの人たちも」 唇を噛み締めた。 じんわりと、優しさが体中に染み入る。 エルマの手を両手で握った。 強く、縋るように。離さないように。 「一緒に解決しよう。俺たちならできるよ」 エルマが、柔らかく笑った。 それは無理をしているのでもなく、本当に、希望を信じているような表情だった。 「ああ」 掠れた声で、返した。 それだけだけど、胸の奥に温かいものが込み上げてきて。前を向く力になった。 絶対、守る。 エルマも、トラオムの人たちも。

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