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エピローグ 選んでくれて、ありがとう
「かんぱーい!」
がしゃん、と勢いよくグラスがぶつかる音がする。
夜。褒章授与式が終わって、みんなで打ち上げをしていた。
宮殿の大きな広間にわらわらと関係者が集まる。わりと気軽に騒げる会で、俺も気が楽だった。
バイキング形式で好きなものを各々とる形。壁に沿って、肉料理や魚料理が並ぶ。フルーツにスイーツも。すげえ豪華だ。
手にしているグラスには、よく冷えたしゅわしゅわのお酒。任務で疲れた身体によく染みた。
「エルマくん、たくさん食べえや。一番の出世頭なんやからな」
「マジすごいッスね。階級いくつすっ飛ばしたんスか」
ダリウスとカイルがグラスを片手に笑いかける。
ふたりはそれぞれ一級ずつ階級が上がっていた。途中からの任務の参加ってことの判断だろう。ふたりにはすっごく助けられたんだけど。
「わかんないです。……実感も湧いてない」
頭を掻きながら、はは、と笑うと、ダリウスがにやっと笑う。声を落として、そっと耳打ちした。
「んで? 返事はどうするんや」
「……え」
「まあ、そこは若いお二人でって感じで見守りましょ」
カイルがちらりと視線を向けた先にはギルバートが立っている。ギルバートは騎士団長など、偉いひとに囲まれていて、少し距離があった。
……返事。馬車の時のやつ、聞かれてたのか。まあ、ダリウスたちはすぐ後ろにいたからな。
俺は目を泳がせて、言葉を濁した。
「ギルバートくんもキザなやっちゃな。おもしれぇ男やで」
「お似合いッスよ、おふたり。いろんな意味で」
ふたりのヤジに顔を赤くしてキーッと反論すると、ふたりは面白そうにからからと笑った。
「エルマ」
ある程度パーティーが落ち着いた頃、ギルバートが声をかけた。
途端に隣に立っていたダリウスがにやっと笑い、カイルも「じゃ」と軽く手をあげて、その場を去る。……気を利かせたつもりだろう。けど、なんか気恥ずかしい。
「ギルバート、忙しそうだったな」
「ああ。世話になった人たちにお礼を言ったり。まあまあ多くて」
ギルバートは疲れた様子だった。
手にしているグラスは減らないまま残っている。
俺はギルバートを連れて、パーティー会場を少し離れた。バルコニーに足を伸ばす。とたんに爽やかな風が俺たちを撫でる。
熱気に包まれた声が遠くになって、ほっと息をつく。見上げると星空だった。無数の輝きが散らばって、思わず息を呑んだ。
「綺麗だな」
話しかけると、ギルバートは小さく、「ああ」とだけ返した。
若干の沈黙が落ちた。
式典から、いろいろなひとに囲まれて。
ふたりきりになるのはこれが初めてだ。
穏やかな静寂が心地よかった。バルコニーを背にして、なんとなく会場に目を向けた。
「ギルバート、第一級聖騎士、おめでとう」
「エルマもおめでとう。第三級正魔術師ってすごいじゃないか」
「まじ、びっくり。全然実感沸かない。正魔術師って……何が起きたのか分かってないかも。もしかして、ギルバートのおかげ?」
あはは、と笑かけると、ギルバートは、ふふっと微笑んでいた。
「俺は正直に、俺がした仕事とエルマがした仕事を報告しただけだ。過度な肩入れはしてないぞ」
「えー、あやしいな」
「俺の報告もあるだろうが、おそらく上級司祭たちだろう。聞いた話では、セオドア司祭もベルトラム司祭もアインホルン司祭も、みな俺たちの功績を騎士団に熱烈に報告したそうだ」
俺は、え、と固まってしまった。
上級司祭たちが、俺たちの功績を? そんな偉い人たちが?
それぞれクセの強い司祭たちで、特にベルトラム司祭なんかは平民を嫌ってたはずなのに。
……でも、トラオム聖教会の力添えがあったなら、この急な出世も頷けた。
「まじか。すごいひとたち相手に任務してたんだな」
「ああ。近すぎると分からないよな」
笑い合って、ぽつぽつと任務の思い出を話したりした。
アインホルン司祭は最初、めちゃくちゃ胡散臭かったとか。セオドア司祭もなんか食えない人間だったとか。ベルトラム司祭はムカついたけど、実は気のいいおっちゃんだったとか。話題は尽きない。
「そういえば、エルマには言ってなかったが」
「なに?」
「今回の任務でエルマが選ばれたのは、俺が推薦したからだ」
ギルバートがしれっと言う。
俺は口に含んでいた酒を吹き出しそうになった。
「はあ!?」
「バディは誰がいいって聞かれて。真っ先にエルマの名前を挙げた」
「な、な、なんで!?」
「エルマに会いたかった、っていう私情もあるが。エルマとなら解決できると思ったからだ」
俺は口をぽかんと開けた。
……いや、最初、なんでだろうって聞いたとき、知らないふりしてたじゃん。しらばっくれてたわけか、この野郎。
「あんなに私情を挟むなって言ってたのに。ギルバートのほうが私情挟んでんじゃん」
「そうだな。結果的にこれが正解だった」
「………もー」
グラスに口をつけて、ちびちびと飲んだ。
頬が熱くなるのを感じるが、きっと酒のせいだ……ということにしておく。
なんだよ。最初っから俺のこと大好きじゃん。
もっと分かりやすくしてくれればよかったのに。
会話が途切れて、ぎこちない沈黙が落ちた。
心臓の鼓動が聞こえちゃうかと心配するくらい。
パーティーの歓声は止まない。楽しそうな声が遠くで響いている。
「ギルバート」
グラスを強く握った。
ギルバートがちらりと視線を向ける。
「……返事、だけど」
「あ、ああ」
羞恥のせいか、声が無意識に小さくなる。
ギルバートは逆に、期待なのかなんなのか、いつもより声が少し大きかった。
その様子が可愛らしくて、緊張が吹き飛んだ。ふふっと笑いを噛み殺す。
「俺と結婚してくれ、ギルバート」
……ああ、言った。言ってやった。馬車で言われた結婚の返事。妙な達成感に、気が抜けた。
笑いが込み上げてきて、ははは、と肩を揺らした。お酒が回ってるのかも。でも、今日くらい、いいよな。
ギルバートは顔を真っ赤にして、口をぽかんと開けた。
「……い、いいのか、エルマ。俺と………」
「いいよ」
「ほんとに、ほんとに、いいのか」
「いいって言ってるじゃん」
からからと笑うと、ギルバートは強く俺を抱きしめた。手にしたグラスからお酒が零れそうになって、必死でバランスをとる。おお、とお互い驚いて、顔を見合わせて、笑った。
「ギルバート、俺を選んでくれてありがとう」
バディにも、結婚相手にも。俺を選んでくれて、隣にいてくれて。
ギルバートの瞳を、じっと見つめて、告げた。
うっとりと輝く金色の瞳は、真っ直ぐに俺を映している。
それから、俺たちは、触れるだけのキスをした。
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