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第60話 共通点
「あーい、エルマくーん。口開けて~。んー、おっけおっけ」
ダリウスは俺の口に銀色の細いへらを入れ、ペンライトで口の中を見る。
ややボサボサの明るい赤髪と無精ひげのせいか、ダリウスの第一印象は小汚いおじさんだった。
そのせいであまり信頼できなかったが、てきぱきと俺の検診をする様子は手慣れていた。
ギルバートとカイルは後方で診察の様子を見ている。じろじろと見られて恥ずかしい。ダリウスの口調が子ども向けだから、尚更。
新たに捜査員となったダリウスとカイルを迎えて、俺たちはテーブルを囲んで話し合った。
俺が魔法が使えなくなったことを受け、騎士団本部は軍医と魔法技術者を派遣してくれたらしい。そのまま捜査の人員としても加わるためか、ダリウスは医師であり騎士で、カイルは魔術師であり、技術者だ。
俺たちはこれまでにトラオムで得た情報を共有した。
”神の御許”盗難事件と歴史書の盗難事件、そして”白の間”やアインホルン司祭から得た情報、ロゼッタの件も伝える。昨日俺が倒れてしまった経緯も。
その流れで俺の魔素不足の話になり、ダリウスに診察をしてもらっている。
「身体は健康って感じやね。でも一ヶ月も戻らんのは変やな。いままでどんな感じやったん?」
「魔法が使えなくなったのはトラオム到着からです。今日まではギルバートに魔素供給をしてもらったり、聖教会の医者に魔素入りのドリンクをもらったりして補給しました」
「ほーん。普段エルマくんは魔法どんくらい使えんの?」
「一応、魔術師なので。ここに来る前は毎日使っていました。仕事でも日常でも。今年の健康診断では320ルナでした」
「へー、結構高いね。それが使えんのは不便やね」
ダリウスはうーん、と唸りながら箱に器具を戻す。
俺ははだけさせていたシャツを戻した。
マナレギュレータも正常。ギルバートのおかげで魔素は安定。昨日倒れたけれど特に身体に問題はない。
唯一、魔素不足だけが治らない。
「普通、魔力が高いひとはバランスが乱れても回復が早いんやけど。安定しないにしてもこんな長引かん。ちょっと異常事態やね」
改めて医師に言われると背筋がゾッとした。
今までなんとかなってきたけど、たしかにおかしい。
ギルバートが不安そうに俺を見つめる。
真向かいに座っていたカイルが、椅子に浅く腰掛けながら口を開いた。
「昨日、男の子が倒れたのはトラオム中央広場なんスよね」
カイルは深い緑色の髪で、右目が隠れた青年だ。おそらく俺より少し年上だろう。
「はい。男の子が女神像に触った途端、ばちんって火花が散って。急に胸を押さえて苦しみだしました。それで魔素供給を」
「それで倒れたんスか、アンタ。自分も魔素ないのに」
「……軽率だったと反省してます」
「まーまー! エルマくんも男の子も元気になったんやろ? ならオッケーやん。そのまま男の子が死んじゃったほうが困るて」
ダリウスが割って入る。わざと明るい口調だった。カイルはぶすっとした顔で口をへの字に曲げる。
「女神像って、噴水のそばのやろ? あのごっつデカいヤツ」
「はい。しばらく様子を見てたのですが、他の観光客が触っても特に何もありませんでしたけど」
俺の後を継いで、ギルバートが口を開く。
「俺も女神像に触れたが、特に火花は散らなかった」
「だよな。………あ」
脳裏にふと、うっすらと記憶が蘇る。
「俺、トラオムに来たときに、女神像触った。あのとき………」
ばちん、と静電気が走った記憶がある。
触れた瞬間に熱くなって、咄嗟に手を引いたのだ。
……もしかして、あれは、男の子が触れた時と、同じ火花だったのかも。
「エルマが触ったとき、女神像から火花が出たのか?」
「あのときは静電気かと思ったんだけど……。火花と言えば火花だったかも」
「あの女神像はブロンズ製だ。普通、静電気は起きない」
ギルバートと目を合わせる。
胸の奥底からぞわぞわと恐怖が込み上げてきた。ダリウスが「待って待って」と間に入り込んでくる。
「えっと、整理させて。ギルバートくんが触ったときは、何もなかった。エルマくんが触ったときは静電気が走った。ギルバートくんは魔法が使えて、エルマくんは魔法が使えなくなった。これでオッケー?」
「は、はい。そうです」
「んで、その亡くなったロゼッタっちゅう子は、トラオムに来た日に中央広場で倒れた。アインホルン司祭っちゅうひと曰く、”痕跡”がなかった」
はい、と震える声で返した。拳をぎゅっと握る。点と点が繋がって、ひとつの可能性が見えてきた。
「その女神像に触れたら、魔素が奪い取られるんちゃうか」
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