101 / 101
第101話 陽一サイド<勝負の夜・コンサート>
颯太は宴会場でリハーサルをしていたが、17時から2時間は休憩の時間にしてもらった。
急なダンスでそのまま本番をやると、颯太は後半が息切れをする。
やり通したとしても、あとの体調の維持が大変だ。
3日間も連続しているので、お願いすると即OKだった。
颯太の体力がないのは皆分かっているな。
開演は20時からだ。
19時半にアメリカンバーに行った。
達也さんや旦那さんはもう来ていて、軽いドリンクやつまみを取っていた。
颯太には水や軽いドリンクを頼んだ。
招待の予約席はまだ誰も来ていなかった。
どうなんだろう?
誰も来ないままにテーブルが開いたままでやるのは悔しいな。
照明や音楽のスタッフはもう定位置についていた。
90分だから、前のコンサートと全く同じだ。
動きが小さくなるだけだ。
バーの中はすでに満席だった。
あとから来た人は入れないけれど、入り口付近やテラス席からはドアを開いたままなので聞こえる。
スタッフはテラス席に椅子を調達してきて、立っている人を案内していた。
もう入り口には入れない人たちが溜まっていた。
皆さんは突然のショーを楽しみにしているんだね。
秘書の三谷さんが、「プリントが足りないのでコピーしてきます」と走っていた。
日本から、衣装まで持ってきてくれていた。
この前に来ていたやつだけど、やはり衣装は目立つ。
そして、時間になった。
挨拶は颯太が前に出て、英語で話した。
それをアテンドがフランス語に訳していく。
「こんばんは、僕は柚音(ゆおん)です。そしてこちらは達也です。僕たちは日本の歌手です。今宵はモナコで皆さんに歌を届けることを大変うれしく思います。最初は達也が一人で歌います。ではどうぞごゆっくりお楽しみください」
いつの間にか、招待した予約席が埋まっていた。
バックの音楽もセットされていた。
達也君の美しいしっとりとした歌声で始まった。
彼のヒット曲だよね。
観客が息を呑んで聴き入っているのが分かる。
最初は達也君が40分ほど一人で歌い、踊りも入れる。
この時にダンサーの2名はしっかりフォローして、バックで踊りを入れていた。
そしてバックコーラスまでも入れていた。
達也君の声は本当に美しいし、歌がうまい。
ダンスもしっかりしている……。
「颯太が休んでも、達也君だけでも立派にステージをこなせる」
桐生社長の言葉を思い出す。
やがて、達也君が終わると、颯太はまた会話を入れる。
「ありがとうございました。では、次は僕が歌います。
この曲はテレビドラマの主題歌になって、大変ヒットした曲です。
ここでサプライズです。
実はこの曲は、うちの音楽事務所の理事である「Natsu」とデュエットなので、呼びたいと思います。
「Natsuさん。どうぞ」
えー?とばかり驚いている彼だが、ニヤッとして舞台に上がった。
彼はスタッフとしてスーツを着ている。
観客も「なんで?」という目で見ていた。
なんで事務所の理事が歌うの?って疑問だね。
でも出てきたのは長身で超イケメンの夏さんだ。
舞台に出ても違和感なし。
「では曲名は『風音』です。聞いてください」
最初のパートは颯太が歌う。
♪夕暮れの風が 頬をかすめて
遠くで誰かの声が 揺れていた ♬
やがてサビに入ると、夏さんも一緒に歌う。
♪風が運んだ 君の声が
胸の奥で そっと触れた
指じゃなくて 音で触れた
あの日の風音(かざね)が まだ消えない~♬
2番のパートは、夏さんが一人、美しい高音で歌う。
♪夜風が少し 冷たくなって
隣にいる声だけが あたたかい
高く澄んだ君の音が 影を照らし
静かな世界に ひとつ灯りがともる ♬
また二人で大サビをデュエットで歌う。
結局、観客はうっとりと聞き惚れて大拍手だよ。
……全く、あれで医者なんだから、才能が有り過ぎる。
ああ、俺はでくの坊だ……悔しい。
次は颯太のヒット曲で「透明な恋」が続く。
その後は、曲は<My heart will go on>――映画『タイタニック』のテーマだ。
この曲はヨーロッパの人々にも特別な思いがあるようだ。
すごく感情移入して聴いている。
静かに終わると、今度は軽いリズムの軽快な曲を歌った。
ダンサーも出てきた。
そして終わると、今度は達也君が登場。全員でやるんだね。
「では、皆で歌って踊ります。『Dynamite』」
もうここで観客が爆発。
外国人ってノリが良すぎる。
足踏みするし、皆手拍子で一緒に歌っちゃってるよ。
日本とやっぱり違うな。後ろの方なんか踊っている人がいた。
「ではここで5分、プロジェクションマッピングをお楽しみください」
颯太が挨拶をすると、サーッと引き上げていった。
ここでミュージカル曲のために、着替えるんだよね。
その間にマッピングが会場全体を埋め尽くす。
観客は初めて見る人が多いのだろうか。
「うんまあ~」なんて感じ?(笑)。
映像を手で触ろうとする人多数。
皆で手を出しているからおかしい。
こっちもクスクス笑ってしまう。
あ、招待席!
何気に見ると、全席埋まっているではないか!
そしてやはり同じように手で映像を掴ろうとしていた。笑える。
そして映像が色々と変わっている間に、ミュージカル「アラジン」の世界になった。
横からささっと登場した颯太と達也君。
颯太がマイクを握る。
「次はミュージカルのアラジンから、『A Whole New World』です」
マッピングの幻想的な光が流れる中、達也君の歌から始まる。
そしてかぶせるように颯太が歌う。
デュエットが映える曲だ。
この二人のコンビは最高かもな。
「では二人で歌います、ミュージカルから『Beauty And The Beast』」
すぐ颯太のハミングで柔らかく始まった。
メロディーも美しいけれど、二人の声はどうしてこんなにきれいにハモるんだろう。
本当に聞き惚れた。
そして終わった。
颯太と達也君が並んで挨拶をする。
「皆さん、今日はゆっくり聴いてくださって、本当にありがとうございました。
お楽しみいただけたでしょうか?」
「イエ~イ」と拍手喝采だった。
「ありがとうございます。
このプログラムはあと二日間続きますので、また是非お越しください。Merci beaucoup」
最後のありがとうは達也君も声を揃えた。
そして二人は手を振りながら出口から出ていった……んだけど、お約束か?
拍手は鳴りやまず、また二人が出てきた。
「では、アンコール曲は『SING/シング』です」
ピアノはロニー先生だ。凄い!
颯太と達也君が交互に歌ったり一緒に歌ったりだ。
軽快で明るい曲だね。
そしてまた拍手喝采の中を無事に終えることができた。
はあ~。もう息絶えた……聴くだけで体力を消耗してしまった。
松永さんを見ると、あれ?いない。
出口を見ると、達也君を抱きしめていた。
思わず立って、くそーっと思った瞬間、颯太が胸に飛び込んできた。
抱きしめた!
「颯太、本当にすごかったよ!」
「えへへへ」いつもの笑いだ。
ともだちにシェアしよう!

